Japanese
This is LAST × YP
2020年12月号掲載
This is LASTがリリースした初のフル・アルバム『別に、どうでもいい、知らない』は、3ピース・サウンドの原点にかえることで、バンドの新たな可能性を切り拓く作品だ。だからこそ"今までにないミュージック・ビデオを作りたい"という想いから、リード曲「ひどい癖」に、FIVE NEW OLDやGorilla Attack、ヤバイTシャツ屋さん、yonigeなど、多くのアーティストの楽曲に斬新な視点を加える気鋭の映像監督、YPを迎え、"失恋系ロック・バンド"の常識を打破する新しいミュージック・ビデオを完成させた。そこでSkream!では、This is LASTとYPとの座談会を実現。その話題は、ミュージック・ビデオ論をはじめ、制作への"逃げない"こだわり、TikTokバズが起こる音楽シーンへの考察など多岐にわたり、ジャンルを超えたクリエイター同士の想いが重なる内容になった。
This is LAST:菊池 陽報(Vo/Gt) りうせい(Ba) 鹿又 輝直(Dr)
映像監督:YP
インタビュアー:秦 理絵 Photo by うつみさな
ミュージック・ビデオは音楽を拡張するものじゃないといけない(YP) YPさんは、僕らの世界観を拾うんじゃなくて、ぶつかってきてくれたんです(りうせい)
-まずは今作「ひどい癖」でコラボすることになった経緯から聞かせてください。
りうせい:僕らからYPさんにお願いしたんです。僕がバンドマン仲間と飲みに行ったときに、ミュージック・ビデオの話になって。"いい映像クリエイターさんはいないかな?"みたいなときに名前が出たんです。で、改めていろいろな映像を観て、一気に惹き込まれたんですよ。"流れていく映像"というよりは、"魅せていく映像"というか。
YP:ありがとうございます。
りうせい:そこにすごく感動したんですよ。「ひどい癖」のミュージック・ビデオを作るにあたって、独立した映像作品としても楽しめるものを作りたいなって思ってたので。
陽報:今までの僕らのMVって、自分たちの演奏シーンがあったり、"よくあるロック・バンドのMV"でまとまってたんです。でも今回はいい本人たちが出ないドラマ仕立てにしたかったんですよね。
輝直:ミュージック・ビデオを観終わったあとに、映画を観終わったかのような感覚があるというか。ミュージック・ビデオの域を超えたものを目指したかったんです。
-バンドから声が掛かったとき、YPさんはThis is LASTのことを知っていましたか?
YP:実は知らなかったんです。でも、うちのスタッフの子たちは知ってて。
陽報:えー、嬉しい!
YP:勉強不足だなと思いましたね。
陽報:そんなことないですっ!
YP:それから今までのミュージック・ビデオを拝見させてもらって。言ってたような"流れちゃう映像"っていうところを変えたいんだなと思いました。今流行ってるミュージック・ビデオって似たような作品が多いんですよ。メジャーで活躍しているアーティストですらそうで。"これだったら曲を聴いてるだけで良くない?"みたいな。ミュージック・ビデオが音楽の拡張になってないんです。
-"音楽の拡張"。それがYPさんの考えるミュージック・ビデオの意味なんですね?
YP:まさに。音の情報に、映像の視覚的な情報をプラスしたときに、曲の世界観が広がるような仕掛けとか演出があって、初めてミュージック・ビデオが成立するんです。音楽に対する理解を深めて、どう拡張したら、This is LASTの世界観が広がるか。そういうことを考えて内容を企画しました。それは僕が普段から映像を作るうえで意識していることです。
-LAST(This is LAST)のように、失恋を歌うロック・バンドの楽曲だと、ミュージック・ビデオにパターンが確立されているようには感じます。雰囲気のある女優さんが登場して......。
りうせい:アンニュイな感じのね。
YP:それで真ん中に明朝体の歌詞が出てくるっていう。
-「ひどい癖」はそういうセオリーを外して作られてますよね?
YP:普通にやると、アンニュイな女の子を出してメンバーの演奏シーンを挟んで、みたいなことが簡単にできると思うのですが、今までの作品を観させてもらって、This is LASTは歌詞のメッセージを大切に扱うような構成を感じたんです。だから、まったく新しいことをやるよりも、その歌詞を大切にしたうえで自分なりの解釈をしたかった。もう少し設定を詳しくして、より曲の世界観を深めるほうに構成していきました。
-バンドとしては、「ひどい癖」って、アルバムの中でどんな立ち位置の曲として作ったんですか? もともとリード曲の候補だったのか。
陽報:最初に作った段階から「ひどい癖」はリードでしたね。ただ、あとからどんどんいい曲ができてきて、一瞬、「耳にピアス左をしない理由」がリードに決まりかけたんです。で、そのあと、"本当にこの曲に人生をかけられるか?"っていう話し合いのなかで、より新しい自分たちの曲を見せたいっていうところで、最終的に「ひどい癖」になったんですよ。
YP:たしかに、「ひどい癖」は引っかかりがあって、面白いですよね。
輝直:シンプルな四つ打ち系のリズムではあるけど、新鮮ですよね。
りうせい:でも、最初は普通の曲だったんですよ。
陽報:転調もなくて、のぺっとした曲だったよね。聴いたときの印象に残らないというか。
輝直:でも、これじゃあ、今までのLASTじゃない?ってなって。
陽報:歌詞の事件性を引き出すような、自分たちのイメージにまだ達してなかったんですよ。「ひどい癖」は、詞だけを読むとかわいそうな恋愛の話なんですけど、自分の中では"歪んだ愛情"っていうテーマがあって。でも、その歪みがすごくまっすぐだったりする。その矛盾を書いてるんです。YPさんの映像は、そういう僕らがやりたったことを全部汲み取ってくれてるんですよね。サビをピークに持っていく見せ方もそうですし。
-イントロから物語がじわじわと始まっていくような構成ですね。
陽報:そう。イントロは、最初にキックが入って、次にビートが鼓動のようになるんです。そこに裏打ちが交じってきて、ダンス・チューンのような匂いを漂わせながら、素直だけど、ちょっとドラマチックなベースが入ってくる。その最後にギターが入ることで一気に広がるんですよ。
YP:この曲のミュージック・ビデオでは、イントロから徐々に人物に寄っていく映像になってるじゃないですか。最初の引きのシーンは抽象度が高いけど、どんどん物体が具体的になっていく。あれは音数が増えていくにつれて、"どんな音楽か?"っていう具体性が増してくこの曲の映像版をやってて。だから、音と映像が合ってるんです。
-今話してくれたようなイントロの意図であったり、"歪んだ愛情"っていうテーマって、事前にバンドとYPさんとの打ち合わせの中で共有しているものなんですか?
陽報:いや、基本的には物語のリアルなストーリーまでは伝えないようにしてます。映像作品では、自分たちがやりたいものをやるんじゃなくて、映像監督の方、今回で言えばYPさんと一緒にタッグを組むことで、合作として新しいものを作りたいので。ひとりひとりの解釈に委ねたいんです。
YP:創造性がある人に頼むときは、何も言わないほうがいい気がしますね。それがお互いの思想を純度高く反映させるためのヒントだと思います。逆に相手の解像度が低いときは、"こういうふうにしたい"って伝える必要がある。基本的にバンドの人たちのほうが僕らよりも音に対しての解像度は高いんですね。当たり前ですけど。で、僕ら映像の人間も、何年もこの仕事をやって、ようやく高い音の解像度に辿り着く。そうなってくると"この音だったら、新しい要素を取り入れることで、今まで観たことのない作品を作ることができるな"みたいなのはわかるので。事前に説明をいただいたとしても、いただかなくても、最終的にゴールは近いものを作れるはずなんです。
陽報:僕らの曲に対する、YPさんの理解は本当にありがたくて。僕らはこだわりが細かくて、今までは"ちょっと違うな"って感じるときもあったんですけど、今回はまったくないんですよ。
りうせい:僕らの予想を超えるものを作ってくれてますよね。ただ僕らの世界観を拾っていくんじゃなくて、ぶつかってきたものなんです。
陽報:りうせいがこんなことを言うのは珍しいんです。バンドの中で一番こだわりが強いから。僕らふたりも苦労するんです。何回も心を折られてる(笑)。なのに、YPさんが作ってくれたものを観たときに、"人が変わったんかい!?"ってくらい絶賛してますから。
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