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INTERVIEW

Japanese

This is LAST × YP

2020年12月号掲載

This is LAST × YP

This is LAST:菊池 陽報(Vo/Gt) りうせい(Ba) 鹿又 輝直(Dr)
映像監督:YP
インタビュアー:秦 理絵 Photo by うつみさな

-ちなみに、LASTの曲って、普段は人に言わないような恥ずかしい部分を曝け出すというのもひとつの特徴になっていて。「ひどい癖」は......。

陽報:まさにそういう曲ですよね。

りうせい:俺、この歌詞はちょっと引いた(笑)。

陽報:おいっ!

-"酔った勢いで君の下着を引っ張り出すなんて"とか、よく書きましたよね(笑)。

陽報:それが僕の性癖ですから。しょうがないんです。

YP:僕も彼女の下着を引っ張りだしたことあります。

一同:えー!?

陽報:仲間じゃないですか!

YP:みんなやらないんですかね?

陽報:そう、男の子にはそういうところがあるんです(笑)。

YP:そういう表現もあったから、「ひどい癖」は、歌詞を丁寧に扱おうっていうのがテーマとしてありましたね。女性陣からしたら、結構なキモさはあると思うんですけど。そこを堂々と扱うことによって表現になる。ぼかしてやるよりは、ちゃんとやろうって思ったから、キャストさんに下着を引っ張り出して、被ってもらったりしてます。

一同:あはははは!

-歌詞をタイポグラフィにして、映像の中で遊ばせるような見せ方も良かったです。

りうせい:あれは革命ですね。

輝直:普通のミュージック・ビデオだと、画面の右とか下に表示されるだけだけど、それだとマンネリ化しちゃうもんね。

YP:歌詞を入れるミュージック・ビデオって、基本ダメなんですよ。

りうせい:それ、打ち合わせの段階から言ってましたね。

YP:映像編集をしてるとわかるんですけど、歌詞を入れると間が持つんですね。映像が間延びしてるときに、人って歌詞を読むんですよ。「ひどい癖」ではそれをやらずに、歌詞をストーリーの演出として入れ込んで、リリック・ビデオとミュージック・ビデオが融合した新しい作品にしてますね。ただ歌詞を入れるだけのほうが楽ではありますけど。

-絶対に楽はしないということですね。

YP:クリエイターは絶対に楽をしたらダメだと思います。安直に"歌詞でいっか"って思うのは簡単ですがクリエイティヴではないと思います。そういう逃げはしたくないですね。

-"逃げたくない"って、すべてのクリエイターが直面する課題かもしれないですね。

YP:そうだと思います。

-この取材を始める前に、余談で"エモーショナル"っていう表現は、ライターとして逃げてるっていう話をしたじゃないですか。何がエモいのか、どうエモいのか、なぜエモいのか。そこまで書くのがライターの仕事だっていう。

YP:エモーショナルって言っておけばいい、みたいなことじゃなくて、細分化して言語化するのが大事っていうことですね。間違いないと思います。

-ただ原稿には締め切りがあって。"もう言葉が出てこない!"というときに、"エモーショナルでいくか"って妥協したくなる気持ちもわからなくはない。

YP:そうなると、みんなエモーショナルになっちゃう(笑)。

-そう。要するにものを作るうえで時間とかお金の制限はある。そういうなかで、LASTの場合、"これをやったら逃げだな"って歯を食いしばるのはどんな瞬間ですか?

YP:あぁ、たしかに聞いてみたい。

陽報:作詞の部分で、完全に満足ができなくても、ある程度ストーリーが成立していれば、あとはアレンジでなんとでもできちゃうっていう考えがよぎることもあるんです。言葉は大したことを言ってないけど、いい曲にはできちゃう。でも、そうじゃなくて、This is LASTは歌詞が土台にあって、その歌詞をもとにバンドのサウンドが鳴るというか。それを丁寧にやっていかなきゃいけないなって思ってるんです。でも、どうしても本当に締め切りが、納期が......みたいなときには、それをリライトするのは勇気がいるんですよね。1回書いた歌詞って、どれも愛おしいので。

りうせい:そこで喧嘩するよね。僕が"もっとAメロを詰めてほしい"とか言って。

陽報:ふんばる瞬間ですよね。

-リズム隊ふたりは?

輝直:同じフレーズを叩いちゃったときかなぁ......。

陽報:やっぱり癖で出ちゃうからね。

輝直:そういうときは、りうせいが"また同じなんじゃない?"って選別してくれるので。

りうせい:そうね、曲が増えていくにつれて、そこは難しくなっていきますよね。ボキャブラリーが増えない限りは、ずっと同じ枠の中でしか戦えないから。

YP:自分たちの曲でさえそうなのに、他の人の曲とも被らないようにしなきゃいけないって考えると、さらに大変ですよね。歴史が経てば経つほど、音楽も蓄積されていくわけじゃないですか。2000年後の人たちとか、どうしてるんでしょうね。

りうせい:そうなんですよ。サビなんかは、曲の頂点として際立たせたいから、音数が増えるぶん差別化できるけど、ポイントはAメロ、Bメロなんですよ。

陽報:パターン化されちゃうよね。一番キツいのは正解がないことなんです。言っちゃえば、何をやってもOKじゃないですか。でも、"正解がないこと"が逃げになるんですよ。作ってるときに、これでしょって自分で言おうと思えば、言えちゃう。それを自分たちが本当にやりたいド真ん中まで持っていくためには、考え続けなきゃいけないし、病み続けていくんですよね。

-もしかして、アルバムの最後に収録されている「病んでるくらいがちょうどいいね」は、そういう葛藤の中で生まれた曲ですか?

陽報:そうです(笑)。最初にできた曲ですね。「ひどい癖」を書いているときに、途中でまったく浮かばなくなっちゃって。俺、もう曲を書けないんだ、終わったなって沈んでたんです。で、こうなったら、書けないことを書いたんです。それが「病んでるくらいがちょうどいいね」ですね。

-そこから「ひどい癖」の続きが書けるようになったんですか?

陽報:ヤバかったですよ。そこからは菊池無双です。歌詞が出る出る(笑)!

一同:あはははは!

陽報:1回ちゃんと自分と向き合えたのが良かったんでしょうね。

りうせい:すごいよね、曲を書けないから曲を書いたって。ずっと曲を書いてるだけだからね。

陽報:まぁね(笑)。

-YPさんは、制作の中で病むことはありますか?

YP:んー......あんまりないですね。基本的に、僕は受注制作なので。投げられた球をどう打ち返すかなんです。球を投げる側のクリエイターには、"正解がない"っていう葛藤があると思うんですよ。でも、打ち返すほうには、ある程度正解があって。それがヒットなのか、ツーランなのか、ホームランなのか、飛ばす距離とか美しさを探すのが僕らの仕事なのです。だから、今日の話でよく出てくる"同じような作品が多くなる"っていうのは、ヒットですよね。それぐらいだったら、簡単に打てるけど、ホームランを打とうとすると体力も必要だし、球を見極める目も必要だなとは思います。

-なるほど。

YP:あの、今から全然関係ない質問をしてもいいですか?

-どうぞ。

YP:「白日」(King Gnu)と「香水」(瑛人)って、どっちを聴いたときのほうが悔しかったですか?

陽報:あぁ......

りうせい:すごい質問を投げてきたなぁ(笑)。

陽報:僕は「白日」が好きです。ちょっと危うい言い方だけど......「香水」もいい曲ではありますが、今の自分たちも含めて、完全に飽和しきってる失恋系バンドと同じ匂いのする歌詞なんですよ。"ドルチェ&ガッバーナ"っていう歌詞がインパクトになって、SNSとかTikTokを中心に認知度が上がったという現象だと思っていて。

輝直:TikTokからYouTubeに流れていったよね。

陽報:逆に言うと、「白日」はプレイヤーからしても、めちゃくちゃかっこいい。メンバーひとりひとりが自分の個性、プレイ・スタイルを持ってて、またそのプレイ・スタイルが集まって、バンドのスタイルになってる。それはバンドとしての理想ですよね。

りうせい:だからミュージック・ビデオも、本人たちを見てるだけで十分ですし。

YP:楽曲の力で説得してる感じですよね。

陽報:音楽家としてちゃんと尖ってるなと思います。

YP:なるほど。ミュージシャンからはそう見えるのかぁ。

-YPさん、どうしてそういう質問をしてみたいと思ったんですか?

YP:映像クリエイターの中でも、あいみょんさんとか米津(玄師)さんなどトップ・アーティストのMVに関して、ここがいい/悪いみたいな話をよくするんです。音楽シーンを席捲する映像でも、ポップで面白おかしく流行るもの、めちゃくちゃかっこ良くて話題になるものがあるから、目線をバンドに置き換えたときに、「香水」も「白日」も、熱狂ではあるけど、専門職の方がどう捉えているのか気になって。

-今何が流行っているかを客観的に分析することも、クリエイターの仕事のひとつだと考えていますか?

YP:SNSとかコンテンツがどうバイラル(浸透)していくのかは、クリエイティヴ・ディレクターとして考えますね。今のTikTokのバズを見てると、確実にそれが新しい戦い方として存在してるじゃないですか。そこに対して、"いやいや、自分には関係ないんで"みたいな感じだと置いていかれちゃう部分もある。This is LASTは、そのへんの時代の波とはどういうふうに付き合おうと思ってるんですか?

陽報:たしかにTikTokっていう新しい市場のことは無視できないですよね。そこでバズることを積極的に狙いにいってるバンドもいるんです。

YP:なるほど。

陽報:ただ、基本的に僕らの身の振り方としては、自分の音楽性を変えてまで、狙いにいくものではなくて。自分の音楽性を貫いた先にTikTokがあるほうが健全だと思うんです。

りうせい:プロモーションの一部として存在する感じだよね。

陽報:そう。TikTokに力を入れてるわけではないけど、それで聴いてもらえるなら、音楽家として嬉しい。それは、あくまでも自分たちの主戦場はライヴだと思ってるからですね。絶対にステージに立ち続けたいし、デカいステージに行かないといけないという1点を見つめていたいから、そこに立つために、自分たちが無視できないもののひとつに、TikTokも入ったんだなってぐらいの気持ちですかね。そうだよね?

輝直:まぁ、バズりたいはバズりたいけどね(笑)。

一同:あはははは!

陽報:めちゃめちゃ本音言うやん(笑)!

輝直:それはあるよ、やっぱりうらやましいし。

りうせい:でも、軸はブレちゃいけない。

陽報:うん。ロック・バンドとして生きる場所はライヴなので。それは守りたいなと思います。

-なるほど。YPさんが攻めた質問をしてくれたおかげで、This is LASTが何を大切にしてバンドをやっているかっていう部分が浮き彫りになりましたね。

陽報:ありがとうございます!