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LIVE REPORT

Japanese

This is LAST

Skream! マガジン 2021年09月号掲載

2021.08.16 @渋谷TSUTAYA O-EAST

Writer 秦 理絵 Photo by Masanori Fujikawa

"生音で届けられないのが悔しいです。でも、無観客に切り替えなきゃいけないと決断した日、僕たちは誰も俯いていなかった。今できることをやろうっていう気持ちでした"。ライヴの終盤、菊池陽報(Vo/Gt)が、この日のライヴに懸ける想いをそんな言葉で伝えた。This is LASTが5月から開催してきたバンド史上最長のワンマン・ツアー"夏休みは始まる前が一番楽しい"のファイナル公演だ。会場となった渋谷TSUTAYA O-EASTは、約3年前に、まだ結成からわずか半年だったLAST(This is LAST)が、Skream!、TOWER RECORDS、Eggsがタッグを組んで開催したイベント"HAMMER EGG vol.10"でオープニング・アクトを務めたステージであり、いつかワンマンで帰ってくると約束をしていた思い入れのある会場だ。新型コロナ感染拡大の影響で、この日は残念ながら無観客になったが、YouTubeによる完全無料配信ライヴとして決行。帰ってきた約束の地で、3年間で大きく進化したバンドの今を刻んだ。

ステージに登場した、陽報、りうせい(Ba)、鹿又輝直(Dr)は、まずこぶしを突き合わせて気合を込めた。"千葉は柏から、This is LAST始めます!"という、陽報の第一声。1曲目は「オムライス」だった。お客さんと一緒にシンガロングできるパートが盛り込まれた、心踊るバンド・サウンドの中で、陽報が、"ニッポーン! オムライスは食べたいですかー?"と、楽しそうに問い掛ける。輝直のビートが軽やかに加速した「恋愛凡人は踊らない」ではハンドクラップを誘い、まさに目の前にお客さんがいるかのようなパフォーマンスだ。続けて、「見つめて」と「アイムアイ」へ。陽報の、切実で、まっすぐなヴォーカルによって、恋の痛みが抉るように紡がれていく。

オレンジの光がステージを染めるなか、りうせいの、テクテクと歩を刻むようなベース・ラインが優しくボトムを支えたのは、今回のレコ発ツアーの主役でもある「ポニーテールに揺らされて」だった。この季節にぴったりの真夏のミディアム・バラードが、片思いの切なさをやさしく描く。音源にはない、深いリバーブを効かせた浮遊感ただようインタールードから突入した「艶麗」、陽報とりうせいの兄弟コンビが背中合わせのプレイで魅了した「プルメリア」へと、新旧の楽曲を織り交ぜ、様々な見せ場が盛り込まれたステージ。それはもう、3年前のように"立たせてもらった"O-EASTではなかった。This is LASTは、O-EASTに立つにふさわしいバンドになって、この場所に帰ってきたのだ。

りうせいが画面越しのハイタッチで視聴者とのコミュニケーションをとったMCでは、初めての人も多いだろう、ということで、"お互いのいいところを言い合う会"と称した自己紹介コーナーへ。まず輝直が"りうせいは、お母さん的な存在。あき(陽報)は、ムードメーカー。締めるときは締めて、バンドを正しい方向に導いてくれる"と言うと、陽報は"てる(輝直)はいつも平常心。あとはライヴでミスが少ない!非常に優秀(笑)。(りうせいは)オシャレ。それに尽きる"と、少し照れながらもグッズ・デザインを手掛ける弟のセンスを絶賛した。最後のりうせいは、"てる君はね、多くを語らないところが好き。必要なことだけ言ってくれる。行動で示す。そのスタンスがめちゃかっこいい"と、リズム隊の相方を褒め倒したあと"あきはね、肩幅が広い。あと毛が硬い"と、兄弟ならでは(?)のボケでまとめた。普段はやらない、こんなMCも無観客ライヴならでは、だろう。

ライヴの後半戦は、LASTの真骨頂でもある、失恋系ラヴ・ソングをこれでもかと畳み掛けた。歌い出しの強いインパクトで一気に楽曲の世界に引きずり込んだ「愛憎」では、"変わらないことで有名なあの信号機"という歌詞に合わせてステージの照明が青、赤、黄色に点灯した。ドラム、ベースが1音ずつ重なり、最後に陽報のアルペジオが華やかに炸裂する「ひどい癖」に続き、しっとりと聴かせたバラード曲「バランス」と「結び」では、3ピースの生演奏にストリングスのシーケンスを重ね、ドラマチックな景色を作り上げた。作品を作るたびに試行錯誤を重ね、様々なアプローチで楽曲を磨きあげてきたからこそ、今のThis is LASTのライヴは、多彩で、奥深い。

最後のMCでは、冒頭に書いたとおり、陽報がギターをかき鳴らしながらこの日のライヴの意味を噛みしめた。そして、"あなたがこの先どんな恋をするのか。何を頑張るのか。仕事なのか。勉強なのか。その傍に僕の書いた音楽が、This is LASTの音楽が最高に似合うと思います"と迷いのない口調で語り掛けると、"僕はこの先も、あなたのために、喉を鳴らして、筆を走らせて、たくさんの音楽を作っていこうと思います"と、声を大にしてバンドのこれからに託す想いも伝えた。

"大切な思い出を歌います"と、ピンスポットを浴びた陽報がギター1本で歌い出し、次第にバンド・サウンドが加わった「終電」から、いよいよライヴはクライマックスへ。「ディアマイ」では、"僕があなたの声を背負って叫びます! 全国に届いてくれっ!"と、是が非でもこの歌を届けたいという強い気持ちを爆発させると、ラスト・ナンバーは「殺文句」だった。一瞬、歌詞を飛ばした陽報が困ったようにりうせいのほうに目線をやる場面もあったが、最後まで衰えることのない熱量のまま全力で駆け抜け、全16曲、約90分のライヴを締めくくった。"僕たちの音楽が、この先のあなたの人生の希望に少しでもなりますように。あなたが幸せでありますように"。最後に、願うように残した陽報の言葉が印象的だった。

思い返せば、3年前のO-EASTでLASTが歌ったのはわずか3曲だった。「純愛」、「終電」と「殺文句」だ。当時のライヴ・レポート(※2019年1月号掲載)に、私は、"打算も戦略もなく、ただ体当たりで伝えるエモーショナルな歌が胸を打つ"と書いた。あれから大きな成長を遂げた彼らは、あの日とは比べものにならないぐらい頼もしくなり、楽曲をより良く届けるための"戦略"を持てるバンドになった。"胸を打つ歌"の強度もぐっと増していた。何もかもが進化していたのだ。きっと、その進化はまだまだ止まらない。この日のO-EASTは、そんなことを思わせてくれるのに十分な素晴らしいライヴだった。


[Setlist]
1. オムライス
2. 恋愛凡人は踊らない
3. 見つめて
4. アイムアイ
5. ポニーテールに揺らされて
6. 君が言うには
7. 艶麗
8. 囘想列車
9. プルメリア
10. 愛憎
11. ひどい癖
12. バランス
13. 結び
14. 終電
15. ディアマイ
16. 殺文句

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