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INTERVIEW

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阿部真央

 

阿部真央

Interviewer:石角 友香 Photo by 石崎祥子 ヘアメイク:橘房図 スタイリスト:HALKA

2019年1月21日にデビュー10周年を迎え、その週は2度目の日本武道館ライヴベスト盤リリース、29歳の誕生日、そしてツアー・ファイナルの神戸公演と怒濤のアニバーサリー・イヤーの幕を開けた阿部真央。今年最初の新曲は17枚目のシングルにして両A面にしてダブル・タイアップ。話題の映画"チア男子!!"とゲームを原作とするTVアニメ"消滅都市"の主題歌という、新たなリスナーとの出会いも大いに予測できるリリースだ。シンプルで短い主題を説得力抜群のヴォーカル力と表現力で伝える今回の2曲。作家としての冷静な視点や真摯なものづくりの姿勢も窺える彼女の言葉を伝えていこう。


書き下ろしはミッションが多いぶん、燃える。自分の曲を自由に作るときとは違うスイッチが入ります


-今回のシングルはダブル・タイアップということで、映画やアニメというお題ありきでの制作だったと思いますが、そこと阿部さん自身のモードとの擦り合わせはいかがでしたか?

私は結構こういうタイアップによる書き下ろしも好きなんですよ。自分の気持ちとかはプライオリティ的には一番下なんですけど、作品に寄り添っていて、なおかつ作品のファンに喜んでもらえる、作品を作るコアなチームにも喜んでもらえる、その人たちの意図を汲む、そして原作の意図も汲む、となると結構ミッションが多い。でもミッションがこれぐらいあると燃えるというか、縛りがあると同時にヒントもいっぱいある。だから自分の曲を自由に作るときとは違うスイッチが入って、楽しいんですよね。今回のふたつは、原作が小説だったりゲームだったり、まずベクトルが違う。描き方も違って、ストーリーが完結しているものと完結していないもの。ファンの層も全然違う。"チア男子!!"に関してはアニメにもなっていたので、いろいろ意見を汲みたいものが多かったから楽しかったです。

-"チア男子!!"のティーザーで、阿部さんが撮影現場に訪問している映像があって。

現場には2回行きました。1回目は撮影前に主演の中尾(暢樹)さんや何名かのメイン・キャストの方が練習してるところを見て、2回目は学園祭のシーン、一番大切なシーンの撮影を見に行って。みなさんすごかったです。

-チアなんて最初はまったくできないことで。それが現実にできるようになっていく。

そう。"できるようになるんだな"と。1回目に行ったときはみんな揃ってなかったっていうのもあるけど、自分の能力を高めていくことに個々が一生懸命なイメージで。私もそのときは曲の取っ掛かりも何も作ってなくて。で、2回目に訪問したときはある程度、曲の構想ができているなかで行ったんですけど、やっぱり撮影の段階になると、監督も含めてみんながチームになっていて。私は一歩引いたところで見ていたんですけど、撮影が終わってみんなでわーって話してる感じが、もう部活っぽいというか。だからそのチーム感、一体感が、撮影してる画を見てるだけでも伝わってきて、"あぁ、これはすごく素敵だなぁ"と感じたんです。

-監督からのオファーは何かありましたか?

私の曲に「Believe in yourself」(2014年リリースの11thシングル表題曲)っていう曲があるんですけど、それを"チア男子!!"のモデルになったSHOCKERSという男子チア・チームの人たちが実際に使ってくれていたことがあったらしくて。その映像が焼きついていて離れなくて、私にオファーをくださったんですね。その話を聞いたときに必然的に似たようなテーマなんだろうなと、まず思ったんです。で、監督は"大学生でチア男子をやって、やり遂げます。でも、やり遂げてその先ずーっとこのメンバーたちがチアをするかはわからない。だから今、これだけ一生懸命やってることが将来に生きてくるかなんてわからない。そういう刹那的なものに打ち込むことがエモい、そういうことを描きたい"、"そこで培った誰かと一緒に頑張るとか、個の力を高めていくっていう経験はその先どんな道を選んでも生きてくるはずだから、その先の人生も応援したい"ってことを言ってたんですよ。それが結構私の中の要約ポイントで、"わかりました。じゃあそういう曲にしましょう"と言って書いたんです。

-時代も関係しているんでしょうね。少し前まではチアは女子がやる競技だと思われていたし。

ジェンダーを超えてね。この間、アメリカのスーパーボウルで初めて男子チアがふたりメンバーに入ったっていうのを見て、それがすごく衝撃的で。"チア男子!!"が公開される前に、これはすごくいい流れだなと思ったんです。時代に合っている感じがしますね。

-クリアしなきゃいけないミッションがたくさんあるなか、歌詞はすごくストレートに書かれているなと思いました。

ありがとうございます。めっちゃ頑張りましたよ(笑)。自分の歌だったらストーリーをAメロから最後までで組み立てられるんですけど、この場合ストーリーはすでにあるんですよね。映画を観たあとに流れるものだから、ストーリーを長々言ってもしょうがない。言おうとしてることはひとつなんです。で、監督が反応した「Believe in yourself」って曲がずばり、曲の中にストーリーがあるというよりは、ひとつのことをどのぐらい視点を変えて、手を替え品を替え、説明するって曲なんですよ。でも同じことは言いたくない。そういうテーマのもと作るっていうのは結構ハード・ミッションだったんですよね。それは「答」の方も一緒だったのでかなり考えました。何を言いたいかってコアが大きく明確にないと、周りを装飾できないというか。だから"これを書く!"って決めるまでが苦労しましたね。

-核心は阿部さんが撮影訪問したときに主演の中尾さんが言っていた"僕の歌"っていうことなのかな? って。

そうなんです。中尾さんが"僕の歌だと思って頑張ります"って言ってくださったのに対して、"じゃあ、あなたの歌を書きます"って言ったんですけど、それが頭から離れなくてタイトルを"君の唄(キミノウタ)"にしました。すごくいいヒントをいただいたと思います。もうひとつ他の人の言葉を借りたところがあって。1番Bメロのところで"駆け抜けた夏"っていう言葉があるんですけど、これは監督の言葉なんですよね。"大会に向けて練習に打ち込む時期は夏ごろですよね"みたいな話をしたら、"そうですね、駆け抜けた夏"ってボソッと言って。"すごくいい言葉ですね。歌詞にします!"と、そういった経緯で書きました。なので、この曲はいろんな人の血もちょっとずつ貰いながら書いた曲です。

-書くときは監督みたいな気持ちかもしれないけど、歌入れはどうでしたか?

楽しかったですよ。歌うときはシンガー的な視点で歌うから"ここのピッチが"とか、ピッチを超えて"ここはこういう気持ちで歌ってるから、ちょっとアウトさせたいんだ"とか。しかもこれが去年の10月にした声帯結節の手術のあと、一発目のレコーディングだったんですよ。だから声がきれい。"5歳ぐらい若い声だよ"って先生に言われたんですけど(笑)、たしかに23~24歳ぐらいの『貴方を好きな私』(2013年リリースの5thアルバム)のときの声に似てるというか、近いんですよね。非常に爽やかな声色になったので、"あぁ、ぴったりだった、良かった~"、と結果良ければすべて良し、みたいな感じでした(笑)。

-ムードとしては前作の「変わりたい唄」(2018年10月リリースの16thシングル表題曲)があって、"変わる"っていうのがベースにあるような気がします。

それはずっとあります。テーマとして未だに続いてるっていうのもあるし、単純に「変わりたい唄」と「君の唄(キミノウタ)」と「答」を書いた時期が一緒で。オファーをもらったのが去年の夏とかだったんですよ。だから実は取り掛かり始めたのはこっちの方が早いぐらい。図らずも前作のシングルから2作連続で同じようなテーマというか、変わりたい自分を肯定したいとか、それが自分の中でメインのテーマになってるんだなっていうのは、今聴いても思いますね。

-しかもそれが10周年のタームの中の出来事で。10年って長くもあるけど、まだまだこれからじゃないですか? 一番変わりたいと思う時期でもあるのかなと。

そうですね。キャリア的にも年齢的にも30代を前にして、10年ってやっぱり節目ですよね。

-20代の間ってしんどいことも体力とかで乗り切っていけるから。

でもそこから先って――私、結構ヴィジョンが持てない人間なんですけど、ある程度のヴィジョンがないと、効率良くいけないことに気づいたというか。がむしゃらにできる時間が10年前に比べると少ない(笑)。体力が少なかったり、いろんなことを知りすぎてコンサバになっていたりとか。勢いじゃないところで考えてやらないと、思うように進まなくなるっていうのもあるかもなぁってちょっと思います。

-実際に完成した映画は観ましたか?

作品に携わってるので試写会へのお呼ばれとかもされていて、まだチャンスはあるのかな? でもやっぱりお金を払って映画館でも観たい。お客さんと一緒に観たいんですよ。どんな人が観に来るのかも気になるから。