Japanese
阿部真央
Skream! マガジン 2020年09月号掲載
2020.08.05 @渋谷WWW
Writer 石角 友香 Photo by 笹森健一
最新アルバム『まだいけます』で、デビュー10周年以降、彼女の中で再び加速した歌への情熱と、セルフブランディングの強さを明確に示してくれたことは記憶に新しい。新型コロナウイルスの影響を受けて、ミュージシャン誰しもがツアーやライヴを延期せざるを得ないのは致し方ないことなのだが、阿部真央の2020年には殊更、期待が高まっていただけに正直、残念な気持ちも大きかった。だが、吹っ切れまくって、阿部真央として生きていくことに腹を括った彼女はラジオのレギュラー番組や、ONE OK ROCKのTaka(Vo)が呼び掛けた同世代コラボでも、強風に折れない柳の如きしなやかさで、時に笑わせ、時に本音で共感を集めた。こう、イノセントなまま技を獲得し、アップデートされてる感じなのだ。
そんな今年の阿部真央の初めての生配信ライヴがどんなスタイルとスタンスで行われるのかに力点を置いて見てみた。が、ライヴの時間が迫り、チャット欄に溢れるコメントを見ているとファンの温かさと興奮が伝わってきて、モニター越しでもアーティストによってムードは異なるものだなと実感する。定刻を少し過ぎ、阿部真央がステージに登場。タブレットと紙束を見ながら、ファンからのリアルタイムのコメントと事前に集めたエピソードに応えながらライヴを進めていくらしい。どこか公開ライヴ&ラジオといった趣きが新鮮だ。 アコギの弾き語りのみで進めていく1曲目は「ロンリー」。歌うだけで弾けるばかりの笑顔。水を得た魚とはこういう状態の人を指すのだろう。潔いエンディングに続き、8月12日から配信スタートする新曲「Be My Love」を初披露するのだが、"令和2年、さらなる高みを目指してということで、これは伏線だと思ってもらっていいんですが(笑)、今までで一番キーが高いんですよ。しかもバンドで私は歌唱に専念するような曲なんですが、今日は弾き語りで"と、いきなり新曲の核心部分を披露。たしかにAメロからすでに高い。恋した人がこちらを見てくれたら......という瑞々しい思いが突き抜ける歌声を伴って、遠くへ届いてほしい気持ちを具体化する。もしかしたら恋愛のみならず、今、こんな状況だからこそ、ただ同じ空間にいたいという思いを含んだ歌にも聴こえた。
ミュート・カッティングが弾き語りにソリッドなアクセントをつけて熱を帯びる「まだいけます」。フェミニンな衣装でもステージに仁王立ちになって歌う彼女はライヴハウスという地面からエネルギーを吸い上げて放出しているように見える。勢いよく歌い切ったところで、タブレットと紙束に目を通して、リアルタイムでコメントにリアクション。ダイエットの話題には"細くてもパワフルな声を出せる人もいるんですけど、歌うために本人がどう自信を持って生きているか? じゃないですか。私も悩んできたけど、吹っ切れたの。プラスサイズのモデルさんとかも活躍しているしね"と、歌うという生業、役割を担った阿部真央としてより良い状態、マインドであることが何より彼女にとって大切で、心地がいいのだということを示唆。こういう話題は女性をエンパワメントしがちだが、彼女の言葉は性別も世代も超えて響くニュアンスがある。どんなあなたも、それがあなたが掴んだ心地よさなら自信持っていけ! そう勝手に解釈してからの「貴方の恋人になりたいのです」は、この曲ができた当時の彼女を大人になった彼女が優しく見つめるような包容力も。普段のような夏休みが過ごせない今年、それでも若い恋を止めることはないし、切ない思いに浸るのもいい。一気に入道雲の広がる8月の空があっという間に秋になる予感を表現して、続くはコード・ストロークで8ビートを作り出す「READY GO」。ハイトーンもいいが、低音もまた魅力的。
再びチャット・コメントを確認して、"ひとりだけど私は楽しいですよ。みんながワーワー言ってくれてると思うから"と、「どうしますか、あなたなら」へ。このナンバーもパーカッシヴなストロークと歯切れのいい歌唱が、完璧じゃないまま生きていく勇気を聴き手の中に芽生えさせる印象。さらに事前のファンからのエピソード紹介の中でも人気が高く、"マイ・ソング"として糧にしている人が多い「Believe in yourself」へとつなげる。自分がどこまでやれてるかは自分が一番よく知っている。"気高く命燃やせ"というフレーズは先が見えない今、何を信じることがベストなのかの回答だ。エール・ソングというより、もはや人生の通奏低音。彼女は声でそれを伝えることに特化している。だから心臓の真ん中に命中して、いつでも思い出してこの曲をガソリンにできるんだと思う。半年以上、ライヴをやってなかった人の声とは思えない。ひたむきに続けることだと自分にも言い聞かせる。
"やっぱりライヴ楽しいですね。音楽を作ったり、ラジオとか好きな仕事をやらせてもらってるんだけど、歌を届けるって当たり前のことじゃないんだなって今回のことでわかって。でもこんな状況でもライヴをやって聴いてくれてる人もいるし、これは私にとって大きな一歩です"と、確信を掴んだ表情で語った彼女。本編ラストはユーモアといつものライヴの流れも汲んでなのか、「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」で締めくくり。家々で"3丁目、3丁目"のシンガロングが起こっているのか? と想像すると楽しい。潔く歌い切って、ステージをあとにした、のだが、なんとフワちゃんの物真似付き。そのクオリティが高くて笑ってしまった。
アンコールは誰もが同じ空間のもとで会いたいと願う気持ちを代弁してくれるように「I wanna see you」。歌い始めると俄然、人間の声でしかなし得ない感情の揺さぶりと力強さを発揮しつつ、トークでは今このときの彼女を素直に表す。配信ライヴという発信方法でもデビュー12年目の阿部真央のあり方はしっかり受け止めた。いい意味で、"じゃあ自分はどうする?"と思わせてくれる1時間だったのだ。
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