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INTERVIEW

Japanese

阿部真央

2023年09月号掲載

阿部真央

Interviewer:森 朋之

今年7月にプライベート・レーベル KAGAYAKI RECORDSを立ち上げた阿部真央から、アコースティック・セルフカバー・アルバム『Acoustic -Self Cover Album-』が届けられた。新曲「I've Got the Power」を含む本作には、「ロンリー」、「貴方の恋人になりたいのです」、「Don't leave me」、「お前が求める私なんか全部壊してやる」などの代表曲/人気曲を収録。新たなアレンジで再レコーディングすることで、原曲の奥深い魅力と現在の阿部真央のヴォーカル表現をたっぷりと堪能できる作品に仕上がっている。新たにスタートを切った彼女に、本作の制作プロセス、現在のモード、この先のヴィジョンなどについて語ってもらった。


「I've Got the Power」は"今感じていることを正直に書こう"と思った


-阿部真央さんは今年7月、ポニーキャニオン IRORI Recordsと提携したプライベート・レーベル"KAGAYAKI RECORDS"を設立しました。レーベル名の由来を教えてもらえますか?

レコード会社やレーベルの名前って、アーティストの形容詞みたいになってる感じもあるじゃないですか。"阿部真央はポニーキャニオン"とか、"ヒゲダン(Official髭男dism)ってIRORI Recordsだよね"とか。アーティストの名前とくっついているワード(レーベル名)として、素敵な言葉のほうがいいなと思ったんですよ。"阿部真央って、KAGAYAKIだよね"って、ちょっといい感じでしょ。

-たしかに。"輝き"ですから。

そうそう(笑)。この先、"阿部真央がいるレーベルに入りたい"と思う人がいたとして、その名前が"KAGAYAKI"ってすごくいいじゃないですか。とにかくきれいな言葉にしたかったし、これからKAGAYAKI RECORDSから発信していく音楽が、世の中にいろんな輝きを広める役割を果たせたらいいなという願いも込めてますね。

-まさに言霊ですね。

うん、本当に言霊ってあると思っていて。名前って、人生の中で一番投げ掛けられる言葉なんですよ。その言霊をずっと受け取っているわけだから、いろんな影響があるんじゃないかなって。阿部真央は本名ですけど、"マオ"という名前の人って、芯が強そうな人が多いような気がしません?

-そうかも......いろいろな"マオ"さんの顔が浮かんできました。

でしょ(笑)。"リカ"だと、華やかでお嬢様らしい雰囲気がありつつ、気が強いところがありそうだなとか。"ハルカ"はちょっとホワッとしてるとか。私は曲を書いて歌っているから余計に思うのかもしれないけど、言葉の響きってすごく大事だし、名前は慎重に付けたほうがいいなって。レーベルの名前も、きつい音とかザリザリした音にしたくなかったんですよね。

-なるほど。では、新作について聞かせてください。まずは8月に配信リリースされた「I've Got the Power」について。カッコいい曲ですよね。

カッコいいよね! イケてるなって自分でも思います(笑)。

-阿部真央さんのリアルな感情が表現された歌にもグッときました。これはいつ頃書いた曲なんですか?

前の事務所を独立する最中だったから、書き始めたのは2月か3月の末で、できあがったのは5月くらいかな。最初にサビのメロディが浮かんできて、そこからコードを拾ったり、平歌の部分を作っていって。そのなかで"終わりの狭間で見た"の歌詞とメロディができたんですよね。(事務所の独立に際して)1回終わるんだなって思ったし、そのなかにどっぷりと足をつけたときに、初めて感じること、初めて見えてくるものがすごくあったんです。"終わりの狭間で見た"というワードは、私の中で言い得て妙というか、まさにドンピシャだったんですよね。

-当時の心境を表すフレーズだった、と。

はい。終わりを受け入れたからこそ新たに見えてきた道があったし、そこから"KAGAYAKI RECORDS"に向かい始めて。"I've Got the Power"、つまり"私にはこんな力があったんだ"と思えたのも、終わりを体験したからじゃないかなって。この曲の2番で"たくさんの顔を見た"と歌ってるんだけど、それも本当にあったことなんですよ。ずっとお世話になってきた事務所を離れることになって、いろんな方に相談したんですけど、みなさんがいろんな顔をしていて。心底、心配してくれて"できることがあったら連絡してね"と言ってくれる人もいたし、親身になってくれる人、本気で力を貸してくれようとくれる人、変わらずにそばにいてくれる人もいて。そうじゃなくて――悲しいことだけど――今回のことをきっかけにして、去ってしまう人もいたんですよね。

-そういうシリアスな経験を経て、"どこまでも行ける 今の私ならば/怖くてもまた この場所に立つから"という決意に辿り着く。この曲の中にもリアルなストーリーが描かれてますね。

火事場の力ってやつかも(笑)。追い詰められたことで本気になった......もちろんずっと本気でやってきたんだけど、今回の出来事でさらにギアが入ったというのかな。この曲の冒頭のフレーズは本当に好きだし、歌うたびにそのときの気持ちを思い出しますね。

-阿部真央さん自身も、「I've Got the Power」にエンパワーされているのかも。この曲ができたことで、先に進んでいける確信が持てたのでは?

そうですね。曲を作っていく段階のなかで強くなれたというのかな。プリプロして、デモ音源を作って、その時点で"いい曲になるはず"という感じがあって。今回はMori Zentaro(SIRUP、iri、香取慎吾などの楽曲を手掛けるトラックメイカー/プロデューサー)さんという"初めまして"の方にアレンジをお願いしたんですけど、自分の中にあった曲のイメージ、音のイメージを全部説明したんです。音の細かい部分もそうだし、マスタリングに至るまで、かなりこだわって。それはアルバム(『Acoustic -Self Cover Album-』)にも繋がっていくんですけど、自分の頭の中で鳴っている音、見えているイメージを人に伝えて、関わってくれる人たちの力を借りながら、相乗効果で形にしていく作業の楽しさがすごくあったんです。それは自分のやる気にもなっているし、自信にもなってますね。

-曲を作っているときのイメージをそのまま具現化できるようになった、と。

伝えた方も上手くなってるんだと思います。デビューした頃は"私は音のプロではないし、任せたほうがいいな"と思ってたんですけど、今は15年の経験があるし、語彙力も上がっていて。自分の感覚を正しく伝えるところから始めて、アレンジャーさんやエンジニアさんの意見も聞きつつ、お互いにリスペクトを持ちながら制作できるようになったんだと思います。「I've Got the Power」はまさにそうで、Mori Zentaroさんのアイディア、和田建一郎さんのアコギの生音、エンジニアの方のセンスなどの相乗効果によって、自分のイメージがさらにブラッシュアップされて。すごくいいクリエイションだったと思います。

-Mori Zentaroさんに大事な曲のアレンジを託したのはどうしてだったんですか?

アレンジを誰にお願いしようかって、KAGAYAKI RECORDSのスタッフのみなさんと話をして、何人か候補を挙げてもらって。私としてはヒップホップとかのトラックを作ってる人がいいなと思っていたんですけど、その中のひとりがMori Zentaroさんだったんですよね。それもたぶん、これまでのチームとは全然違う提案だったんですよ。実際にMoriさんの作品を聴かせてもらって、私の音楽に比べると明らかにドープな感じだったんだけど、"「I've Got the Power」をアレンジしてもらったら、きっとポップになりすぎず、カッコいい音になるはず"と思って。初めての方と制作をご一緒することで私の感覚も研ぎ澄まされていくし、本当にいいセッションでしたね。

-素晴らしい。「I've Got the Power」は何度かライヴで披露されていますが、反響はどうですか?

すごくいいと思います。自分のファンクラブ・イベントと、岡崎体育さんとの対バン・ライヴ([okazakitaiiku purezentsu "TECHNIQUE" Vol.5])でも歌ったんですけど、その最中もすごく楽しかったし、周りのスタッフのみなさんの反応も良くて。SNSでも、体育さんのファンの方が"阿部真央さんの新曲めっちゃカッコ良かった"って言ってくれてて、"ちゃんと伝わったんだな"って嬉しかったですね。

-素晴らしい。

もうひとつ良かったことは、この曲を作りながらファンクラブ・イベント("あべまにあ限定イベント2023")とアルバムの制作を同時進行でやっていたんですよ。イベントで弾き語りしたり、アコースティック・アルバム用の小編成のアレンジをやっていたから、「I've Got the Power」でも"アコギは入れたほうがいい"というアイディアが出てきて。全部が繋がってたんだなって思いますね、今振り返ってみると。

-そうか、『Acoustic -Self Cover Album-』の制作も同時にやってたんですね。

そうなんです。最初に着手したのは「I've Got the Power」なんですけど、それと同時進行で、ギターの和田さん、鍵盤のミトカツユキさんとスタジオに入って、過去の曲をどうアレンジするか考えてたので。