Japanese
阿部真央
2017年02月号掲載
Writer 石角 友香
阿部真央、出産後初のアルバム『Babe.』が完成した。女性アーティストにとって大きなライフ・イベントである出産後の作品は、時として"人生観一変しました!"と言わんばかりの大きな愛を提示されたりすることもままあり、若干、苦手だ。いや、人として大きな愛を実感しない方がむしろおかしいのだが、要は大きな出来事だからこそ表現者として、アーティストとしてのスタンスやセンスも明確に表れるタイミングなのだと思う。特にそれまでの作品で、愛に悩み、時につまずき、自己嫌悪にもなり、人として赤裸々な表現を行ってきた人ならなおさら、その変化に注目されてしまうのは確かだ。で、彼女は見事に阿部真央のまま、今まで得たことのなかった感情を作品に昇華した。
ファンは、彼女がライヴでしか披露しない「母の唄」に溢れる全方位での母への思いを知っているだろう。作為のないその歌に呼応するように、彼女は一筆書きのような「母である為に」というシンプルで素朴な歌を今回書いた。
"一番考えずに書いたかもしれないです。それこそ離婚したときに思ったのかな。この子は母親が前に出てる人間であるためにおそらくこれからいろんなことを言われるだろうし、100パーセントそばにいてあげられないかもしれない。でも子供が一番嫌なことって親と向き合えないことと、親の悪口を言われることだと思う。自分がそうだったから。だから「ごめんね」って気持ちがすごくて、でもお母さんはあなたを産んだとき、どんだけ幸せだったかという気持ちも残したいなと思って"
彼女にとってのドキュメントだが、その作為のなさが普遍性を帯びた記念碑的な曲に着地したのだ。
このアルバムは守るべき命を得た喜びと覚悟だけが描かれたものではないのも、阿部真央という表現者がずっと歌を作っていくことを示唆している。何と言っても終わっていく愛について、切なく生々しい言葉をダークな曲調がさらに強烈に悲しみと諦観を描く「愛みたいなもの」が1曲目に配置されているのだ。正直、穏やかではない。しかしその作詞方法について"核になる気持ちは自分が感じたものだけど、フィクションというか想像の部分を増やしたんです。これまでは真実じゃないことを書くのはタブー視してたというか、偽物みたいに思ってたけど、x楽しみ方だなって思えるし、それが評価されたら自信にもなると思ったんです"と話す。それはシンガー・ソングライターとしての成長であり、事実、震えるような悲しみとともに情景が浮かぶサウンドスケープやアレンジにも結実したと言えるだろう。
サウンドスケープの広がりは、アレンジャーのakkin(※ONE OK ROCK、MAN WITH A MISSION、木村カエラなどを手掛け、阿部真央の作品ももちろんお馴染み)の洋楽志向もストレートに開いた部分も多々あり、若干懐かしめなハード・エッジなロック・チューン「逝きそうなヒーローと糠に釘男」や、阿部いわくOASIS、それもLiam Gallagherのヴォーカルを自分なりに消化したという歌唱の「You Said Goodbye」での、大胆さと繊細さを兼ね備えたアンサンブルも新鮮に響く。アルバムを通して心に刻まれるのは、妥協のない生き方だ。穏やかさは求めても、妥協の末の安定は忌避する。人間・阿部真央の生き方は変わらないのだろう。そしてアーティスト・阿部真央はよりタフに人生上の経験を新たに得た手法で作品に昇華していく。"お母さんになったらもっとオーガニックな感じになんのかな? と思ってた"とあっけらかんと笑う彼女。いい意味で予想を自分でも裏切った、まさに阿部真央にしか作れない新しい歌が、『Babe.』には詰まっている。
▼リリース情報
阿部真央
7thアルバム
『Babe.』
2017.02.15 ON SALE
[PONY CANYON]
【通常盤】(CD only)
PCCA-04492/¥3,000(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
【Loppi・HMV限定盤】(CD+DVD)
BRCA-00078/¥3,500(税込)
HMV
[CD](全形態共通)
1. 愛みたいなもの
2. 逝きそうなヒーローと糠に釘男
3. Don't let me down
4. You Said Goodbye
5. 母である為に
6. この時を幸せと呼ぼう
7. You changed my life
8. Hello, Brand New Days
9. バイバイ
10. gasp
11. POSE
12. 女たち
13. 背中
[Loppi・HMV限定盤特典DVD収録]
・「You changed my life」Music Video
・「Don't let me down」Music Video
・「女たち」Music Video
・「母である為に」Music Video
・「逝きそうなヒーローと糠に釘男」Music Video
・あべまおらじお~超超番外編~
・特別企画!阿部真央の知らない「女たち」
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一瞬、デビュー当時のようなポップ・パンクな曲調に"あの阿部真央が帰ってきた"と早とちりしそうになるのだが、帰ってきたのではなく、常に彼女は前を向いて"変わっていきたい"人なのだ。遥か彼方でもあり自分の心でもある場所へ叫ぶ"変わりたい もっと自分を生きたい"という大声とメロディが、瞬時で自分の動力になる。表題曲はそんな曲だ。同じ想いで統一されているこのシングル、アコギがザクザクと鳴り、命の鼓動を感じさせるような「まだ僕は生きてる」も、素直なメロディを空に放つような「なんにもない今から」も、生きているということそのものの可能性と、行動に移すことができる自分の内なる火種に気づかせてくれた。Track.4はファンから募ったワードで構成した歌だが、お互いへの感謝の言葉は限りなく近い。(石角 友香)
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アルバムの冒頭で深い悲しみや諦念を達観した歌唱で聴かせる「愛みたいなもの」が本人いわくのフィクションだとしても、その濃度に引きずり込まれる。そして吐き捨てるような言葉とハードなサウンドの「逝きそうなヒーローと糠に釘男」と強靭な楽曲が続き、かと思えば新機軸と言える大文字の洋楽ロック的な「You Said Goodbye」で、阿部真央の新たなヴォーカル表現に感嘆。そして母として、我が子への偽らざる思いを冷静とすら思える言葉で綴った「母である為に」に含まれた何重もの意味には、似た状況にある人も、誰かの子供であるすべての人も強く心を揺さぶられるだろう。また、愛と妥協について深く頷く女性も多そうな「POSE」なども。表現の幅は広がったが人間を軸で捉える阿部真央の魂は不動だ。(石角 友香)
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1年6ヶ月ぶりとなる、オリジナル6作目。痛快に鼓舞するアッパーなTrack.1「這い上がれMY WAY」も、"大人になるほど怖くなり、でも震える足で前へ進もう"と歌う、いかにも阿部真央らしい「優しい言葉」も刺さるだけじゃない包容力がある。すでにシングル・リリースされている「それぞれ歩き出そう」や「Believe in yourself」もアルバムの流れの中で聴くと、さらに楽しさや力強さの置所に感心してしまう。Aimerに提供した「words」のセルフ・カバーもいわゆる王道のピアノ・バラードというジャンルよりやはり切なさというエモーションに直接響く仕上がりに。12曲各々、異なる主人公が歌っているようなヴォーカリゼーションの千変万化ぶりも味わえる、アルバムらしいアルバム。 (石角 友香)
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進学、就職など、多くの人々にとっても人生の大きな分岐点であり、たくさんの変化を得る時期となる19歳から24歳。19歳でシンガー・ソングライターとしてデビューし、今年でデビュー5周年を迎えた阿部真央が、その5年間で制作した全シングル曲を、時系列でコンパイルしたのが今作だ。代表曲の応酬からは彼女のヴォーカリゼーションの変化などを感じ取る楽しみもあるが、この5年間、彼女はいつも人間誰しもが抱く/抱いた感情を自身のフィルターを通して発信していることを再発見できたことは大きい。様々な人の想いを吸収できる彼女の歌は、曲の中に聴き手の居場所を作っていた。これは彼女が多くの人々に表現を発信していることに自覚的な証だ。この若さでそれをぶらさず続けてきたことに尊敬の念を抱く。(沖 さやこ)
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