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INTERVIEW

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阿部真央

 

阿部真央

Interviewer:石角 友香

つくづくアーティスト・阿部真央は赤裸々な表現者だと思う。しかもそれが時にドライなほど、人間/女性としての普遍的な存在を俯瞰して見ているところに物作りに対する凄みと信頼を寄せてしまう理由でもあるのだが。前作『おっぱじめ!』以降に出産と離婚という怒濤の経験をした彼女。まっすぐすぎる感情で記した歌もあれば、物語に昇華した歌もある。さらにはテーマが広がったことでサウンドスケープも格段に幅が出ているのだ。10代のころの彼女の、人間の繊細さも狡猾さも濁さず表出してきた核心はそのままに、物語の完成度で聴き手を共振させる術も手に入れた阿部真央の傑出したアルバムについて訊く。

-阿部さんという人はつくづく自分の人生をドキュメントする人なんだなと思いました。というのも、プライベートを知らずに聴いてたんですけど、今作『Babe.』の1曲目「愛みたいなもの」が穏やかじゃないぞと思いまして。

はははは! バラードなのに穏やかじゃない(笑)。歌詞がねぇ。

-アーティスト・阿部真央と、人間・阿部真央の間があまりない人だとは思うんですけど、この作品と向き合うときにそこを切り分けなかったんだなと。

今回に限らず毎回そうなんですけど、自分の感じたことやその状況みたいなものを曲の中で表現することにあんまり抵抗がなくて。曲を作る頭の方では、すごく変な言い方をすると"あぁ、曲にできてよかったな"、すごく嫌な言い方をすると"ネタが尽きなくていいかな"って思うんです。もちろん、離婚とか失恋はやっぱり悲しいし、それはそれで人間・阿部真央は悲しんでるんですけど、曲を書く方の私はすごい喜んでるというか(笑)。

-"喜ぶ"までいきますか?

喜びますよ(笑)。ほんと、"また曲書けた"みたいな。そこがあるからやってられるし、たまに自分に対してドライなところもあるなとは思いますね。だから今回も別に抵抗ないっていうか(笑)。で、全部が全部ほんとでもない、っていうのもひとつ救いなのかもしれないですけど。

-「愛みたいなもの」は悲しみもあるけれど、最初にあることで"けりをつける"みたいな感じもあるのかもしれない。そのあとの2曲はサウンド的にも強度があるし。

うん、怒ってる感じの曲ですもんね。

-だからそのへんの怒りの感情の出し方も違う。

まず「愛みたいなもの」は内容というより、音源としての出来がものすごく良かったんですよ。で、MVも作ってないから、まずしっかり聴いてほしいなと思った曲だったので1曲目に置いて。今の私が今の状況で出すアルバムの1曲目にこれを持ってくるって、ファンの人とか聴いてる人的には、"あぁ、こういう気持ちなんだな"ってわかるじゃないですか。それもありましたね。この曲は一番フィクションなんですよ。感じた気持ちももちろん入れてるんですけど、一番フィクションで一番客観的に見れるものだったから、余計にさっきの"悲しいときに笑ってる方の私"、"ネタできてよかったじゃんって思ってる方の私"が、今の状況の阿部真央がこれを1曲目に持ってくるのはありだなと思って入れたっていうとこもあるんです。

-アルバム全体の始まりに相応しい出来であると。

うん、そうですね。あとは今回、新しい歌詞の書き方もしていて。心情的にもそうなんですけど、作詞の方法としてフィクションというか、想像の部分を結構増やしたんですね。上手に言えないけど、今までリアリティを求められてる気がしたし、"リアリティを描いてるんです、阿部真央さん"みたいな紹介のされ方が多かったので、私ってそうあらないといけないみたいに思ってたんですよ。でももうそういうことを書くこともなくなってきたし、なんか全部が全部、真実を書くのは得策じゃないかも、と思って。核になる部分は自分が感じたことなんですけど、ストーリーとかバックグラウンドとかは自分が決めた配役の人に歌ってもらうような気持ちで書く、というようなことを前のアルバムでもちょっとやったんです。で、今回はそれをより意識して、一番成功したのがこの「愛みたいなもの」なんですね。だからこの曲を1曲目にすることによって多くの人に聴かれるし、現状の私が出すアルバムの1曲目ということで、いろんな人が強い印象を受けるだろうし、さらに楽曲として、もしいい曲だとか評価されたとしたら自信になるっていうか。だからその反応を見たいし、そういうチャレンジもあってこの曲を1曲目にしたんです。

-これからの歌詞の書き方を今作の冒頭で示したと。

そうですね。よりそういうふうになっていかないと、長く続けられないし。前はどこかで偽物みたいにタブー視してたところがあるんですけど、全然そんなことないなと。改めて、それもひとつの音楽活動の楽しみ方だなって。で、結果としてリスナーの方が自分の曲として消化してくれたり、歌ってくれたり、聴いてくれたりすればもうそれでいいことだなとも思い始めました。

-逆にフィクションじゃない曲は?

曲の中では「バイバイ」(Track.9)じゃない(笑)? これぐらい言わないとねっていう気持ちですかね。もちろん母親になった気持ちを歌ってる曲はすべて真実なんだけど、より生々しいという意味ではやっぱり9曲目の「バイバイ」かな。なんか、なんだろ? ま、彼もそうだったんだけど、別に憎んでるとかはもうないんですよ。でも憎んでなかったか? というと嘘になるし、怒りがなかったか、悲しみがなかったか、というと嘘だし。こんだけ苦しい思いしたんだったら、1曲ぐらい真実に触れるじゃないけど、より赤裸々に書く曲があってもいいんじゃないかなみたいな。もともとそうしてきたはずだなと思って、逆の発想転換をしたというか。要は、最近はストーリーを作ること、描くことに重きを置いてたなかで、ちょっと1回立ち返ってみようと思って赤裸々に書いた曲が「バイバイ」です。