Japanese
そこに鳴る
2019年04月号掲載
Member:鈴木 重厚(Gt/Vo) 藤原 美咲(Ba/Vo)
Interviewer:山口 智男
-J-POPと言えば、「業に燃ゆ」も歌で始まるじゃないですか。歌で始まる曲もそこに鳴るとしてはそんなにないですよね?
藤原:たしかにないですね。
鈴木:「エメラルドグリーン」(2016年リリースの2ndミニ・アルバム『YAMINABE』収録曲)ぐらいですね。あの曲はめちゃめちゃシンプルにしたから、"これでええんやろか?"って思ってたんですけど、かなり人気があって。そういうポジションの曲を作りたいと思いつつ、「掌で踊る」はややこしすぎて、"聴かれへんわ。もっとポップじゃないと"っていう人も掬いたい。でも、「掌で踊る」ぐらいバチバチな演奏もある位置づけの曲と考えて、いろいろありつつたぶん歌始まりになったんちゃうかな。
-作っているときはそこまで考えていないかもしれないけど、できあがったものを改めてひもとくと、考えていないと言いながら、どの曲もちゃんとコンセプトがあるわけですね?
鈴木:「業に燃ゆ」はちゃんと考えてましたけど、こうやって改めて話すと結構ほかの曲もちゃんと考えてますね(笑)。作っているときのことはあんまり覚えてないというか、聞かれると思い出すのかな。なんというか作曲、アレンジ面においてはもちろん考えるんですけど、楽曲にとっての不純物を生み出すくらいのことは考えないっていう感じですね。純度を上げるというか、無駄を省くというか。そのために必要なことは考えるし。そのための"何も考えない"といった感じです。
-鈴木さんの声の印象もちょっと変わりましたよね。
鈴木:変わっていると言えば、常に変わってるんですけどね。普通にいい声を出したいんですよ。そういう思いのもと、常に研究と練習を重ねていて、今はもうギターの練習してないですもん。歌の練習しかしてない。だから、変化はしていると思います。まず、がならないようになりましたね。昔は全曲がなってたけど。声を柔らかくしたいんですよ。
-練習って、どんなことをしているんですか?
鈴木:体幹を鍛えたり、舌のトレーニングだったり、歌が上手い人の真似をしたりしてます。結局、真似せんとなんも始まらないというか、なんもわからんというか。
藤原:そう思います。私も無理をしない声の出し方ができるように、自分がよく聴いている歌を自分で歌って、録音してそれを聴いて、"あぁ、ちゃうわ"っていうのを繰り返してますね。
-今回早口の――
鈴木:あぁ。早口言葉がなんか多いですよね。
藤原:たしかに。
鈴木:でも、それは結構前から16分とかで細かいメロディを入れてしまう癖があって。「掌で踊る」にも入っていますね。早口みたいなやつ。
藤原:早口だと歌がより演奏に馴染むというか、演奏の一部になるというか。リズムが出やすくなるからいいですよね。
-では歌詞についても聞かせてください。前回のインタビュー(※2018年5月号掲載)で"テーマがあるものについては説明できるけど、そうじゃないものは歌詞が説明しているから、それ以上の説明はできない"とおっしゃっていたから、聞き方が難しいんですけど。
鈴木:でも、ほんまに自己表現というか、自分のことを言ってるだけなので、それがもっと"俺"って感じになってると思います。「業に燃ゆ」なんて、めっちゃ俺って感じがします。タイトルからもう俺です。
-全体の印象として、自分を罰しているというか、自分を許す/許さないとか、そういう言葉や感情が散りばめられているように感じられるのですが。
鈴木:自らの"業"を、常に感じてるんですよ。"俺、前世で何したんやろ?"って。仏教系の大学だったのもあって、宗教云々ではなくて、わりとナチュラルに仏教感を持っているというか、塩を入れたらしょっぱいぐらいの感じで因果の道理も馴染んでいるのか、そういうふうに言っちゃうんですけど、前世で何したんだろうと思ってしまうぐらい、自己評価が低いというか、苛まれている感じはありますね。
-それが歌詞、言葉に自然に出てきている、と。
鈴木:幼少期の諸々とか、家庭環境のなんやらとか10代のころの感性のなんやらかんやらで。それはインタビューで言うことじゃないと思うんですけど、そういうところで形成された諸々の人格の根っこの部分みたいなところがそういう感じなんじゃないでしょうか。
-そこを変えたいとは思っているんですか?
鈴木:変えたいと常に思ってるけど、変えようとするたび、無力感を感じるんですよね。
-"無力感"って歌詞も「諦念」にありましたね。
藤原:ほんまや。
鈴木:やっぱ業が強すぎるな。めっちゃ変えようとしてたというか、前向きになろうとしましたけど、今思えば無理しとったなとも思うし、無理すると良くないなって。もちろん諦めたわけじゃないし、良くしようとはしてるけど、それ以上に業がデカい。それは日々感じてます。
-でも、それが曲作りのテーマ、モチーフになり得ているわけですよね?
鈴木:たぶんそうですね。
-アーティストとして、そういう大きなテーマが常にあるっていうのは、いいことなんじゃないかと無責任に言ってしまいますけど。
鈴木:そうだと思います。歌詞もそうですけど、曲のアレンジでのかっこいいという基準も、"ほんまに音楽が嫌いやったころの自分に響くもの"と自分で決めているから、一生、自分と戦っているというか。いろいろな人と喋りながら、価値基準を、自分ではなく他人に置く人がいるんだなって思ったんです。こんだけ評価されたからとか、こんだけ受け入れられたからとか、こんだけ再生されたからとか、こんだけ売上があったからとか。でも僕の基準は、どんだけ昔の自分を振り向かせられるかしかなくて、それが普通だと思ってたから、人と喋るとカルチャー・ショックがあって。ただそれだけギャップがあるんだったら、逆にそれは強みなのかなとも思います。
-昔の自分を振り向かせることは難しいですか?
鈴木:振り向かせられたかどうかが一生わからんから、一生ゴールできへんと思います。
-じゃあ、一生音楽を作り続けないと。
鈴木:しんど(笑)!
-最終的にすべてをぶった切りたいから"一閃"というタイトルを付けたそうですが、例えば何をぶった切りたいですか?
鈴木:(※藤原に)何をぶった切りたいですか?
藤原:新しい時代を作りたい――と言ったら大袈裟になるけど、もっと面白くしたいという意味で、現状をぶった切りたいです。
-リリース後はツアー"そこに鳴る『一閃』release tour~ULTIMATE IMPACT~"(5月から6月にかけて開催)も予定されていますが、最後にその意気込みを聞かせてください。
藤原:ちゃんと埋めたいですね。今回、会場のキャパはそんなに上がってないんですけど、それには理由があって。いい作品ができたので、いろいろな手を使ってたくさんの人に届けられるようにしたいと思ってるんですけど、その結果はツアーの動員に表れるじゃないですか。全会場をちゃんといっぱいにしてから次のステップに進みたいんです。渋谷club 乙-kinoto-、渋谷Milkyway、下北沢SHELTERをちゃんと埋められたので、東京は次回新代田FEVERでやります。FEVERは楽屋がめっちゃ広いんで、3人だけで使うのが今から楽しみです(笑)。
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