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INTERVIEW

Japanese

ゲスの極み乙女。

2016年01月号掲載

ゲスの極み乙女。

Member:川谷 絵音(Vo/Gt) ちゃんMARI(Key) 休日課長(Ba) ほな・いこか(Dr)

Interviewer:沖 さやこ

-「続けざまの両成敗」はタイトルからして、「両成敗でいいじゃない」ありきの曲だと思っていたので驚きです。

休日課長:そうか。タイトルだけ見るとそういうふうにも見えますよね。

川谷:"両成敗"という言葉が入っていることが重要だと思っていたので、「続けざまの両成敗」はただ"続けざまに両成敗していく"というイメージですね。「両成敗でいいじゃない」ができたときに"あ、1曲目が「続けざまの両成敗」って曲だし、この曲の前に「両成敗でいいじゃない」を入れてもいいよね"という話になって。......だから結果オーライですね。「続けざまの両成敗」は歌詞がシリアスなんですけど、「両成敗でいいじゃない」はわりとエグいことを言いつつもポップに聴こえるような歌詞にしました。強制するんじゃなくて諭す感じというか。......何かしら食ってかかる人はいるじゃないですか。そういうことに対して"俺はそういうのどうでもいいから、いいよ俺も負けるから"って感じですね。でもそこで"俺が負けるから君は勝ちね"とは言わない(笑)。どっちも負ける方が平和なんですよ。

-小さな口論も大きな戦争もすべて"争い"ですからね。すべての争いにおいて"両成敗"という考え方は必要なものだとも思います。2014年は絵音さんが自分自身の気持ちを綴った歌詞が多かったですが、2015年はメッセージを伝える歌詞が多いですね。

川谷:自分自身そういう歌詞を多く書いたなという意識はあって。でも第三者目線で書いたものが多いので、自分の殻に閉じこもってた『魅力がすごいよ』に比べてあまり自分自身が入りすぎてない。自分が楽曲の当事者だと"こう受けとって欲しい"という気持ちがあると思うんですけど、今回はキャッチコピー的な要素が強いんで、いろんな人が受けとってそれがどう捉えられても問題ないんですよね。

-『魅力がすごいよ』はプリプロで絵音さんが頭の中にあるイメージをメンバーさんに伝えてメンバーさんとフレーズなどを詰めて、その場で絵音さんがひらめいたことを実行したり、そのあとのレコーディングでもフレーズやメロディ、歌詞を変えることも多かったみたいですが、今回もその手法ですか?

川谷:そうですね。ほぼ同じです。コード進行をホワイト・ボードに書いていって"ピアノはこんな感じで"みたいに口で伝えていって。

-メンバーさんの音楽能力も去年以上にアップしていると思いますが、同時に絵音さんの求めるものもクオリティが上がっていると思います。やはりゲスの極み乙女。の制作はかなり大変な作業だと思うのですが、みなさんその制作方法にもだいぶ免疫もついてきましたか?

川谷:"免疫"って(笑)。

ちゃんMARI:注文がめっちゃ細かいときもあるんですよ。すごく時間はかかりましたけど"すぐ対応しないと!"と必死でした(笑)。まあでもそういう制作になることはわかっていたので......。

休日課長:まったく免疫ついてないですね(笑)。"あ、マジで? 俺それやるの(笑)?"って思わず笑っちゃうことが多かったです。昔はもっとつらい顔をしてたけど......あ、そう考えると前回よりは楽しめたのかな。

川谷:うん、課長楽しめてたと思うよ。

ほな・いこか:前回はきつかったからねえ。

ちゃんMARI:前回はあんまり元気がなかったかも。それに比べると今回私は元気なままレコーディングできました(笑)。

-それは何より(笑)。『両成敗』は、『魅力がすごいよ』で飛躍的な向上を遂げた音楽的スキルをさらに高めつつも、インディーズ時代の感覚がある作品だと思いました。もともとゲスの極み乙女。はユーモアや遊び心に富んだバンドで、インディーズ時代にあったその感覚を当時とは違う手法で表したものが『両成敗』ではないかと。

川谷:そうですね。遊び心をようやくかっこよく出せるようになってきた。昔みたいなふざけたもの、ユーモアに寄りすぎていたものが嫌で、『魅力がすごいよ』は真逆の作品になったんです。たぶんインディーズ時代の流れで制作していたとしても、いずれは『魅力がすごいよ』みたいな作品を作っていたと思うんですけど、あのタイミングであのアルバムを作れたのはでかいのかなって。『両成敗』は(インディーズ時代と『魅力がすごいよ』の)中間というか。当時から持っていたようなユーモアや遊び心が、自分たちの思うセンスのいいものにだんだんなっていったというか。

-『魅力がすごいよ』はユーモアの部分は抑え気味でしたからね。だけどあのアルバムでゲスの極み乙女。はどんなこともできるとんでもないバンドだと思いましたし、可能性を拡げられたとも思います。

川谷:昔から聴いてた人はそう思うと思うんですけど、『魅力がすごいよ』から入った人は"あれ? ゲスの極み乙女。ってこんな感じなんだ。思ってたのと違った"と思ったと思うんですよ。それが『魅力がすごいよ』で失敗したと思った理由のひとつでもあるんです。だから(リスナーが)派手に"おおっ!"と驚くような感じを出したかったんですよね。それがようやくできた。

ちゃんMARI:Track.5「勤めるリアル」とかは、ふざけているようだけどちょっと切ない曲だとも思うし。今回はそういう曲をところどころ入れることができて。

休日課長:Track.16「Mr.ゲスX」みたいに、かっこいいなと思うものと、面白いなと思うものが共存できて。遊び心が伝わる面白さは表現できてるなと思います。

ほな・いこか:歌詞もプレイも"かっこいい"も"面白い"も全部がいい形で入っているなって。いろんな面で面白い、バランスのいいアルバムだと思います。だから"これがゲスの極み乙女。です!"と言って出せる作品だなと思いますね。

川谷:Track.3「ロマンスがありあまる」とTrack.6「サイデンティティ」の2曲は、『魅力がすごいよ』をリリースしてから1ヶ月後にレコーディングをした曲なんです。だからこの2曲を作ったときに自分たちは『魅力がすごいよ』を超えたな、別のところに入っていったなと思ったんですよね。

-『魅力がすごいよ』はバンドのアンサンブルやアレンジのセンス、音楽性に驚くことが多かったのですが、『両成敗』は『魅力がすごいよ』よりもそこが磨かれていることに加えて聴きやすさがある。それはメロディの力が大きいと思います。ちょっと異質で印象に残る言葉が、ナチュラルな譜割りでいいメロディに乗っているというところが、ゲスの極み乙女。がお茶の間に響いた大きな理由だと思っています。

川谷:メロディの精度は上がってると思いますね。このアルバムの歌詞とメロディに関しては全曲98点以上だと思います。残りの2点は完璧なんてこの世には存在しないという意味ですね。言葉の意味がわからなくても文字として、言葉として頭に残るというのは重要だと思うんで。子供なんて歌詞がどんな意味なのかわからないじゃないですか。それでも聴いてくれる子供たちも増えていて、それはメロディの強さだなとも思いますね。

-メロディと歌詞の力だけでないところがゲスの極み乙女。がロック・バンドとしての力を増している所以だと思いますが、「勤めるリアル」はすべてが異質でインパクトがあります。

川谷:まず"勤めるリアル"というタイトルが決まってて――というか曲を作るうえでまず全曲のタイトルだけ決めるんですよね。タイトルから決めるのが単純に好きなんです。やる気が起きるし、タイトルがあることで曲があるような気持ちになってくるから不安にならない(笑)。"勤めるリアル"という言葉もパッと思いついて面白いなと思ってメモしておいて。だから歌詞はそこから引っ張られてますね。勤めてるオッサンの現実みたいな......。

-主人公は"29の男子"だからそこまでオッサンでもないですけど(笑)。

川谷:自分も20代なので、それくらいの年代しか想像できなかった(笑)。サラリーマンになったこともないから、本当に想像の世界ですね。

ほな・いこか:間奏のドラムのキックは"工事"って言われました(笑)。

休日課長:ドゥルルルルルル!ってドリルみたいな(笑)。

-(笑)ライヴで聴くとかなり迫力出そうですね。落ち着いた感じに聴こえる曲でも全員がかなりテクニカルなことをしているし。勢いで突っ走るものではないけれど、演奏には強い気合いが必要だろうなと。

ほな・いこか:本当ですよね......。今回のアルバムは本当にかなり練習しないと再現できない(笑)。

休日課長:勢いで突っ走るのと演奏に気合いを入れるのとはまったく別物ですからね。やっぱり僕らがやっているのは"音楽"だから、勢いだけで押していきたくはないし。

川谷:そもそも僕らに勢いで突っ走る曲がないですからね(笑)。"ライヴでこうしよう"と考えながら曲を作ることもないし。とにかく"曲"としていいアレンジを作ることを考えて。