Japanese
ゲスの極み乙女。
Skream! マガジン 2014年02月号掲載
2014.01.19 @代官山UNIT
Writer 天野 史彬
この日の代官山UNITは超がつくほどの満員で、筆者も、なんとか体をひねることでステージの上を目視できる場所をキープするのに苦労した。ももいろクローバーZの「行くぜっ!怪盗少女」が流れ、メンバーがステージ上に現れると、 奥のほうまで詰まったオーディエンスたちはなんとか、ステージ上に立つ4人をその目に捉えようと必死だ。ゲスの極み乙女。――彼らの初となるワンマン・ライヴは、今、彼らに対して巻き起こっているバズの大きさを身をもって感じられる熱気に満ちたものだった。
ゲスの極み乙女。の中心人物であり、indigo la Endのフロントマンの顔も持つ川谷絵音は、今、個人的に最も気になるミュージシャンのひとりだ。彼はindigo la Endにおいてはオルタナティヴ・ギター・ロックを鳴らし、ゲスの極み乙女。においては、突然変異的なポップスを鳴らしている。両極端なアウトプットではあるが、しかし、この2バンドからは共通して"居心地の悪さ"、"違和感"のようなものをヒシヒシと感じる。これはきっと、川谷の表現の根源にあるものなのだろう。世界との"ズレ"を常に感じながら、それが故に世界に苛立ち、自分に対しても苛立っていく――そんな出口の見えない怒りと自己嫌悪の連鎖が、彼の表現に独特の狂気とサイケデリアをもたらしているように思える。
そして、そんな"居心地の悪さ"を蒼く耽美な世界観へと変換するindigo la Endとは違い、ゲスの極み乙女。は、そこにある軋轢を冷静沈着に、そのまま毒気の強いポップへと接続し、放出する。どちらも中毒性の高い表現だが、着飾っているように見えて実は丸裸であるというヤバさが、ゲスの極みにはある。
この日は、『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』から「餅ガール」でスタート。ベースの休日課長とドラムのほな・いこかによる強靭かつ高速度で展開していくリズムの上を、川谷のソリッドなギター・カッティングとちゃんMARIのポップで不穏なシンセが絡まりあって、異様なグルーヴ感を生んでいく。メンバー4者4様のアクの強いヴィジュアル。その1番奥に鎮座しながら、しかしドラム・キットの中で誰よりも可憐かつ獰猛なオーラを放ついこかの存在......この"歪さ"だらけのバンドは、しかし、その"歪さ"故に独特のグルーヴ感を手にしているようだ。続く「ゲスな三角関係」は、三角関係恋愛の渦中にある人の禍々しい嫉妬の感情をユーモラスに描いた曲だが、曲のポップさが、そんな人間関係の中にある愚かしさを冷ややかに浮き彫りにしているようだ。表面的な人懐っこさと狂騒の中に、鋭くクールな批評性が宿っている。そして序盤のハイライトは「キラーボール」。ポエトリー・リーディングのように矢継ぎ早に歌われる虚無と諦念と快楽がない交ぜになった言葉が、高速で繰り出されるポップなダンス・サウンドに乗せて繰り出される破壊力の凄まじさたるや。ここには"世界も俺も、結局ゲスじゃん。なら、踊らなきゃやってられないじゃん"と言わんばかりの簡潔かつシリアス、そして突き抜けた現実認識がある。それがポップでユーモラスな世界観によって紡がれるのだから、このバンドの音楽は本当に毒気の強い麻薬のようだ。
中盤には「ハツミ」や「スレッドダンス」などメロウなナンバーも披露。特に、「スレッドダンス」は、この現代社会において人の温もりを求めようとする川谷の真摯かつ赤裸々な心情を紡いだ言葉が胸を打った。彼らが、雑多に様々な音楽性を取り入れ、生き急ぐようにビートを加速させ、言葉数を増やしに増やし、時に演劇的な要素を取り入れ、そこまでの過剰さを手にして何と戦い、何を伝えようとしているのか――それがわかったような気がした。
この日はアンコール含めて新曲が3曲も披露された。本編で演奏された「サカナの心」、アンコールで披露された「パラレルスペック」、そして既にライヴでは度々演奏されているらしい「song3」。 どれも独特のフリーキーさと叙情性が見事に混ざり合った、"ゲス極印"の強い曲だったが、特にアンコールのラストで演奏された、BLURの 「Song2」をあっけらかんとオマージュした「song3」 は、その不適な無邪気さと爆発力のあるサウンドでオーディエンスを最高に盛り上げていた。この日のワンマンの終了後、4月にゲスの極み乙女。とindigo la Endが同時にメジャー・デビューすることが発表された。しかも、ゲスの新作タイトルは『みんなノーマル』。皮肉なのか本心なのか定かでないこのタイトルの時点で既にヤバさ全開。ちなみに、この日ステージ上で川谷が、"本当はフル・アルバムがよかったんだけど、レーベルが......"と小さく愚痴をこぼしてメンバーに止められていたことも記しておこう。そのぐらい、バンドが勢いを増していることは確かだ。期待して待ちたい。
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