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INTERVIEW

Japanese

0.8秒と衝撃。

2013年02月号掲載

0.8秒と衝撃。

Member:塔山 忠臣(唄とソングライター) J.M.(唄とモデル)

Interviewer:天野 史彬


-そうやって叙情性を出したかったっていうことと、最初に塔山さんがおっしゃった“自分たちのロックとは、歌とメロディありきなんだ”っていう話を聞くと、『~東洋のテクノ。』があれだけメロディアスな部分を排してビートの強い音楽になったのは、凄く挑戦的なことだったのかなって思うんです。それはきっと、ファーストからの間に起こった感情の変化の表れでもあると思うんですけど、どうですか?

塔山:まさにそうですね。ファーストを作ってる頃って、僕らは1曲1曲が凄く極端だったんですよ。アコースティック、激しいの、アコースティック、みたいな感じで。それをやった時に、みんな受け入れてくれるんですけど、もうちょっと振り切れてもいいかなって思ってたんですよね。

J.M.:自分たちを表現し切れない部分があったよね、あの頃は。

塔山:そう。初期衝動の一番トゲトゲした部分をマックスでは出してなくて。リミッターをかけてたわけじゃないんだけど、もっとやれるっていう確信がファーストの頃にはあって。そしたら案の定、ライヴでお客さんを見てても“もっと殺してくれ”くらいの感じでくるんですよ。なので、1回振り切れて見ようと思ったんですよね。ぐちゃぐちゃの中の、ぐちゃの限界をやってみよう、と。異物を全部世に出してみてもいいんじゃないかと思って。

-実際、僕はシングル曲だった「町蔵・町子・破壊」を最初に聴いた時に、凄く振り切れたなって思ったんです。で、それと同時に、凄く孤独な、孤立無援の場所に敢えて向かったなとも思った。でも考えてみると、そもそも0.8秒と衝撃。の音楽っていうのは、孤独な場所から、まるで喧嘩を売るようにコミュニケーションを求めていくものなのかな、とも思って。で、『~東洋のテクノ。』が素晴らしかったのは、0.8秒がああいう音楽性にすることによって売った喧嘩を、リスナーが買うっていう、凄く親密なコミュニケーションが生まれたところなんですよね。

塔山:いや、まさにそうなんですよ。イベンターの人とかに“こんなに異形のビートで踊らせるのは凄い”って言われるんですけど、それが凄い嬉しいんですよね。踊らせる感じのダンス・ミュージックも好きなんですけど、俺たちのやってるビートは踊りにくいビートですから。でも、それでお客さんがぐちゃぐちゃになって踊ってるのを見ると、凄い嬉しいんですよね。

-今回の作品っていうのは、『~東洋のテクノ。』の喧嘩腰なビートはそのままに、メロディでもうちょっと人に寄り添っていってる作品だと思うんですよね。下半身は地団太踏んでるんだけど、上半身は手招きしてるというか。

塔山:ありがたいですねぇ。ほんとにその通りだと思います。さっき言ってくださったみたいに、やっぱりコミュニケーションをとりたいと思っているんですよね。でも、自分的に嫌なのは、そこで“誠実さ”を言い訳にするっていうことで。自分でも驚くのが、ネットでファンの人のプロフィールとかを見ると、きゃりーぱみゅぱみゅとかB’zみたいなJポップが好きな人のプロフィールの中に、ポンッと0.8秒と衝撃。の名前が入ってたりするんですよ。それって凄いことじゃないですか。こうやってインディーズでやってて、どっちかと言えば自分たちの好きなことしかやってないのに、そういうところにも名前が挙げられるっていう。

-そうなれるのは、やっぱり0.8秒がリスクを冒しながらも真っ当に音楽でコミュニケーションを求めていってるからだと思いますよ。今は自分の安心できるものしか求めない人が増えてるし、そこに向けて安心できるものだけを差し出す人も増えてるけど、0.8秒はそうじゃないですよね。さっき“喧嘩売る”って言いましたけど、ほんとに傷つけ合うこと覚悟でぶつかるから。だって、相手が欲しがってるものを用意するつもりもないでしょうし、ミュージシャンである以上、取ってつけたような誠実さよりも、音楽でコミュニケーションとっていこうとしてますよね?

塔山:そうですね。だから、もし人がふたりいたら、お互いが助け合うんじゃなくて、お互いが傷つき合いながら、たまに合って“よしよし”ってお互いを確認し合う、そうやって進んでいきたいんですよね。その結果、それぞれの目指してたところにいたっていうのがいいんですよね。自分たちとリスナーの関係もそうありたいというか。助けたくもないし、助けられたくもないんですよ。お互いが刺激を受け合って、カンフル剤になりたいんですよね。俺たちはライヴでお客さんにカンフル剤をもらってるし、俺たちもあげてるし。だから、コミュニケーションの究極ですよね。さっき言われたように、お互いが喧嘩売って喧嘩買う感じですよ。それが熱気ですよね。自分がカッコいいと思ってることじゃないと、やれないですよ。まぁ、女性の客はエロい目で見ますけど(笑)。

-(笑)。優しいんですよね、0.8秒と衝撃。は。だって今、本当にノイズを嫌う世の中ですからね。僕もこの仕事してて“興味ないです”とか“ちょっとでも否定的なことは書くな”とか、そういうことを言われる場面にぶち当たるし。喧嘩売ってくれるほど優しい人って、ほとんどいないですから。

塔山:わかりますわかります。俺この間、変なところに自転車停めちゃって、知らないおじさんにもの凄い怒られたんですよ。で、凄い怒ってくるから俺も“うるせぇ、馬鹿野郎!”って、昭和みたいな喧嘩しちゃったんです(笑)。でも最終的に、そのおっさんのことちょっと好きになってて。今ってそういう人いないじゃないですか。だから、逆に優しいなぁと思って。ほんと、20年に一度の祭りに来たぐらいに盛り上がりましたもん。ああいう、怒る優しさってあるじゃないですか。

J.M.:今って、みんな回避するじゃないですか。無駄な喧嘩はしないし。頭で考えるほうが早い感じ。でも、塔山さんそういうのないもんね(笑)。

塔山:みんな省略しようとするんですよね。でも、人とコミュニケーションを取るのって、そういう暑苦しいのが大事なんですよね。

-じゃあ最後に、7月には恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンも控えてますが、今後の展望を教えてください。

塔山:ワンマンは初めてなんですけど、今まで自分が曲げずに続けてきたことをもっと広く知ってもらいたいし、撃ち続けたいわけですよ。このワンマンはそのためのものだと思ってるし、今までやってきたことを全部、このワンマンで集約させてみたいなと思いますね。自分たちが成長するためのターニング・ポイントだと思うんです。お客さんを楽しませて暴れるのはもちろんなんですけど、自分たちがひとつふたつ成長できる会にしたくて。そこからは、あんまりスパンを明けずに次の音源を作りたいなって思ってます。それは今回と全然違うものになるでしょうし。やっぱり僕自身が音楽ファンなので、次は何を聴いて音楽を作りたくなるのか、楽しみですね。

J.M.:毎回毎回、音源を作ったりライヴをやっていくたびに、次の新しい何かを見つけなきゃって思うんで、ライヴでもそうだし、もう1ジャンル新しい0.8秒と衝撃。を見つけたいですよね。そういう時って、今までの自分を疑わなきゃいけない作業があった上で、新しいものを見つけられるわけじゃないですか。だから、今までの自分を疑いつつ、流れ星みたいに目の前で光りながら通り過ぎようとしてるものを掴む感じですね。

塔山:そういうのは楽しいよね。僕は作曲家でもあるので、たくさん曲を書いて実験したいですね。それをみんなに見せたいし。実際、メジャーとかからの上手い話もあったんですけど、それはメンバーと話し合って、もっと自分たちのやりたい方向に行きたいなと思って、その話は潰したんです。自分たちが音楽が好きだっていう気持ちを潰してまで柔らかい安定は欲しくないわけですよ。手前の優しさは欲しくないんです。僕はもっと欲張りなんですよね。それよりも、俺はこのバンドは続くと思ってやってるから、死に物狂いでいい音楽、いいライヴをやっていきたいですね。旅ですよ、ほんと。