黒猫チェルシーの「開拓!ネコロンブス」【第11回】
2017年09月号掲載
黒猫チェルシーの開拓!ネコロンブス 第11回 <宮田 岳(Ba)>
アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ
コトの発端は「コルテスの海」という一冊の本。アメリカの小説家であり海洋生物学者であったジョン・スタインベックが、カリフォルニアで行った生物採集について記したこの退屈な手記は、文中でのビールを飲む描写があまりにも美味そうだという一点においてのみ優れている。
舞台は20世紀初頭のカリフォルニア。そこはインディアンの水先人(船の先導)が存在し、缶詰工場しか無いほとんど未開の地である(そんな世界は全く想像に身を委ねる他ない)。彼は美しい湾で採れるヒトデや貝なんかに想いを馳せながら、浴びるようにビールをひたすら飲む。その味は、私が知っているビールとは何だか違うもののように感じられた。
世間一般の大多数の大人がそうであるように私もビールは好物だけれど、この本の世界は20世紀初頭のアメリカ、つまりタイタニックの世界である。ガーシュウィンやデュシャン、シェーカー家具の時代である。私の好きなものが大量に詰まった時代。そこで人々に好まれているビールは、きっと私が知らない素晴らしいものに違いないと、妄想は膨らんだ。
一年程前、私は運命に出会う。関東でも一部に限られるスーパー「ベルク」にそれは置いてあった。アンカー社のスチーム・ビールである。スチーム・ビールはゴールドラッシュ時代のアメリカで誕生し、一大ブームを引き起こした小規模生産型のビールであり、近年復刻された。ラベルのデザインもまさに「コルテスの海」そのもの、私は歓喜に沸き早速購入した。......ドッシリとした飲みごたえと苦味。ヨーロッパのエールビールのように華やかで甘いものとはまた違う重厚な味わいに、確信した。ああ私の追い求めたものはここにある。
情報に溢れ、快適さが息苦しさを助長する昨今。決して懐古趣味というわけではないが、その時代の人々が作ったものには、間違いなく別のパワーが宿っている。それは、空調の行き届いたマンション暮らしでは決して見えてこない生きる為の力だ。シェーカー家具の簡素で優美なデザインには、信仰と開拓に懸けた人々の背景が。スチーム・ビールには、リーバイスのジーンズと労働の香りがある。私も表現者の端くれとして、そのパワーの源を突き止める義務がある。私は奥多摩に向けて中央道を飛ばした。
知識ゼロ、経験ゼロ、セリアで購入したスコップとボウルとザルを片手に、ここ掘れワンワンとばかりにひたすら河辺で金を探した。
何が正解なのかはひたすらに分からない。2時間ほどのち、食卓塩の粒よりも細かく、息を吹きかければ蚊が飛ぶよりも早く雲散霧消するレベルの金つぶ(らしきもの)は得ることが出来た。一応山吹色に光ってはいるが、これが金なのかどうかは、別に知らなくていいのだろう。緑色に光る透明な石コロやなんかのほうが、今回の収穫としては嬉しかった。やはり、私はまだまだマンション側の人間なのだろうなぁ。
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