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LIVE REPORT

Japanese

黒猫チェルシー

Skream! マガジン 2017年07月号掲載

2017.06.04 @東京キネマ倶楽部

Writer 沖 さやこ

今年1月の自主企画ライヴでも躍進を見せた黒猫チェルシー。やはりそれは『LIFE IS A MIRACLE』というフル・アルバムを完成させた満足感が影響していると思う。アーティストにとって作品性が重要視されるオリジナル・フル・アルバムが持つ意味は大きいはず。特に『LIFE IS A MIRACLE』は約4年半ぶりのオリジナル・フル・アルバムである。アーティストに限らず、自分の考えや気持ち、理想をアウトプットしたり、言葉やかたちにすることで一歩成長できたり気づきを得たりすることは多い。フル・アルバムをリリースし、それを引っ提げて全国10ヶ所のツアーを回るというバンドらしい活動を行えていることを、4人全員が心の底から喜んでいるようだった。

アルバムの1曲目である「M-1589」をSEにしてメンバーが登場すると、全員がドラム前に集まり、じっくりと力強く「スター・トレイン」のイントロを奏でていく。そこで積み上げた高揚は「Dark Night, Spot Light」で爆発。渡辺大知(Vo)がマイク・スタンドを振り回し、楽器隊3人もたくましい音を鳴らすなど、全員がとにかく演奏を楽しんでいることが手に取るようにわかった。「恋するハイウェイ」で激しいダンスを披露した渡辺は、テンポ・アップするアウトロでメンバー3人を見渡しながら指揮をとり、3人もそれに合わせて音を出す。その様子はバンドで遊んでいるようにしか見えず、会場全体が4人のキッズ感に触発されていた。
"一番大事な、一番愛している人を思い浮かべて聴いてください"と渡辺が言い「涙のふたり」を披露し、ミディアム・ナンバー「グッバイ」を届ける。曲そのものが持っている気持ちをしっかりと表現していく4人。その地に足をつけて観客とまっすぐ向き合う姿は非常に頼もしく、バンドとしての団結力からも信頼関係が見えた。

「抱きしめさせて」は1番をまるまる渡辺が弾き語りで歌い、そのあと一斉にバンドが入る瞬間のパワーは非常に美しかった。そして突如、渡辺が"本日初披露の新曲をやります"と宣言し、「ベイビーユー」という楽曲を披露する。岡本啓佑(Dr)のスケールのあるドラムが軽快に鳴り響きながらも切ない匂いが漂う、抜けのいい曲だった。澤 竜次(Gt)と宮田 岳(Ba)のループするフレーズの混じり方が洒落ている「ブルーサマー」は、楽器隊の堂々たるソロ回しでフロアから大歓声が。楽器隊の演奏力が上がっていることも、黒猫チェルシーのライヴが屈強になってきている理由のひとつ。土台が太く粘り強いからこそ、花形のヴォーカルも存分に暴れられるというものだ。4年半の時を経て曲が育っていることを目の当たりにし、思わず顔がほころんだ。

黒猫チェルシーは今回のツアーの各会場でセットリスト参加企画をTwitterで実施。最終日はメンバーそれぞれが演奏したい曲を選び、Twitterのアンケートで得票数が最も多い楽曲を披露することになった。選ばれたのは、渡辺がチョイスした「廃人のロックンロール」。全員でタイトルどおりの危険な香り漂うサウンドを繰り出したあとは、「飲みに行こう」で観客へ振り付けを丁寧に伝授する。このようにロック・バンドとして圧倒する側面もあれば、"みんなと遊ぶために準備をしてきたよ"という顔もあり、4人がライヴで楽しむための方法論はどんどん増えているようだ。それもすべて観客とコミュニケーションを取ろうという意識が生まれたからだろう。
メンバー全員がバンド・キッズに帰ったかのような躍動感を見せる「LIFE IS A MIRACLE」、「黒い奴ら」から一転、「青のララバイ」では渡辺が曲の主人公になりきって歌うような姿が印象的だった。ロックは自分たちの意志を弾丸のように打ち込める音楽だが、それだけではなく俳優として培った力を生かせるところは大きな強み。のたうち回りながら歌う姿は、楽曲の世界観をさらに拡張させていた。

"このツアー、最高に楽しかったです"と語った渡辺は長めのMCをした。この4年半の間で"俺は何ができるんやろ?"と考えた時期もあったが、アルバムが完成したことで"まだまだかっこいいことできるやん"と自信が持てたそうだ。"俺らもっともっとかっこいいバンドになるよ! だからみんなも自信を持って俺らについてきてくれ。すげぇ景色、一緒に見に行こうよ!"――そう語る彼の晴れやかな笑顔は輝いていた。"自分の信じるものをひとつでも見つけること、それが人生なんじゃないかと思いました。俺らにとってすごく大事な曲ができたから、みんなにとっても大事な曲になると信じて、最大限の愛を込めて歌います"と言い本編ラストに演奏されたのは「海沿いの街」。4人が気持ちを重ねるように丁寧に演奏される。渡辺が"ぼくたちはどこまでも続く 道を歩いていくだけなのだろう/ずっとこの先も いつも そうやって生きていこうぜ"と歌い切ってからのアウトロのエモーショナルな音像は圧巻で、彼らの最大限の愛に包まれるようだった。

アンコールでは、渡辺が9月に都内某所で3デイズ自主企画を考えていることを明かす。バンドの未来のことを話す渡辺は本当に幸せそうで、黒猫チェルシーというバンドがいまもこうして精力的に活動できている事実が彼をそうさせているのだろうと思い、嬉しくなった。いまの黒猫チェルシーは、メンバー全員が音楽への愛情、観客への愛情を持ったうえで迷いのない音を鳴らせている。最後に披露された「東京」のスケールの大きさがそれを充分に物語っていた。


[Setlist]
1. スター・トレイン
2. Dark Night,Spot Light
3. アナグラ
4. 恋するハイウェイ
5. 涙のふたり
6. グッバイ
7. 抱きしめさせて
8. ベイビーユー
9. ブルーサマー
10. 廃人のロックンロール
11. 飲みに行こう
12. 情熱のDancin'
13. ロックバラード
14. LIFE IS A MIRACLE
15. 黒い奴ら
16. 青のララバイ
17. ベリーゲリーギャング
18. 海沿いの街
en1. また会おう
en2. 恋はPEACH PUNK
en3. 東京

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