Japanese
黒猫チェルシー
Skream! マガジン 2017年03月号掲載
2017.01.24 @渋谷WWW
Writer 沖 さやこ
昨年秋に東京で開催された黒猫チェルシーの自主企画イベント"ネコのコネ"が、2回目にして東名阪で開催された。初日、東京公演のゲストはフラワーカンパニーズ。両者によるツーマンは2011年に北海道2ヶ所で行われたフラワーカンパニーズ主催の対バン企画"シリーズ・人間の爆発"以来、約5年半ぶりだという。黒猫チェルシーにとっては音楽性が通ずる大先輩との久々の直接対決であり、約4年半ぶりのオリジナル・アルバムのリリースを1ヶ月後に控えた2017年初ライヴ。気合が入らないわけがない。
先攻フラワーカンパニーズが、代表曲のひとつである「恋をしましょう」でこの日のステージの幕を開ける。俊敏な動作とともにハンドマイクで「消えぞこない」を歌う鈴木圭介(Vo)は、楽器隊3人の出す音と、過去に自分が作った楽曲に突き動かされているようにも見えた。
彼らは今年で結成28年。音にはそれだけの説得力があり、余裕と貫録を感じさせるも、瑞々しさは失わない。音楽に限らずだが、続けてきたものをやめるときは、自分自身に変化や成長が見込めないときが多いと思う。フラワーカンパニーズがこれだけのポテンシャルを保てているのは、今も昔も自分たちに希望を抱いているからなのではないだろうか。
「感じてくれ」で観客の意識をさらに引きつけると、ポエトリー・リーディングとギターで始まる「東京タワー」へ。4人の音が一斉に鳴った瞬間の衝撃は心臓を抉り取られるような感覚に陥るほどで、気づくと自分の目には涙も浮かんでいた。
"メンバー・チェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! 4人揃ってフラワーカンパニーズ!"というフラカンお馴染みのキャッチフレーズを鈴木が軽快に言い放つと「三十三年寝太郎BOP」、「終わらないツアー」と畳み掛け、最後は"ちょっとだけ踊ってもらっていいですか! 踊れるか渋谷!"と「真冬の盆踊り」。"ヨサホイ"踊りとシンガロングにコール&レスポンスで、会場すべてに爽快感を帯びた熱狂のハッピーエンドが訪れた。彼らの28年間は、自分たちの信じる自分たちの武器で勝負し続け、それによって人の心を掴んできたのだろう。濃密な50分に感嘆の溜息が零れた。
先手の大先輩がこんなライヴをして、黒猫チェルシーは大丈夫だろうか? と思ったが、そんな心配をしてしまったことを心底恥じる。彼らは1年前とは別人ではないかと思うほどたくましくなっていた。SEとともに澤 竜次(Gt)、宮田 岳(Ba)、岡本啓佑(Dr)の楽器隊3人が登場。澤がゆっくりと幻想的なギターを弾き出すと、「夜更けのトリップ」のイントロをゆっくりと爪弾き、ゆっくりとフロントマンの渡辺大知(Vo)がステージへ現れた。まず感じたのはリズム隊の屈強具合。澤のギターに不具合が出たらしく、続いての「恋はPEACH PUNK」では彼がギター・チェンジをする場面があったが、リズム隊の土台がしっかりとできあがっていたため音の穴は感じなかった。4人全員が今日この日を待ちわびていたこと、そして瞬間瞬間を存分に楽しんでいることが顕著に窺え、それゆえの集中力や高揚がステージから溢れ出す。オチサビで渡辺が"誰も助けてはくれない世界だとしても/ぼくはきみをまたいつか迎えにくるよ"という歌詞に合わせて、笑顔で身を乗り出してとある観客の手を取るという粋なパフォーマンスも見せた。
澤が"初っ端からドタバタとすみません"とギターの不具合を詫びると、渡辺は澤が肩にかけたグレッチのホワイトファルコン(どうやら澤と同じ生年月らしい)を見て"俺そのギターの音好きやから許す!"と笑う。予期せぬ展開も純粋に楽しみ、自分たちのものにする姿は痛快だった。「雲の列車」のあと渡辺がアコギを手に持ち"とびっきり恋したくなる曲をやります。僕が思いっきりフラれたときに作ったんですけど(笑)"と言い「涙のふたり」へ。岡本の芯のある力強いドラムが男子ならではの強がりと美学を、宮田の滑らかなベースが楽曲のあたたかみを際立たせていた。
『LIFE IS A MIRACLE』のリリースを感慨深い表情で観客に伝える渡辺。"ロックの優しいところ、ドキドキするところ、怖いところ切ないところ......ロックのいいところをふんだんに取り入れたアルバムになっています"と語り、『LIFE IS A MIRACLE』で最もハードでひりひりしたタイトル曲を披露する。澤のギター・リフも音源以上に厳つく粘り強く、イントロからかなりのインパクト。新曲でありながら観客がこれだけ心地よさそうに身体を揺らすなどしたのは、彼らの演奏やグルーヴがそうさせたのだろう。4人の身体の底から湧き上がる太い音色に、ラストはフロアからシンガロングが起こるほどだ。リズム隊セッションから始まった「ベリーゲリーギャング」は、等身大で体当たりするような渡辺の歌がこれまでで最も色気があるようにも聴こえた。
渡辺は今年の3月で結成10周年を迎えることを告げ"10年やってるといろいろありました"と口にする。そう簡単にはいかない人生、バンドを辞めようかと考えたこと、終わりかもしれないと思ったこともあったそうだ。だが彼は"簡単に終われなかった"と言った。その理由はきっと、音楽が好きだから、何よりもこの4人でバンドをやるのが楽しいから、そこに希望を感じているからだろう。そのあとに演奏された『LIFE IS A MIRACLE』収録の「海沿いの街」は"いまも同じメンバー、同じ4人でこうやってステージに立っていることは大正解だと思っています"という彼の言葉を十二分に味わえるものだった。最後に渡辺がガッツポーズをした姿が、それを象徴していたように思う。
本編ラストの「ロンリーローリン」は"みんなの声を聴かせてほしいです! 一緒に歌ってくれますか!"と呼び掛けるも、観客は少々控えめ。澤が"さっきヨサホイ言うてたやないか(笑)!"、渡辺が"次のライヴまでに大声の練習しておいて(笑)!"と声を掛ける様子もバンドの度量を感じられ、微笑ましかった。アンコールでは『LIFE IS A MIRACLE』から「ロックバラード」を披露したあと、渡辺は"自分たちがこれだと信じられるものをずっと追い求めて、好きなことに正直に、まっすぐ突き進んでいきたい"、"明日もしかしたら嫌なことがあるかもしれないけど、その嫌なことも自分の人生の大事なひとつだと思って乗り越えていく勇気を持っていきたい"と真摯に語る。ラストに演奏された「東京」の"いつまでも歌いたい/それだけで動いてる"という言葉、それに続くエモーショナルな音像に、大きな夢を感じた。黒猫チェルシーの新しい物語がここから始まる――そう思わせ、非常にポジティヴなライヴだった。何かを乗り越えた人間は、ひと回りもふた回りも強く、優しくなれるのだ。
[Setlist]
1. 夜更けのトリップ
2. 恋はPEACH PUNK
3. アナグラ
4. 雲の列車
5. 涙のふたり
6. LIFE IS A MIRACLE
7. 青のララバイ
8. ベリーゲリーギャング
9. 海沿いの街
10. ロンリーローリン
en1. ロックバラード
en2. 東京
- 1
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