Japanese
Mrs. GREEN APPLE
Skream! マガジン 2022年08月号掲載
2022.07.08 @ぴあアリーナMM
Writer 石角 友香 Photo by 上飯坂 一
華々しいだけじゃない、かつて見たことがないほど生身のMrs. GREEN APPLE(以下:ミセス)を見ることもできた、フェーズ2本格始動のライヴだった。『Unity』のインタビュー(※2022年7月号掲載)だけでは計り知れなかった休止期間の不安も、ファンと対面しているからこそ語られたのだろうし、これまで以上にミセスを近くに感じられるライヴにもなった。
ぴあアリーナMMの会場外もアリーナの中も、至るところで記念撮影をしているファンを見ていると、ミセスとの再会はもちろん、ファンにとってのライヴという場所の復活を感じる。場内に入ると『Unity』から連なるアートワークが巨大な紗幕に投影され、自然の環境音も流れている。フェーズ1ラストの"エデンの園(Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR / エデンの園)"から地続きの印象を持つ。暗転した瞬間の興奮は発声できない状況でも伝わるほどで、高さのあるセットにシルエットで浮かび上がった大森元貴(Vo/Gt)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)に大きな拍手が起こった。1曲目は意外にもライヴ初披露の「Attitude」。前オリジナル・アルバムの軸を成すメッセージ且つ、ミセスの表現者としてのアティテュードをも示す。再会の乾杯に似合う「CHEERS」に繋ぎ、一転、心の深いところにダイブするソリッドな「L.P」へと、冒頭からキャリアを凝縮した展開を予感させた。
最初のMCでは3人とも感極まっていることを吐露。ライトバンドの演出もそうだが、何よりこんなに大きな拍手を聞いたのは初めてだろう。続くブロックはサポート・メンバーを含めた5人の演奏のボトムの太さや、若井の明快なオブリガートなど、ミュージシャンとしての進化や音像の新鮮さも実感した。加えて、初期から人気だけじゃなく、ミセスの哲学を10代のリスナーにも伝えてきたチアフルサイドの「StaRt」、シリアスサイドの「道徳と皿」を続けて披露。さらに大森のダンス表現が冴える「PRESENT」、藤澤のピアノ伴奏で歌うAメロから、オーセンティックなバンド・アンサンブルに移行していく「嘘じゃないよ」と、レパートリーの振り幅を見せつつ、演出も相まって1曲ごとに没入できる丁寧な構造も意識されていた。
"披露したことない曲もあって、ドキドキでしたね"と大森が都度、本音をもらすのも当然。約2年半ぶりのライヴで新たなチャレンジをしていることにフェーズ2の意味を感じる。さらにこの大舞台を任されたサポート・メンバーである森 夏彦(Ba)と神田リョウ(Dr)を紹介。森はミセスをインディーズ時代にサポートしており、神田は『ENSEMBLE TOUR』も観に行ったと発言していた。もちろんふたりとも引く手数多なプレーヤーである。
ファンとともにこの場にいる実感がバンドに送り込まれると同時に演奏にも楽しさが横溢。"大切な大切な/【本当】も/こんな処で亡くすなよ"と歌う「In the Morning」に、大人のタフさを感じた。新旧の楽曲で組んだセットリストはもちろん初めてのことだらけで、それがステージ上にも会場にもいい緊張感とイントロが鳴るたびに声にならない"おぉ!"という感嘆が目に見えるようなのだが、BPM213の高速デュエット・ソング「ブルーアンビエンス(feat. asmi)」で空気が変わったのも面白い。asmiの登場にも湧くアリーナ。スリリングなのはヴォーカルの掛け合いだけじゃなかった。一転ギター、ベース、ピアノの抜き差しがユニークなAメロからサビで伸びやかなメロディに抜けていく、「月とアネモネ」が披露されたことも嬉しい。メンバーそれぞれのプレイ・スタイルのアップデートが垣間見える選曲だった。そのエンディングに続き、軋むノイズのイントロからエクストリームな「延々」へ。1曲ごとの演出はさらに濃度を増し、この曲では火柱を立体的に見せる映像手法が曲の激烈さを後押ししていた。『Unity』からの新曲が最も集中したこのブロックの最後には、大きな意味でのラヴ・ソング「君を知らない」を演奏。静かに語り掛けるようなAメロと遠くに投げ掛けるサビの対比や震える声の表現に、"分かり合う"ことを希求しつつ、そこに含まれる欺瞞の危うさも潜ませる。このアンビヴァレンツこそが大森元貴の変わらない誠実さなのだと思う。
"さて、おしゃべりの時間でございます"と、休止期間について若井と藤澤にその過ごし方を聞く大森。共同生活をしていた若井と藤澤は互いに得意料理を作り合ったりしていたようだ。コロナ禍で休止期間のプラン変更も余儀なくされたわけだが、その間にも楽曲の再生回数が20億回を超えるなど、曲の広がりを感じていたと大森。街中でミセスの曲を聴くと"ミセスなんだよな、俺"という不思議な気分だったことを告白し、語弊はあるが今もどこかミセスごっこしているような感じだと言うと、藤澤も同意していた。
偽らざる気持ちから、"聴いてください、「僕のこと」"と、弾き語りで歌い始める大森。それぞれの時間の経過や経験と、必ずしも叶わない希望。この日だからこそより伝わる選曲だった。そこからぐっと今の季節にリンクする「青と夏」、ストリーミングで新たなファンを獲得し、ロング・ヒットしている「インフェルノ」のハードな世界観へ。ムービング・ライトとレーザーが暴れる演出が、まるで網にとらわれているような感覚を醸す。初めてミセスのライヴに参加したオーディエンスも多くいたことが、あとで大森が客席に尋ねたことで判明したが、まさに休止期間も曲がファンを獲得していった象徴的な楽曲だ。
ミセスの音楽的な幅をすべて開陳するように、EDMをベースにした「うブ」ではエレクトロニックなダンス・ビートを叩き出し、再び大きくフロアが湧いた「ロマンチシズム」のイントロ。登場当時から、キーボードから離れて煽ることも担当する藤澤が自在にステージを移動する。町並みを描いた背景、ステージ上の動く歩道状の装置を歩く演出も楽しい。もはやできる演出はすべて盛り込んできた印象だ。ニュー・ミニ・アルバム・リリース日の1日限りのライヴについて、多くを語らなかった彼らだが、これは相当な準備を積み重ねてきたに違いない。ファンを驚かせ、喜ばせることに貪欲であることはあくまでもライヴで見せればいいのだ。ショー的な演出がハマるなか、いい流れで、モータウン・ソウルをアップデートしたイメージの「ダンスホール」のイントロが、若井のシャープなカッティングで始まる。ダンサーも登場して、大森とともに花道を進んできた。踊りながら歌う大森はますます調子を上げた印象で、ここにフェーズ2のエンタメ性を見たのは確かだ。
華やかな流れから、大森がこの日を迎えるまでの気持ちをおそらくキャリアで初めての長さで語る。休止期間中に次へ向けて走り出すことの不安、5人から3人になったときの寂しさ。"フェーズ1、フェーズ2ってわかりやすく言ってるけど、大きい理由はないんです。フェーズ1、大好きでした。青春でした。でも青春が終わったわけじゃなくて、たくさん新しい出会いや別れを繰り返していくことが生きていくこと。それを歌っていきます"と話し、まさにそのことを体現した「Theater」を演奏した。堂々としたミディアム・ナンバーに乗せ、命を祝い、また命の儚さも滲ませて。ラストは『Unity』収録曲の中でも、最もパーソナルな「Part of me」を藤澤のピアノ伴奏でぽつりぽつりと歌い出す大森。そこに他の3人の音がともに歩くように入ってくる構成が、先のMCから地続きの感情を呼び起こした。自分の作った音楽が誰かの一部になれるかどうかもわからない、でもすでに出会えたことが奇跡なのだ。ミセスの現在地として、1曲目の「Attitude」からきれいな円環が描かれたような必然性を伴った本編ラストに至る構成だった。
ため息と歓喜が渦巻く会場はアンコールの拍手が響き、自主的にスマホのライトが点灯している。制御されたライトバンドの演出も美しいが、各々が点けた明かりに心が動かされる。お揃いのTシャツを着て登場する光景も懐かしいうえに、アンコール1曲目は初期ナンバー「我逢人」。ちょっとshibuya eggmanにいるような気分が去来する。というのも、メジャー・デビュー・ミニ・アルバム『Variety』のリリース・パーティーが2015年7月20日のshibuya eggmanだったこともあり、当時のことが想起されたのだ。
"あっという間だったね"とライヴを振り返るメンバー。そして思い出したように大森が"お知らせがあります!"と、全国Zeppツアーを発表した。アマチュア時代からの企画ライヴ名を冠した"Mrs. GREEN APPLE Zepp Tour 2022 ゼンジン未到とリライアンス~復誦編~"と題したツアーだ。次への約束に湧くフロア。そして改めて謝辞を述べる若井も藤澤も涙を止めることができない。自分をドライな人間だと思うという大森も感極まりながら"すごく支えられてます。毎日、生きるのが大変な人の味方でいたいし、いてほしい"とこれまでファンをひたすら牽引し鼓舞し、時に少し辛辣なことも言ってきた彼が、気張らずに本心を吐露している。この変化こそがフェーズ2の核心なんじゃないか? そんな思いを抱えて、変わったこと、変わらなかったことをすべて曲に昇華した起点の曲「ニュー・マイ・ノーマル」を堪能する。ライヴという現場だからこそ、解放されたメンバーの本心に力強い始まりを見た。
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