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LIVE REPORT

Japanese

Mrs. GREEN APPLE

Skream! マガジン 2023年08月号掲載

2023.07.08 @さいたまスーパーアリーナ

Writer : 石角 友香 Photographer:田中聖太郎写真事務所

アリーナ・ツアーとしては活動休止前の2020年に行われた"Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR / エデンの園"以来、フェーズ2開幕後初のアリーナ・ツアーであり、7月5日に現体制初となるオリジナル・フル・アルバム『ANTENNA』をリリースしたばかりという、内容を推察するのが難しくも、楽しみのほうが上回る今回。ここでは驚きに満ちたツアー初日公演をレポートする。

ツアー・タイトルにインスピレーションを与えたと思しき"ノアの方舟"は旧約聖書に登場する最初の書で、人間の堕落に怒った神が大洪水で人間を滅ぼそうとするが、神の指示に従いノアが方舟を作り、家族と動物を引き連れて乗り込んだことで人類は滅びなかったという物語だ。ちなみに"エデンの園"で創生した人類のその先の物語でもある。そのままバンド・ストーリーに落とし込むことはできないけれど、知恵とたくましさを身につけた現在のMrs. GREEN APPLEの物語として引用するにはしっくりくる。

場内は鳥の声や出航前のざわめきのようなSEに包まれ、オーディエンスは神妙な面持ちで開演を待っている。暗転した瞬間、悲鳴に近い歓声が上がり、ステージ背景に船首を模した映像が現れ、メンバー名が映画のキャストのイメージで投影されると、"大航海"は「Viking」でスタート。ステージ上は暗めだが、背景の映像の登場人物のようにメンバーが映し出され、フォークロアな衣装と相まって世界観に引き込まれる。同じ船に乗り込んだ同志のようなダンサーもこの場の空気を鼓舞する。オーディエンスの存在を浮かび上がらせるバンド・ライトの演出もドラマチックだ。"会いたかったよ、方舟!"と大森元貴(Vo/Gt)が第一声を発すると同時にアッパーな「アウフヘーベン」へ。マイナー・チューンの連投と演出が融合して、ダークな冒険譚に紛れ込んだ気分だ。

一転、ステージが明るくなり、場内にミラーボールの光の粒が放たれた「CHEERS」では大森がダンサーと共にステップを踏みつつ花道を進む。サビへの飛翔を盛り上げるサポート・ドラマー 神田リョウの生音ビルドもアリーナを鼓舞する。沸き返るアリーナを一望し笑顔を浮かべた大森はギターを抱え、歌い出しから突き抜けるハイトーンで「私は最強」に突入。間奏での若井滉斗のギター・ソロが明らかに図太い存在感を示し、この1曲でバンドがロック・ヒーロー感を纏ったのも今のタフさを証明していた。続いて"買い被りってなんだっけ"の歌い出しで明らかにフロアのテンションが上昇。初期からの人気ナンバー「VIP」だ。歌詞の一部をセリフっぽくアレンジしたことや、重心の低いリズム隊の音像もあり、グッと今のバンド・サウンドに。

新作『ANTENNA』からの選曲の中でも息を呑むエレクトロニックと生音の融合、大森の表現力のレンジの広さを実感したのが「Blizzard」だった。特にヴォーカルの高低差をスムーズに歌い切りつつ、言葉のひとつひとつを包み込むように大切に歌う大森のブレのなさには圧倒された。大森のジェンダーレスな声で繋がるという意味で「Hug」を次にセットしたのもいい流れ。若井と大森の澄んだツイン・ギターの音色もしっかり届いた。各々の見せ場も多く、「私」のイントロでの藤澤涼架のピアノ、若井の泣きのギターがこの曲の静かな決意を際立たせる。ここまで8曲が披露されたがこれが半分なのか3分の1なのか、はたまたどんな展開が待っているのか? ただ、恐ろしくあっという間であることは間違いない。どの演奏もフェーズ2で磨いてきた先の現在地だからだ。

"みんな元気してた? 結構怒濤な感じで演劇みたいに進んでるけど、全然声出していいのよ?"と大森がファンに呼び掛ける。メンバーにここまでの感想を聞くと若井も藤澤も楽しい以上の言葉が出ない様子。メンバー紹介も行い、カジュアルなムードで「StaRt」になだれ込み、クラップがシンクロし、シンガロングもひと際大きくなる。カラフルなグラフィティの映像は"エデン"でも用いられたものだ。そこからの「ニュー・マイ・ノーマル」への時間を超える繋がりの良さ。大森がフェイクとハイトーンを巧みに盛り込みライヴならではの驚きを増幅する。ガラッとモードを変えたのはヘヴィな低音のエレクトロ・ナンバー「Loneliness」で、リアルなネガティヴィティを歌う大森が誰かに似ていると感じたのだが、どこかホアキン・フェニックス演じるジョーカーのようなアクションだったせいか。静寂からラウドな音像に転じ、真っ赤なライトに照らされて若井が渾身のギター・ソロをプレイ。この瞬間に新たなギター・ヒーローが誕生した感じだ。これまでのライヴよりラウドロック感の増した「インフェルノ」は神田とサポート・ベーシスト 森 夏彦によるリズム隊のタフさも演奏を立体的に届け、見ているこちらもそのうねりに振り落とされまいと思わず気を張る高いテンションが漲っていた。背景がパーティー会場を思わせるものに変わり、ダンサーも登場したことでミュージカルっぽいイメージを増幅した「Love me, Love you」はどこかタイタニック号の船内のよう。大森は花道の先端まで歩み出て、エンディングで奈落に消えた。

そこからが今回最も驚かされた部分なのだが、このライヴとまったく異質なSEが流れ、ステージ後方の高い場所にオブジェ状の装飾を冠した人物が現れると、場内がどよめく。"Siip"だ。「scenario」を歌う声はエフェクトがかかっていて、リアルタイムのものか判別しづらいが、それ以前に今目にしている存在、そしてSiipがここに登場したことの意味を取りかねて、呆気に取られているうちに、大森が花道の突端にギターを抱えて立っていたのだ。アリーナ全体がキョトンとしたのは言うまでもない。何も説明がないまま、ビッグ・バンド風の「HeLLo」が、従来以上に大人なアンサンブルで鳴らされた。驚きや疑問符を抱えたまま、ショー・マスト・ゴー・オン。ショー・タイムは「ダンスホール」に繋がっていく。ファンキーな若井のギター・カッティングはステップを踏みながらでもまったくブレない。全員がエンターテイナーとして進化してきたなかでも、彼の変化は最も目を見張るものがある。

MCを挟むことなく、彼ら流のフォークロアなタームに移行。メロディに和のテイストのある生音ヒップホップな「Folktale」、早くもライヴで披露してくれた、スウェーデン語によるチェンバー・ポップ調の「norn」では言葉の意味はわからなくとも、優しいムードに、暖色のバンド・ライトが共鳴して揺れる。アコギや森のアップライト・ベースがアリーナ規模でもそのニュアンスを伝えていたのも素晴らしい。じっくり聴き込む気持ちになったところに鳴らされた「鯨の唄」が、ひとりひとりの心に火を灯す。巨大なのに孤独に映る鯨の映像が、時を重ねてより曲とのリンクが深まった印象を持った。

凄まじく濃厚な時間を経たにもかかわらず、いい意味でしれっとした表情の大森は語り出す。"バンバンやって行ってるけどついて来れてる? 結成10周年なんですよ。そして本日、デビュー8周年。噂によるとストリーミング47億再生とか、その日一番再生されたアーティストだったとかもあるけれど、それより今、楽しいんですよ。自由に表現する、なりたかったミュージシャンにみなさんのおかげでなれてます。ありがとう"。10年という歳月と、目指していたミュージシャン像について語る大森に、去年の再始動のときとは明らかに違う自信を見た。

この日はにわか雨がアリーナの外で降っていたが、季節はもうすぐ本格的な夏。さらにライヴをブーストするように多くのリスナーに愛されている「青と夏」が輝度の高い演奏で届けられる。ラストのサビの大合唱が誰も彼も夏の主役にするような前向きなパワーを醸す。続いてケルト風のフレーズを若井が弾くと、気持ちの狼煙が上がる「Magic」へ。生音のトロピカル・ハウス風のアレンジが夏気分をさらに加速させた。気持ちが解放されたところに大森のヴォーカリストとしての底力が発揮された「Soranji」の歌い出しで、正直これがツアー初日なのか? という、ちょっとした畏怖を感じてしまった。

今日何度目かの呆気に取られたムードのなか、メンバーが笑顔で話す。藤澤は"いつかアリーナでできたらいいなって曲もあったから嬉しかったな。いい初日になったと思います"と言い、大森は"3人とも意味ある日々を過ごせてるなと思います。なるようになるね?"と話すと、フロアからは同意となんとなく次の選曲を察した拍手が起こる。再度、大森が"なるようになったね、フェーズ2。今日はありがとう、一緒にいてくれて"と、謝辞を述べ、今の彼らがすべての世代に向けて歌う「ケセラセラ」だ。サポート・メンバーも含め、生身のバンド・サウンドという印象が強い。セルフ・ラヴについて歌ってもいるし、お互いの存在を労う大人の優しさもある。ステージ上はダンサーも再び登場し、大団円ではあるのだが、日常と地続きなこの曲によって、続いていく毎日をちゃんと意識できる気がした。Mrs. GREEN APPLEのライヴで得た初めての感覚かもしれない。

アンコールでようやくニュー・アルバム『ANTENNA』をリリースしたことに触れ、さらに"先のことまで決まってるんだよ!"と不敵な(!?)笑みを見せた大森。今のMrs. GREEN APPLEの自由度をさりげなく落とし込んだ「Feeling」がラストに演奏されたことに大いに納得したのだった。

今年の彼らのツアーは今回のアリーナ、そして続くドームへと物語を繋いでいくようだ。なぜなら、エンディング・ムービーは"ノアの方舟"のさらにその先にある"アトランティス"を予見させていたから。


[Setlist]
1. Viking
2. アウフヘーベン
3. CHEERS
4. 私は最強
5. VIP
6. Blizzard
7. Hug
8. 私
9. StaRt
10. ニュー・マイ・ノーマル
11. Loneliness
12. インフェルノ
13. Love me, Love you
14. scenario by Siip
15. HeLLo
16. ダンスホール
17. Folktale
18. norn
19. 鯨の唄
20. 青と夏
21. Magic
22. Soranji
23. ケセラセラ
En. Feeling

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