Japanese
Mrs. GREEN APPLE
Skream! マガジン 2016年05月号掲載
2016.04.10 @赤坂BLITZ
Writer 石角 友香
この日のMrs. GREEN APPLE(以下:ミセス)は、新世代ロック・バンドの急先鋒というよりは、同じ時刻のあらゆるエンターテイメントがライバルなんじゃないか?と思うほど、ライヴというものの可能性と楽しさを表現していた。メンバーの表情を大写しにするスクリーン、和太鼓の登場、巨大バルーンに、アコースティック編成......正直、まだまだ大きくなっていくであろう彼らなら、その先のツアーで実現しても良さそうな演出を惜しげもなく投入したあたりに、いかにライヴの濃度を高め、会場の隅から隅までを楽しませるか趣向を凝らすという高いモチベーションを感じた。演出はその必然でしかない。
会場が暗転するとともにさらに前方へファンが押しかけ、フロアの熱量の凄まじさを実感。勢いよく飛び出してきたメンバー5人が横一列になってお辞儀するスタイルは、ロック・バンドっぽい習慣を軽くブチ壊す。1曲目はアルバム『TWELVE』同様、「愛情と矛先」。全員の鳴らす音がクリアに聴こえて気持ちいいうえに、お揃いのアクションで沸かせ、何よりメンバーが楽しんでいる。その勢いのままアッパーな「SimPle」へ。メジャー・シーン登場時からスキルの高いバンドだが、今回の全国ツアー"TWELVE TOUR ~春宵一刻とモノテトラ~"で各々のスキルもアンサンブルも圧倒的に向上。若井滉斗(Gt)は彼のルーツであるソリッドなリフをさらに研ぎ澄まし、髙野清宗(Ba)の多彩なフレージングやスラップ、山中綾華(Dr)もパワーだけじゃない緩急に磨きをかけている。インカムをつけて自由に動きまわる扇動隊長・藤澤涼架(Key)は、いつも通り目で追うのが大変なくらいだ。そんな中で、大森元貴(Vo/Gt)は会場全体を掌握するように、ある種、冷静に歌に集中している。
"ファイナルにようこそ"、"ありがとう"とMCは言葉少なく、演奏でミセスの世界をどんどんビルドアップしていくようなライヴ。笑顔が似合うレパートリーの中に挟まれた「ミスカサズ」は、テーマのヘヴィさが演奏にも反映され、モノローグのようなAメロから徐々に感情に熱を帯びていく大森のヴォーカリゼーション、それとともに呼吸するような演奏に息を呑む。アルバムの中でも新たなチャレンジだった、ピアノが主役の「私」では、藤澤がエレピとオルガン両方のサウンドを操り、彼らの楽曲にしては珍しく、そこがライヴハウスでもリスナーがひとりで堪能できるような、情景と感情を喚起させる曲の世界を丁寧に紡ぐ。前方の女性ファンがたまたまライトに照らされて見えたのだけれど、アッパーな曲で腕を挙げると同時に、「私」では真剣な眼差しで涙さえ浮かべているように見受けたのだが、きっとそんな人も多かったんじゃないだろうか。そうやって、1曲1曲の力でオーディエンスの感情を瞬時に塗り替えていく、そのスピード感が凄まじい。
興奮気味の髙野に年下の若井がツッコミを入れる感じがいかにもミセスらしいのだが、ふたりがオーディエンスを男女に分けてコール&レスポンスしている間に、大森がアコギに持ち替えて"次にやる曲のシンガロングの練習をしましょう"と、"オウオウオ"と歌うウォーミング・アップをしてからの「HeLLo」。大合唱の中、緑のラバーバンドが揺れる光景は、ミセスのフェスティバルといった様相だ。そして"この曲で(ミセスを)知った人も多いんじゃないですか?"と、1stシングル「Speaking」に突入すると、これまたサビでは大合唱。はっきり言ってすべてがキラー・チューンというか、曲の細部がファンの日常に完全に浸透しているのが手に取るようにわかる。別にどのメロディやキメで同じ振りをするとかじゃなく、歌詞を自分自身のものにしていることが生むグルーヴというか......。温度の上昇をさらに増幅するように若井がフィードバック・ノイズを起こし、グッとエレクトロニックな新曲「うブ」に突入。大森のヴォーカルはオートチューン、髙野はシンセ・ベースというアレンジも効果的に聴こえ、魅せるステージングができたことで、完璧なダンス・チューンに進化していた。
若干あっけに取られた感のあるフロアをざわめかせるように和太鼓4張がステージに運び込まれ、音源では山中がそれを叩いていた「No.7」が、髙野の跳ねるベースを軸にタフに展開。和太鼓はフロントの男性陣が叩き、山中はそれと同じ拍子をドラムで演奏するというユニークな演出で魅せてくれた。後半のヘヴィな展開などただでさえ変則的なこのナンバーに実際に和太鼓を持ち込んでしまうあたり、ショーとしての満足度を格段に上げようとしているのがわかる。
ライヴ終盤は、キラー・チューンだらけのミセスの楽曲の中でもさらにジャンプとシンガロングが大きくなる「リスキーゲーム」、山中のフロアタムのロールがお腹に響き渡るイントロから始まる「StaRt」と展開。ステージ上のメンバーはもちろん、フロアのファンも自分の全能感に満たされていくような、いつまでもこの時間が続いてほしいと思うようなエネルギーがBLITZ中に膨張していくようだった。
あまりにも無駄なく全力で走ってきただけに、"えー、最後の曲になります"と大森が言った際、私自身も素で"えー!"と言ってしまうぐらい、あっという間すぎる13曲がすでに終了。この日、何も言葉で説明する必要はないのか、MCですら感謝か他愛のないことしか話さなかった大森が、この瞬間だけは"ありがとう、ホントそれしかないな。高校生のとき、若井とバンドを組んで、CDを出したいとかツアーをやりたいとか、夢物語を話してたんですけど、話してたことが実現していくってなかなかないんで、報われる気持ちです"とシンプルに感謝を述べる。もはやこの曲についてのシリアスな説明も不要といった感じで、"結成したころに作った曲です"と、引き締まった演奏で「パブリック」をやりきった。そう、バンドにとって大切なこの曲は、今回の『TWELVE』を軸にしたツアーで、曲そのものとして、より知られるものになったのだ。もはや解釈はリスナーの手に委ねたということだと思った。
アンコールでは、藤澤にとってはもともと専門であるフルートも生披露した「庶幾の唄」、リリースが発表されたばかりの新曲「サママ・フェスティバル!」もサプライズで初披露。完全に新たな段階に入ったMrs. GREEN APPLEの成長の速度にクラクラしつつ、全編が終了したのだった。大森元貴個人の痛みや承認欲求が見えていたこれまでのライヴから、終始笑顔が溢れる、全方位に開かれた音楽の鳴る場所へ。バンドの第1章として大きな変化が見て取れたツアー・ファイナルだった。
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