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INTERVIEW

Japanese

ドレスコーズ

2025年05月号掲載

ドレスコーズ

Interviewer:石角 友香

ロックンロールが単に音楽の1形態であるなら、博物館に閉じ込めて愛でればいい。しかしこの表現方法は常に時代と分かちがたいからこそ、今も有効なのだ。昨年、初の自叙伝"ぼくだけはブルー"を上梓したことで、過去を振り返ることに飽き飽きしたという志磨遼平が、今この時代にバンドを始めたら? という仮説のもとに作り始めたのが、ニュー・アルバム『†』だ。奇しくもドレスコーズとして10作目にあたる本作は、志磨のロックンロール哲学が具体的にはどんなものなのか? を体現する。

-いきなり余談でもないんですけど、今回のアーティスト写真等のヴィジュアル・イメージは何か参照元が?

Nick Caveの若い頃の写真を見せて"こういうふうにしたいです"と伝えまして、ヘアメイクさんが一生懸命スタイリングしてくれました。まぁちょっと80年代風のゴシックなイメージでございます。

-志磨さんが(CDの)ジャケットに登場するのは久しぶりですね。

そうなんです。普通に写るのは......これを普通と言うならですけど、『オーディション』(2015年リリース)というアルバムぶりなので10年ぶりぐらい。

-非常にこの間がコンセプチュアルだったとも言えそうです。ちょっと遡るんですけど、去年は自叙伝を執筆していらっしゃって、ニュー・アルバムのリリースはありませんでしたが、大きな理由はなんだったんですか?

マルチタスクができない人間なので、執筆と作曲を両立する自信がなかったんです。なので(自叙伝は)書き始めてから校了まで半年ぐらい、作曲のことは一旦忘れて、毎日起きたらパソコンに向かってちょこちょこ直しては書き進め、という作業に没頭していました。

-なるほど。"ぼくだけはブルー"を書くなかで本当に久しぶりの反抗期が訪れたそうですが。

いや、本当なんですよ。例えば学生時代のことを一生懸命書いていると、そのときの気分が蘇ってくるんですね。学校を辞めるくだりなんかを書いてると、無性に腹が立ってきて。で、途中に両親のインタビューなんかも挟まるんですけど、それを読んでまたムカムカしたり。30年ぶりの反抗期です。
でも、例えば毛皮のマリーズを結成したばかりの頃について書いているときは、やっぱりなんでもできる気分に戻るというか──僕に限らず、20代前半の若者であれば誰しもが持っている──無鉄砲さみたいなものが蘇ってきて。で、初期のドレスコーズが崩壊に向かう時期の記憶は、やっぱりちょっと......思い出したくないというか、開かないように何重にも鍵をかけて箱にしまってある記憶というか。その箱を開けて、再び向き合うのもなかなか苦しい作業で。執筆中はいろんな感情がジェットコースターのようでした。

-自分の過去を振り返るという、ものを作ると言っても(音楽等とは)性質の違うものに向かうことになりますね。

自分はこれまでの来し方を振り返る、まして反省なんかすることもなく今までやってきたんだな、と。こうやって初めて自分の生い立ちから何からを総ざらいして、一つ一つ書き起こしていくなかで、これを書き終えたときに自分の人生に区切りがついてしまう予感がして。"あぁ、今までいろんなことがあったな。まぁよくやってきたほうじゃないか"なんて思ってしまったらどうしようっていう。まだなんにも成し遂げていない、志半ばのこの状態で人生のお会計をまとめるのか、というのがすごく怖くなったんですね。
僕はこのまま老いていくんだろうか、昔の良かったことを思い出しては"僕にもこんな時代があったんだよ"なんて。そう思うと恐ろしくて、いてもたってもいられなくなって、"何をやってるんだ"と。"曲を作らなきゃ。新しいアルバムを作らなきゃ"と思ってできたのがこれですね。

-懐かしい感情っていうのは世間一般的にはいい感情だと思われてはいますけど。

僕にももちろん、誰かとの大切な記憶というのはありますけど。でもやっぱりこと自分の仕事に限っては、振り返るというのはあまり心地よいものではなかったですね。

-偉大なアーティストの作品とかに関して我々は昔のもの、歴史的なものを参照するわけですけど、こと自分のことになるとたしかに居心地が良くないかもしれない。

そうですね。そんなのはジジイになってから、老後の暇潰しにでも取っておけばいい。僕が今やるべきことは懐かしさとかノスタルジーなんかと無縁のもの、怒りであるとか、葛藤であるとか、そういった激しい感情に今は身を置いていたいとすごく思いましたね。

-収録曲の「ハッピー・トゥゲザー」が、自叙伝の締めくくりとも話していらしたと思うのですが、この曲が先行してできた段階でこんなアルバムにしたいというテーマはあったんですか?

今言ったような激しい感情、怒りとか葛藤を歌うべきだというのは執筆中には決めていたものの、その本を書いている最中に「ハッピー・トゥゲザー」ができたので、それを本の"あとがき"として先にリリースして、その後にアルバムに取り掛かることにしたんですが、その前にツアー([the dresscodes TOUR 2024"Honeymoon"])を回ったんですよ。これがダメ押しになって。
そもそも、ツアーの予定を組んだ時点では自叙伝を出すことも決まっていなかったんですけど、たまたま出版のタイミングと重なったので、ちょうどいいんじゃないか、ということで自叙伝の内容をそのままなぞるようなツアーにしたんです。僕のレパートリーの中でいわゆる代表曲として認識されているものを時系列順に並べる、まぁベスト・オブ・ベスト的なツアーをやったんですね。これが非常に......堪えまして。自叙伝を書いてしまったことに加えて、昔の曲ばかり歌うことで......過去と現在の自分の感情の乖離に拍車が掛かっちゃったんです。

-あぁ、ライヴのテーマによって。

そうそう。本にする分にはまだ良かったんですけど、実際に当時の曲を並べて歌ってみると、やっぱりどうにもスッキリしない。今の僕にはもうフィットしなくなってたんです。でもツアーの最中は必死ですから、そんなことすら気付いてなくて。心身の不調と折り合いをつけながらがむしゃらに歌い続けたんです。やっぱり一曲一曲に当時の記憶が結び付いてますから、また感情がぐちゃぐちゃになって、そんなツアーがようやく終わったときに思ったのは、"もうこりごりだ"と。

-振り返るのは。

そう。振り返るのはこりごりだという。それではっきりしたんですね。自叙伝からそのツアーを経て、やっと自分の過去に飽き飽きしたんです。大切にすべき過去など何もないというくらいに。だから新しい作品を生み出すこと、これがやっぱり自分には健全に思えますね。今はツアー中と比べ物にならないくらい健康状態が良いので、過去にとらわれず新しい道を進むっていうのは非常に健全です。

-ドレスコーズのアルバムはここのところずっとコンセプチュアルだったと思うんです。
それで今回も一見、今のもうバンドと言えそうなライヴ・メンバーと、策を練りすぎずに作られたアルバムという印象を受けたんですね。でも彼等は、いわゆるオーセンティックなロックンロールをプレイするミュージシャンではなくて。

そうですね。今回のアルバムは今言ったように、自叙伝とツアーで自分の過去を清算した後、全く新しい人生を始めるような気分で着手しました。なので、レコーディングの前には"これからデビューする新人バンドのつもりで演奏してください"とメンバーにお伝えして、彼等もまたその言葉の意味を違いなく理解してくれて。だからもしもこのアルバムにコンセプトがあるとすれば、"架空のバンドのデビュー・アルバム"ということになると思います。僕がレコード屋でこれを見つけたら一発で夢中になるような、そんな理想のバンドのデビュー・アルバム。そういうつもりで作ってましたね。

-作品ごとにジャンルが変わってた頃とは違う意味で、これをやることが意思なんだなと思ったんです。

うんうん。ありがとうございます。

-それは歌詞が一見、昔と変わってないようで実は変わってるというか、例えば今回の「うつくしさ」は「ビューティフル」(2008年リリースの毛皮のマリーズの1stシングル『ビューティフル / 愛する or die』表題曲)と同義かというと違うじゃないかと。

そうですね。違います。

-より切実なものを含んでいるなと。

はい。今を生きる者としての切実さっていうのはきっと皆さんも同じだと思うし、我々が今生きている世界は決して良い状況ではない。それは好転するどころかますます堕落してゆくように思える。で、それは、あらゆる立場、あらゆる環境で言えることではありますけど、僕もまたロックンロールというアートを愛する者として、とてもじゃないけど見過ごせない最低さなんです。このアルバムの切実さこそがロックンローラーの使命じゃないですか? 今、もしロックンロールを標榜するなら、それを歌わずしてロックンロールと名乗ることはできないので。