Japanese
志磨遼平
Interviewer:TAISHI IWAMI
毛皮のマリーズがセルフ・タイトル・アルバムでメジャー・デビューした2010年から、ドレスコーズの最新曲「ピーター・アイヴァース」まで、志磨遼平の10年を2枚組全30曲にまとめたベスト・アルバムが本人監修のもとに登場。改めてディスコグラフィを片手にそのキャリアを辿りながら聴いてみる。プリミティヴなロックンロールに始まり職業作家的なポップ・ソング、その時代を映し出すトレンドと共鳴するスタイルまで、様々な音楽性と共に、コンセプチュアルな側面とポップな即効性を併せ持つアルバムを作り続けてきた彼は、やはり類稀なセンスとスター性の持ち主だと強く実感した。しかし、本人は自らのキャリアを"ID10+"と書いて"イディオット"、すなわち"馬鹿の10年"というタイトルでまとめた。その真意やいかに。
1年前に"世界の終わり"を歌った男が、今の世界に思うこととは
-志磨さん(ドレスコーズ)はちょうど1年前に、"人類最後の音楽"をテーマにしたアルバム『ジャズ』をリリースしました。また、それに伴いYouTubeで公開したショート・フィルム"THE END OF THE WORLD PARTY"には、"僕は、世界が終わるときはもっと大混乱があると思ってた。戦争とか大地震とか、魚雷が来て島ごと吹っ飛ぶとか。だからこれはだいぶいいです"、"僕らは別れを告げることもできるし、恋人を抱いて眠ることもできるし、母親に連絡もできる"、"ほとんどの人にとって世界は開いたままの傷口だったじゃない? 今夜それがやっと癒えるの"といった台詞もありました。そして今、コロナウイルスの感染拡大により、世界を終わらせないためにみんなが知恵を絞っている状況ではありますが、ある角度から捉えればそのフィルムと近いことが起こっています。さらに、今回ベスト・アルバムを出すタイミングとも重なってしまったことについて、どういう感情をお持ちですか?
『ジャズ』をリリースした頃には、まさか1年足らずでこんな未来がやってくるなんて、もちろん思いもしなかったですよね。今回のベストも、メジャー・デビューしてから今年で10年なのでベスト盤でも出しませんか、というタイミングがたまたまこの春だったという。もう今となってはそれどころじゃない、なんだかバツの悪い気分ですね。世界中がここまで不安定になる事態って、生きている間にそうそう起こることではないじゃないですか。寝て起きたらまた事態が悪化していて、世間のムードも日に日にシリアスになっていく。僕が今日この時点で言葉にする今の気持ちも、記事が出る頃には変わっているかもしれない。早々に明るい話じゃなくてすいませんね。
-いえ、話を振ったのは私なので。
例えば、友達と"そっちは大丈夫?"と連絡を取り合ったり、ACジャパンのCMが流れ始めたり、やっぱり思い出すのは2011年の東日本大震災直後の頃ですよね。僕が毛皮のマリーズとしてデビューしたのが2010年で、今回のベストはそこから10年というわけですが、時代のディケイドとして振り返ってみても、2010年代は決していい話題がたくさんあったとは言えない、世界的な混乱期だったように思います。その中で、昨年の『ジャズ』もそうですけど、世の中の様々な影響を受けながら僕は音楽を作ってきたんだな、と思いますね。
-志磨さんにはバンドのフロントマンとしてのスター性もあれば、作家的な魅力もあり、"世の中の影響を受けながら作ってきた"とおっしゃったように、作品ごとで言葉にできる狙いもあります。そんな10年の軌跡を辿るベストを"ID10+"と書いて"イディオット"、すなわち"馬鹿"とした経緯を教えてもらえますか?
自分の存在を指す"ID"と10周年の"10"は、字にすると形が似ているでしょう。それに漢数字の"十"を合わせて"IDIOT"と読ませたら、デザイン的にも面白いロゴが作れそうだな、と思いつきまして。振り返れば"馬鹿"なことばっかりやってきたな、とも思いますし。さらにゴロ合わせで、DISC 1 を"RIOT"盤、DISC 2を"QUIET"盤と名付けました。
-"RIOT"と"QUIET"の具体的な違いはなんですか?
まぁ、誰しもが持つ二面性みたいなものですね。この作品においてざっくり言うと、やんちゃな僕が"RIOT"で静かな僕が"QUIET"です。
-そして、"RIOT"は冒頭の新曲「ピーター・アイヴァース」と、最後の「愛に気をつけてね」を除けばリリース順、"QUIET"は時系列ではなく、流れを重視した曲順になっています。
TAISHIさんはDJもされるから、なんとなくわかってもらえると思うんですが、例えば1時間のセットがあったとしたら、シチュエーションに合わせて曲と曲との繋がり、盛り上がる流れを考えてプレイするじゃないですか。
-はい。
このベストもそうやって、"この曲の次にこの曲がきたら盛り上がるな"とか、"この曲とこの曲を繋いだらドラマチックだな"とか、いろいろ試行錯誤したんですけど、"RIOT"はただリリース順に並べた曲順が一番盛り上がる、ドラマチックな曲順に聴こえたんですよね。
-では、まず1枚目の"RIOT"の収録曲を軸に、志磨遼平とは何者なのかをひもといていければと思います。2014年にリリースしたドレスコーズのアルバム『1』のツアーで、「愛に気をつけてね」を演奏したときに、MCで自らのことを"ペテン師"とおっしゃっていたように、世界を飄々とあざ笑っていたのか、もしくは様々な色を持つカメレオンなのか、全体のタイトルそのままの馬鹿なのか。
僕の作品や態度になにがしかの期待を寄せてくれている人に対する、ある種の裏切りとかペテンは、ひとつのサービスだと思っています。それはなぜかと言うと、自分が音楽だったり、小説だったり、いろんな表現の"裏切り"に惹かれて育ってきたから。だから、自分のファンにも同じような驚きや興奮を提供したい、という気持ちがあります。そのためならペテン師にでもなんにでもなろう、と。
-そして、ドレスコーズが2014年の3rdアルバム『1』でバンドではなく、ソロ・プロジェクトになってからの変化は今回質問したかったことのひとつです。「スーパー、スーパーサッド」はまさに、ひとりになった孤独を歌った曲ですよね?
そうですね。ひとりという最小単位の体制になったことで、自分の中の何かが底を打ったんでしょうね。やっぱりドラマチックな物語は他人との関係性の中で生まれるわけで、ひとりでドラマを演じていたら、それはペテンですらなく、ただの憐れな男になってしまう。なので、その次のアルバム『オーディション』(2015年リリース)以降は、自分自身の物語ではなく、おのずと外の世界に目を向けるようになりましたね。
-『オーディション』以降はサウンド面だけを取っても、ポップ・ミュージックのトレンドに乗るにせよ、反るにせよ、外の世界への意識は高くなったように思います。
そうですね。『オーディション』より前は、時代とか国籍とか人種とか、そういうボーダーを取っ払うことが芸術の命題だと思っていました。それが、"今"、"この国で"という社会性を持った創作にテーマが移っていったんです。パーソナルな出来事や感情を歌うというよりは、世の中の何かを察知、感知しながら、それらを作品に変換していくようになりました。それはペテンとか、ドラマの主人公になりきることとはまた違うんですよね。ドラマって、主人公の感情の動きを主人公の視点から描くじゃないですか。
-たしかに。
子供の頃はみんな、自分が主人公だった。今日あった出来事や自分の気持ちをみんなに聞いてもらいたかった。それが僕の場合は『1』まで続いていたんですね。それが『オーディション』からは"世界にこういうことが起きている"とか、"人々はこういうふうに暮らしている"とか、視点が自分の外に移動してるんです。小説でいうところの"神の視点"と呼ばれるあれですね。僕は神ではないので、俯瞰や鳥瞰といった言葉が適切かもしれません。セルフィーの自撮りだったのがドローンの空撮になったような。
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