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Japanese

ドレスコーズ

Skream! マガジン 2014年10月号掲載

2014.08.17 @日比谷野外音楽堂

Writer 齋藤 日穂

Barbra Streisandの「パレードに雨を降らせないで」がこんなにも意味を持って響き渡ったことがあっただろうか。前日から不安定な天気が続き、果たしてライヴ当日は晴れるのか......という心配もただの杞憂に終わり、ドレスコーズによる夏の祭典"ゴッドスピード・サマー・ヒッピーズ"の開催を祝福するように真夏の太陽が日比谷野外音楽堂を照らしていた。そしてSEとしてこの「パレードに雨を降らせないで」が流れたとき、ロックの神様を心から抱きしめたいと思った。
日差しが傾きかけた頃、高らかに手を上げ、観客の声に応えながらドレスコーズが登場。1曲目に鳴らしたのはなんといきなり新曲。9月24日にリリースする『Hippies E.P.』より「ドゥー・ダー・ダムン・ディスコ」だった。挑戦的に鳴らされた新曲では志磨遼平(Vo)がシンセサイザーを鳴らし、今までのドレスコーズにはなかった新しいサウンドで会場を圧倒した。今作は"ダンスミュージックの解放"を標榜して制作されたというだけあって、初めて聴いても自然と体が動いてしまうようなリズムとビートが刻まれる。そして次に鳴らされるのは1stアルバム収録曲でラテンのムード漂う「誰も知らない」。4人の爆発するようなパフォーマンスで一気に日比谷のヴォルテージを上げてく。そのふり幅の大きさに驚かされるが、彼らはこれからのドレスコーズと今までのドレスコーズをはっきりと提示しているのだ。決して過去を捨てるのではく、昇華させた上でドレスコーズの"ダンス・ミュージック"は解放される。
"何があっても倒れないのがロックンローラーだ。僕らの夏を始めよう!"という志磨節炸裂のMCで始まった「Lolita」では観客たちの無数の拳が夏の青空に向かって突き上げられ、「リリー・アン」、「レモンツリー」とガレージ色の強い初期の名曲を立て続けにパフォーマンスしていく。こんなにも自由で、圧倒的。これがロックンロールだと思わせるドレスコーズのパフォーマンスに胸ぐらを掴まれたようだった。長い手足を余すことなく広げ、マイクを握って縦横無尽にステージを闊歩する志磨はまさにロック・スターそのもの。そして志磨がここまで自由にステージを動き回れるのは3人の揺るがない演奏があるからなのだ。そのテクニックと信頼関係があるからこそドレスコーズのロックンロールは鳴らされる。"...これがロックンロール、わかんないヤツは  全員くたばれ!"と歌われる「トートロジー」での志磨の叫びがいつも以上に深く突き刺さった。
まだまだドレスコーズは止まらない。手拍子だけでは足らずに、足踏みまで観客に要求し始まったのは「ゴッホ」。独りよがりな様で大衆的、暴力的に見えて呆れるほどに優しいポエトリーな歌詞を機関銃のようにぶっ放し、一転してサビでは甘美なメロディを朗々と響かせる。続いて"正しいのど真ん中ぶっ飛ばすぜ!"と「バンド・デシネ」を勢いよく放ち、本編は終了した。
だが、この日は真夏の祭典。あっさり終わるはずもなく、再びステージに現れた彼らは豪華なアンコールを魅せてくれた。まず、『Hippies E.P.』の制作に参加した□□□の三浦康嗣がゲストとしてステージに登場。ドレスコーズのメンバーと新作の制作中の話などで盛り上がり、突如曲が始まった。どこから曲だったのか?と思ってしまいそうなぐらい、MCから繋がって自然と鳴らされた新曲はラップ調なのだ。今までのドレスコーズからは考えられないサウンドだが、これが今のドレスコーズ。その後もオリエンタルな夏の雰囲気漂う「Ghost」や、"今日のために作った歌"と話した「ヒッピーズ」と、それぞれ特色の違えども基盤にあるのは"ダンス・ミュージック"という、カラフルな楽曲たちが夏の夜に解放されていく。「ヒッピーズ」では・ミラーボールが回りだし、ぎらぎらと眩しく華やかに会場を彩った。今までのドレスコーズ、ひいては毛皮のマリーズから追いかけてきた人にとっては衝撃的な変化かもしれないが、彼らは止まることなく進化し続ける。本編のMCで志磨は"僕が間違うはずなんてないよ。だって僕だもん"と話した。はっきりと言い切ったその言葉に偽りなく、自由に、なおかつ堂々と胸を張って奏でられる彼らの新しい音楽は、好みこそ分かれるかもしれないが、否定なんてできない。真っ直ぐ進もうとしている彼らを、祝福の拍手で迎えるべきだ。
新曲の披露で終わるのかと思いきや、ダブル・アンコールに応えて再度登場したドレスコーズが鳴らしたのは「1954」。毒々しい赤いライトがステージを照らし出し、刺々しさをむき出しにして会場を静まり返らせる。曲が終わり"夏にとどめだ!"と志磨が叫んで「Trash」が鳴ると会場からは大歓声が。この夏、最大級のロックンロールを魅せてくれたドレスコーズの未来に、より一層期待してしまうのは言うまでもない。

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