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LIVE REPORT

Japanese

ドレスコーズ

Skream! マガジン 2021年01月号掲載

2020.12.20 @恵比寿ザ・ガーデンホール

Writer 石角 友香 Photo by 森好弘

着座のライヴでこんなに疲れているのはなぜだろう。感情を拍手に託すのみで、その持っていき場がなかったことで興奮状態がなかなか収まらない感じだ。今回の"EBISU REGRET"と銘打ったライヴ。本来なら4~5月に、志磨遼平メジャー・デビュー10周年のツアーが東名阪で開催されるはずだったが、延期になり、その中で両極に振った公演"OSAKA RIOT"と"NAGOYA QUIET"を、なんとか2020年中に実現すべく、1日公演の2部構成とし、練り直したものだ。"キャリア史上最大音量のロックンロール暴動集会"というキャッチが付いた"OSAKA RIOT"と、"名曲の数々を惜しみなく披露する、静かな静かな演奏会"と形容した"NAGOYA QUIET"。それを1日で行うわけである。ドレスコーズというバンドの幅というか、振り幅の大きすぎる志磨遼平のバンド・スタイルの概念が対決する、まるでドレスコーズによるドレスコーズの対バンが実現した感じだ。

開場BGMにはKeith Jarrettのピアノ・ソロが流れている。復帰困難と言われている稀代のジャズ・ピアニストのレパートリーを選んだのは、リスペクトの表れなのか。シリアスな気持ちになるなか、暗転したステージに菅 大智(Dr)、有島コレスケ(Ba)、中村圭作(Key)、伊藤 彩(Vn)、福島健一(Sax/Banjo)が登場。少しあとから現れた志磨が電球の灯を点け、マスク越しに拡声器で「でっどえんど」を歌い始める。よく見ると志磨も有島も埃を払うような仕草を何度もし、機材には蜘蛛の巣が張っている。長らくライヴが行えなかったからとも、戦時中の秘密の地下室のようにも見える演出だ。有島はアップライト・ベースを弓弾きするなど、全体的に一音一音が際立つアレンジ。「嵐の季節(はじめに)」もこのアコースティックな編成でリアレンジした。緞帳に使うような赤い布の背景も相まって、ゾクゾクする「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」を演奏し終えると、志磨が"ご無沙汰しております、ドレスコーズです"と初めてMC。続いては毛皮のマリーズの「センチメントがお好き?」を、グッとサウンド的には抑えたアレンジで披露した。

1部の個人的なハイライトは、Kurt Weillの「三文オペラ」を再解釈した「バルバラ・ソング」。様々な男性が現れても"ノン!"と言い続けた女の子が"冬のように冷たい人"にはそう言えなかったという物語が、舞台の一場面のように心情と姿を伴って立ち上がった様は圧巻だ。また、音源ではエレクトロニックやヒップホップ的な印象もある「もろびとほろびて」を、ピアノとヴァイオリンの生音に置換したのも、このバンド・メンバーの意思疎通が完璧であることを証明していた。繊細なアレンジだからこそ、志磨のヴォーカルも際立つ。「Trash」で大きなグルーヴを作り出し、「ゴッホ」では菅のドラミングとポエトリー・リーディング(セリフ)が、セッションのごときスリリングな様相を呈し、さらに他の楽器も加わって、エレクトリック・スタイルにはない言葉の抜けの良さに射抜かれた。死んでから評価される"ゴッホじゃやなんだ"というフレーズももちろんだが、この日は"ぼくらがなにかを変えるため生まれたなら/こんな音楽も本当はいらないだろう"の部分が刺さる。この曲が作られたときと意味はもちろん違うのだが、今年を通して、人間ひとりを変えるという意味で音楽はやはり必要だと思った。そんな気持ちや、まだまだ先の見えない、むしろ不安が募る今、続いて披露されたのがマリーズ(毛皮のマリーズ)の「欲望」だったのが決定的に涙腺を決壊させる。そう、何も捨てず、何もあきらめず、年をとろう。見れば志磨は高く高くピース・サインを掲げていた。"QUIET"というテーマはもとより、2020年の年の瀬だって我々は諦めの悪い貪欲なやつらなのだ。こんなにも今、「欲望」がハマることに驚きと納得の両方が押し寄せる。メンバー紹介をし、そのまま音源の「銃・病原菌・鉄」を流しながらメンバーはステージをあとにした。

セット・チェンジと休憩を兼ねた20分。サウンド・チェックですでに凄まじいノイズ・ギターが聴こえる。静かに着席したフロアにチャールズ・チャップリンの"独裁者"の演説が流れ、アメリカ国旗、もしくは動脈と静脈を思わせる赤と青のライトが照射されるなか、菅と有島は1部に続いて、そして、ツイン・ギターは越川和磨とケンゴマツモト(THE NOVEMBERS)という、エキセントリック且つエクストリームな布陣で登場した。このホールでこの音量と音圧はアリなのか? というぐらい身体にGを感じるフィードバック・ノイズの「人生」からスタート。冒頭からマリーズである。というか、ほぼマリーズのレパートリーで占められた第2部。サウンドももちろんなのだが、初期衝動は歌詞も代替不可能。いわゆるポエティックな要素はいらないとばかりに、轟音に張り合うように志磨もシャウトする。「アンダー・マイ・ヘア」も「ロマンチック」もひたすら全力で暴走する。

笑うしかなかったのが、全員必要以上に動き、暴れるのだ。シールドを捌く楽器担当もほぼステージ張りつきっぱなしで、それがすでに演出に思える。1977年のSEX PISTOLSかMC5かTHE STOOGESか? といった感じ。帰りに出口で20代と思しき男性ふたりが、"50年前のコンサートってこんな感じだったのでは"という意味のことを言っていたのだが、さすがに50年は昔すぎる。でも、ロックンロールや初期パンクのライヴと言えば何が起こるか予測不能で、いい意味で、ただうるさい。それが70年代後期のユースには最高のカタルシスだったのだ。その意味では昔の無秩序なライヴを思い出したのはあながち間違っちゃいない。ただ、この日のドレスコーズはしっかり演奏できているうえで、暴れているのである。リズムも乱れないし、曲として成立している。だからこそ、着座しているオーディエンスの熱量は自分の中で膨張していくばかりなのだ。

ブギーな「ACボーイ / DCガール」、ドライヴする「ボニーとクライドは今夜も夢中」と、青春の破滅、無敵っぷりが、もう十分大人である5人が鳴らすことで痛快さが増幅していく。究極、いつまででも駄々をこねるのがロックンロールという生き方だと思う。それをやりすぎなぐらいの出音でぶちかます。第2部は、志磨はもちろん、越川の変わらないロックンロール・ギタリストとしての佇まいに何度も覚醒した。こんなギタリスト、海外にも今、いないんじゃないだろうか。全員、黒のベルボトムを穿いているのもひとつの世界観を作ることに成功している。これは本物だけど、今始まったことじゃないのだ。完璧に振り切れたライオット・ボーイズを今、リアルに見せるための装置が衣装であり、アクションでもある。2020年の今、ロックこそ完璧に世界観を作らなければ強度を持たないと志磨はわかっているのだと思う。

エレキ・ギターの鋼鉄の弦の響きがザクザク伝わる「アンプリファイヤー」に続いての「トートロジー」で少しメロディアスになり、生き方を伝える「ビューティフル」。"ビューティフルに/生きて 死ぬ、ための 僕らの人生"、こんな歌詞が似合うのはこの信じがたいほど生身でかっこいいメンバーのせいだろう。まるで漫画みたいなバンドである。志磨がタンバリンを叩き、ステージを走ると一気に華やかさが増す「コミック・ジェネレイション」では、自ずとクラップが起きる。エンディングで志磨が手を挙げ、指を結んだ瞬間、見事にドラムを止める菅。このメリハリがあってこその轟音だ。しかし面白いのは序盤がカオティックな轟音ナンバーで、徐々にポップになっていく曲順。

もうじっとしてるのが苦痛でしかないのだが、お構いなしに「世界のトップ」で再びカオスに突入。有島はなんなら骨折も厭わないといった感じで無茶な動きをしているし、志磨は前転してさっとマイクに戻り"今日はアンコールないよ!"と叫び、メンバー紹介をし、そのままラストの「(This Is Not A)Sad Song」へ。轟音は引き、ヴォーカルが際立つ。とびきりのラヴ・ソング且つロンリー・ボーイのテーマ・ソング。志磨にしか作り得ないロマンチックでせつないロックンロール。マラソンでも100メートル走でもない、中距離を全力で走るような、バンドにとってはキツそうな"RIOT"を走り切ったメンバーは、渾身の力を使い果たしたと思うが、この曲をラストにしたことで、何か愛しい気持ちで見終えることができたと思う。

途轍もない落差のあるふたつのステージを見せた志磨とメンバー。だが、むしろ炙り出されたのは外的な要因じゃなくて、常にどう転ぶかは自分次第だということだ。ニュートラルな気持ちになって2020年を終えられそうな、ドレスコーズの真心、ソウルが結晶した一夜に感謝したい。

[Setlist]
第1部"QUIET"
1. でっどえんど
2. 嵐の季節(はじめに)
3. エリ・エリ・レマ・サバクタニ
4. センチメントがお好き?
5. バルバラ・ソング
6. もろびとほろびて
7. Trash
8. ゴッホ
9. 欲望
10. 銃・病原菌・鉄
第2部"RIOT"
1. 人生
2. アンダー・マイ・ヘア
3. ロマンチック
4. ACボーイ / DCガール
5. ボニーとクライドは今夜も夢中
6. アンプリファイヤー
7. トートロジー
8. ビューティフル
9. コミック・ジェネレイション
10. 世界のトップ
11. (This Is Not A)Sad Song

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