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LIVE REPORT

Japanese

ドレスコーズ

Skream! マガジン 2025年02月号掲載

2024.12.23 @恵比寿ザ・ガーデンホール

Writer : 石角 友香 Photographer:森好弘

毎年、クリスマス・シーズンにその年を象徴するセットリストで行われる一夜限りのライヴが2024年も開催された。オリジナル・アルバムのリリースはなく、自叙伝"ぼくだけはブルー"の出版が注目された2024年。自叙伝と銘打たれてはいるものの、本作は志磨遼平の誕生から10代、毛皮のマリーズ、そしてドレスコーズが志磨の一人音楽プロジェクトとなった2014年のアルバム『1』までを収めた内容である。そして2024年のツアー[the dresscodes TOUR 2024"Honeymoon"]も『1』までのレパートリーから組まれたセットリストだった。では年末恒例ライヴの今回のテーマはなんだろう? という興味と期待が自然と起きる。会場は着席スタイル、ドリンク・メニューにはワイン等もありエントランスから普段と違うクリスマス・ムードが醸し出されている。開場BGMには1930年代に活躍した女優 Mae Westのクリスマスソングが流れ、ファンは静かに開演を待つ。

馴染みのメンバー、有島コレスケ(Ba)、ビートさとし(Dr)、中村圭作(Key)、田代祐也(Gt)がステージに登場し、ビートさとしのパンキッシュなビートが轟くと、志磨も現れ初っ端から毛皮のマリーズ「コミック・ジェネレイション」が放たれ、"ナナナ~"のシンガロングも起こるハイテンション。クリスマス・パーティーもかくや? と思ったのも束の間、次は自伝的な「まだ若い僕の唄」がライヴ初披露された。自叙伝の出版タイミングでのポップアップ・ショップで販売されたキーホルダーにスマホをかざすと聴ける仕掛けだが、この曲の存在を知る人は多くなさそうだ。演奏後のMCで21歳の頃、作った曲だと分かる。この日はセクションごとの説明もあり、序盤に普段あまりやらない曲を演奏することが告げられる。

続いては2024年最初のリリースである「キラー・タンゴ」。ドラマ"奪われた僕たち"の主題歌で知り、ドレスコーズとの出会いになったリスナーもいるだろうこの曲。スパイ映画のようなムードに田代の冴え冴えとしたメタリックなギター・サウンドがライヴでさらに際立つ。レア選曲の中でも音楽的にこの時期の楽曲をもっと聴きたくなったきっかけは『平凡』所収の「towaie」で、有島のスラップ、ダブ的な音響と楽器の音の隙間が素晴らしい。誰もいなくなったパーティーに残ってしまった恋人たちが思い浮かぶ。そして『バンド・デシネ』からの「Zombie」に内容がなんとなくリンクしていくのもいい。ネオ・サイケなムードとクセを漂白したような志磨の歌唱がまさにゾンビのよう。じっくりと演奏を聴くファンの姿勢も相まって、ライヴというよりコンサートという形容が似合う。

続くセクションは2024年でリリースから10年が経過した、志磨が全行程を一人で作った『1』からの選曲である。アコギの爪引きとロー・ヴォイスが響く「復活の日」は固唾を飲んで見守るフロアの緊張感が伝わり、一人ぼっちの情景ではありつつ、続く「スーパー、スーパーサッド」のイントロにはファンのこの曲への想いがブワッと溢れるようなリアクションがイントロの時点で存在していた。ラヴ・ソングの形をとっていても『1』の収録曲にある"そして一人ぼっちになってしまった"当時の志磨、さらに自叙伝で自ら明らかにした幼少期からの生き方のクセのようなものが、2024年末の今だからこそ客観視できるのかもしれないと感じた。そうした想いを重ねる部分と客観的に音楽として再び新鮮に感じる部分。それは絶妙に嫌なタイミングで現れる悪魔に悪態をつく「この悪魔め」、そして理想論じゃなくルソー論だよと嘯く「ルソー論」。ちなみに約10年前の『1』リリース時のライヴで、志磨は冒頭、ラジカセでオケを流してライヴをスタートしたことを当時の記事で読んだことがある。果たして曲は音楽として独り立ちしたのだろうか。

空気が変化したのが「あん・はっぴいえんど」で、シャッフルのリズム、歌詞に伴って盛んに投げキッスを贈る志磨を見ていると、またここから始まるというメッセージを勝手に受け取ってしまう。そこから自然に曲調の符牒を見せる最近のレパートリー「やりすぎた天使」に繋げたのもいい。さらに輝度の高い夏の光を思わせる田代のリバーヴィなギターが映える「少年セゾン」へ。10年近い時空を超えて最も自然に生まれてくるであろうロックンロールを浴びていると、志磨遼平という人の螺旋状の人生を見せてもらっている気持ちになる。そのトドメが「ビューティフル」だった。だが、そこで本編を終えないのが2024年の終わりたる所以で、一気に時間を今にして、出逢いどこかで別れた人たちもみんな同じバスに乗っているような「ハッピー・トゥゲザー」がラストにセットされた。これはあくまで個人的な感慨だが、中村のハープシコードのようなサウンドとポストパンクなビートさとしのサウンドが同居しているこのバンドの独特さも、出逢いと時間が可能にした結実に思えた。

アンコールは本編とは切り離された展開で、志磨の音楽を愛し続ける人へのプレゼントの趣きというのが近い「愛に気をつけてね」、そして世界を覆う憎しみや無情な行いが止まるようにと、祈りのようなMCに続き、毛皮のマリーズの「クリスマス・グリーティング」を歌ってくれたのだった。2025年は過去最大規模の全国ツアーもすでに発表されているドレスコーズ。志磨遼平にはどんなヴィジョンが浮かんでいるのか、楽しみでならない。

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