Japanese
GLIM SPANKY
Member:松尾 レミ(Vo/Gt) 亀本 寛貴(Gt)
Interviewer:山口 哲生
どれだけ振り幅が大きくなっても、その中に自分の好きなものが入っているのは絶対条件
-松尾さんが個人的に選びたかった曲というと?
松尾:「TV Show」ですね。「TV Show」と「Looking For The Magic」(『LOOKING FOR THE MAGIC』収録曲)はLAでレコーディングしたので、その2曲のどちらかは入れたいなと思って、こっちにしました。「Looking For The Magic」は個人的にめっちゃ好きなんですけど、アルバムに辿り着いた人があの流れで聴いたほうが響くんじゃないかなと。
-たしかにあの曲はまさにそうですね。DISC 1とDISC 2の狭間で起こったモードチェンジはやはりすごく大きかったんだろうなと、トラックリストを見ていても改めて感じます。
亀本:音楽自体が変わってますからね。『Walking On Fire』から音作りもそうだし、レコーディングもスタジオに入るのではなく、ドラムも録らずに打ち込みでもOKみたいな感じになっていって。それはコロナのタイミングでもあったし、自分もそういう音楽が好きだったので、そうしていきたいと思ったからなんですけど。でも思い返してみると、わりかし初期の頃から少しでもシンセを入れたいところはあったんですよ。
松尾:そうだね。で、入ってたしね。
亀本:そうそう。「NEXT ONE」(2016年リリースの2ndミニ・アルバム『ワイルド・サイドを行け』収録曲)のときからシンセを入れていたし、「ワイルド・サイドを行け」(2ndミニ・アルバム表題曲)もめっちゃ入ってるし。だから昔からそうしたい欲はあって、常にちょいちょい挟み込んできてはいたんですよ。ただ、そういうことをしたいと言っても、そこはクオリティが伴っていないとダメだし、どちらかというと松尾さんがあんまりそういう脳味噌じゃなかったよね? 例えば、全部録音しなくていいんじゃないかなとか思ってなかったと思うんだけど。
松尾:うん。
亀本:コロナ前まではスタジオに入って録るのが当たり前だったから、入らなくてもできるものをやる口実もなかったし、そこに対して説得力のあるクオリティのものを出せる実力がまだまだ付いてきてなかった。でも、コロナ禍っていうのはいい機会の1つとしてあって、そこに理由付けがしやすくなったんですよね。この曲のドラムは全部打ち込みにしたいとか、世の中的にもそうだし、まず自分たちのチームに向けても発信しやすくなったから、そこで一気に加速した感じだったなって、僕はすごく捉えてるんですけど。
松尾:そうだね。そもそも(コロナの期間は)スタジオがやっていなかったし、亀(亀本)とも会えないので、自分の家でできることに集中していたんですけど。例えば「こんな夜更けは」は、世界的にロックダウンして完全に止まっていた時期に書いたんですよ。亀が録ったギターが届いて、私がメロディと歌詞を作って、それをそのままエンジニアさんに送るのを、全て画面上でやるっていう。そういう今までやったことがない作曲方法を切り開けたところもあって、そこから変わりましたね。
-現行のポップ・ミュージックを意識しながら曲を作っていくなかでも、完全にそっちに振り切ってしまうわけではなく、自分たちが大切にしているもの、持っているものをものすごく大事にしながら進んできたことは、音源にもしっかりと出ています。そこは絶対に譲ってはいけないものとして、松尾さんの中にもあって。
松尾:そうですね。自分の好きなこと、好きな音楽をちゃんと入れ込まないとやる気が起きないんで(笑)。
-大事ですよ。
松尾:やっぱり自分がかっこいいと思えるものって、自分の好きなテイストが入っているってことだし、そういうものがちゃんとないと、10年後に自分の曲として歌えないなという感覚もあって。曲を作るときって、純粋に"いい曲できた!"みたいな感じのときもあるけど、これを何十年後に自分の名前で背負って歌っていられるのかと考えながら作っているので。だから、どれだけ振り幅が大きくなって、どれだけ引き出しが多くなったとしても、その中に自分の好きなものが入っているというのは絶対条件ですね。
-新しい扉を開けていくなかで、自分の中にあるものに改めて気付いた瞬間ってあったりしました?
松尾:めちゃめちゃありました。特に「HEY MY GIRL FRIEND!!」と「ラストシーン」は、自分が今まで好きだったテイストなんだけど、グリムでやろうとはしていなかった2曲で。「HEY MY GIRL FRIEND!!」の場合は、野宮真貴さんに楽曲提供したときに、Burt Bacharachとかサンシャイン・ポップみたいなのをイメージして、ピアノで作った曲があって。その曲を作っているときに亀が"こういうテイストどう?"って、「HEY MY GIRL FRIEND!!」みたいな雰囲気のオケをくれたんですよ。これもちょっとピチカート(・ファイヴ)っぽくて、キッチュでキュートな感じがあっていいねって話をしていて。それで、野宮さんには自分が作った曲のほうが良かったのでそちらをお渡しして、亀が持ってきてくれたアイディアはストックとして置いておいたんです。だから「HEY MY GIRL FRIEND!!」を作ったきっかけは、野宮さんへの楽曲提供という新しい扉だったんですよ。
-なるほど。
松尾:「ラストシーン」のときは、例えば昭和のニューミュージックみたいな、ユーミン(荒井由実/現松任谷由実)とか松本 隆さんが作っていたポップ・ソングが好きでよく聴いていたんです。そういうメロディの持っていき方とか、ちょっと作家っぽい歌詞の書き方とか、自分の中にあるそういう部分を出せたところが個人的にはあって。それも、私たちはNHKの"The Covers"という番組によく出ていて、好きな曲を歌わせてもらっているんですけど、ちょうどそのときは小坂 忠さんとか、それこそユーミンもそうですし、山下達郎さんや大滝詠一さんの曲をよくやっていて。それが楽しかったし、自分はこういう曲もルーツにあるんだなって改めて知れたし、亀もそういう曲をいっぱい演奏していくなかで、まだ見せてないGLIM SPANKYがあるよねって感じで、この曲ができたんですけど。
-そこで扉を開いていったのがいいですよね。閉めちゃうときもあるじゃないですか。"いやぁ、それはちょっと無理ですね"みたいな。
松尾:そうですよね(笑)。「ラストシーン」は、最初に番組("恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。")の主題歌としてお話をいただいたんですけど、恋愛バラエティだったんです。
亀本:ははははは(笑)。うん。
松尾:そういうのを全然観てこなかった人生だったんで、どんなものなんだろうって。そしたら渚を駆け回るキラキラとした若者たちみたいな感じだったわけです。でも、番組の監督がもともとグリムを好きでいてくれて声を掛けてくれたというのもあって、それも嬉しかったし、やるのであればGLIM SPANKY的にも、番組的にもお互いが良くなる楽曲を作りたいなと思って。それで、そういう夏を感じさせるもの、物語を感じさせるものは、自分が聴いてきた中ではシティ・ポップとかとめちゃめちゃ繋がるなと思って。亀もそういうオケをアイディアとしてくれたので、そこにメロディを乗せていった感じでしたね。
-亀本さんとしては、「HEY MY GIRL FRIEND!!」のエピソードの中で"こういう曲どう?"とオケを聴かせたってお話がありましたけど、そういう曲もどんどんやってみてもいいんじゃないかという気持ちがあって。
亀本:そうですね。僕としてはロック・ソングだけをやるわけじゃなく、ポップスもやりたいとは思っているので、こういう感じもできるんじゃないかなって。でも、僕はさっき松尾さんが言ってたような音楽は全く聴いてきていないんですよ。だから、僕としては全然別のベクトルから着想を得て作ったものを持っていくんだけど、松尾さんの中でそれがリンクして形になっていくというか。自分は自分の感性でやるんですけど、松尾さんがやれば松尾さんっぽくなるなっていうのはあるので、そこは任せている感じですね。
-ちなみに、亀本さんとしては「HEY MY GIRL FRIEND!!」はどういうものから着想を得たんです?
亀本:Bruno Marsの「Runaway Baby」ってあるじゃないですか。あれがベース・リフで始まるんですけど、あの感じがいいなって。あとはTaylor Swiftの「Shake It Off」みたいな感じとか。他にもOfficial髭男dismがデビュー当初に出した「ノーダウト」がめっちゃ好きで、いい曲だなぁと思っていたから、ああいうサビにしたいなって。だから、Bruno Marsで始まってヒゲダン(Official髭男dism)みたいなサビになったらこれは売れる! みたいな(笑)。で、"これでどうですか?"って渡したら全然違うことになっていったけど、それはそれでいいやって。
松尾:全然そのこと知らなかったんだけど。
-あえて言わなかったパターン。
松尾:そういうの結構多いね(笑)。
亀本:うん。
-(笑)亀本さんも、それこそ改めて自分ってこういうものが好きなんだなとか、そういった気付きみたいなものはありました?
亀本:それは常にありますよ。自分の感覚をいかにニュートラルにしておくかっていうのはめっちゃ大事なことだと思っているので、とにかく意識的にいろんなものに触れるようにしていて。ジャンルやテイスト、年代にこだわって聴いたり、自分が好きなものだけを聴いていると、ニュートラルじゃなくなっちゃうんですよ。常にどっかに1歩踏み込んでいる状態になっちゃうと、物事をフラットに見れなくなっちゃうので、そのためにも常にいろいろなものをインプットするようにしているんですけど。この前、HMV record shopに行ってレコードを5枚買ったんですけど、それもちゃんとプレートにご飯をよそう感じで、バランスをめちゃくちゃ取るようにしていて。そのとき買ったのは、THE LAST DINNER PARTYと......。
松尾:今年"フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)"に来てたね。
亀本:うん。UKのインディー・バンドで、ジャケットがすごいかわいかったんで買おうと思って。あと、Barney Kesselっていう40年代くらいから活動してたジャズ・ギタリストと、もう1枚もジャズなんですけど、ギター・クワイア・ウィズ・サックス・トロンボーン......なんだったっけな(※THE GUITAR CHOIR With Bob Brookmeyer (Trombone) And Phil Woods (Alto Sax) Arranged And Conducted By John Carisi (Trumpet))。要はホーンが入ってるんだけど、"これ全員が演奏してるの?"、"ていうかそもそもギター・クワイアって何?"と思って。ジャケットにもアコギが5本くらい写ってるんですよ(『The New Jazz Sound Of Show Boat』)。ちょっとよく分かんないけど買ってみるかって。たぶん50年代くらいの音楽なんですけど、それプラスDo As Infinity。
松尾:いきなりDo As(Infinity)!? びっくりした。
亀本:「深い森」
の7インチ。両面で裏がなんだったか忘れちゃったけど(※「陽のあたる坂道」)。あともう1枚は(Do As Infinityの)『冒険者たち / 柊 (7インチシングルレコード)』。
松尾:うわー! 懐かしい! ヤバ!
亀本:ヤバいじゃん!? "買っちゃおう!!"と思って、その5枚(笑)。自分はそのバランス感覚を大事にしてますね。で、その後ライヴに行ったんですけど、最近はイベントに出るにしても......この前、(Spotify)O-EASTでやったんですけど、決して小っちゃくはないじゃないですか。なんか、アーティストはアーティストみたいな。
-あぁ。物理的にステージも高くて。
亀本:距離も遠いっていう。でも、(下北沢)SHELTERとかに当日券で入って観てると、音がダイレクトすぎるし、人も生々しすぎるし、あの感じが久々すぎて、この環境で聴いて"この曲がいい"とか"このアーティストはいいものを持っているな"っていうのがあんまり分からない耳になってきちゃってるなと思って。そこは自分の頑張りが足りないと感じたところなんですけど、そういう感覚を常に意識するようにはしてますね。そうすると、やっぱり自分はこれが好きだなとか、これがかっこいいなって思うのが分かるというか。それこそご飯と一緒で、バランス良く食べたいし、別にバランス良く食べても好きなものは分からなくならないから大丈夫っていう感覚ですね。
-なんならバランス良く食べることで、好きなものをよりおいしく感じるという。
亀本:うん。まさにそうですね。
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