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LIVE REPORT

Japanese

GLIM SPANKY

Skream! マガジン 2024年10月号掲載

2024.08.30 @Zepp Shinjuku (TOKYO)

Writer : 石角 友香 Photographer:上飯坂一

GLIM SPANKYと言えば本物のロック、本格的なロックンロールという形容が思い起こされるかもしれない。だが、実際彼等がサヴァイヴしてきた理由は主に松尾レミ(Vo/Gt)の自分が好きでやまない大事な音楽やアート、カルチャーを自分の言葉や音で作るというあくまで個人的なモチベーションにあると思う。彼等が綴る強い芯を持ったストイックな音楽の清々しさは、メジャー・デビュー10年を経ても基本的に変わらない。

渋谷チェルシーホテルを皮切りに大阪、名古屋を巡ってきたツアー・ファイナルのZepp Shinjuku (TOKYO)は接近する台風10号の影響で交通機関の運休もあったが、場内は満員。静かに熱い待望感が漲る。暗転後、ブルーのライトが照らすステージに松尾、亀本寛貴(Gt)とサポート・メンバーの栗原 大(Ba)、福田洋子(Dr)、中込陽大(Key)が登場し、松尾が歌い始めるとフロアの底から込み上げるような歓声が上がる。それもそのはず、1曲目はメジャー・デビューEP表題曲「焦燥」。自分にとっての真実を探す10代のマインドは今も不変の輝きでオーディエンスを射抜き、凄まじい求心力で場を束ねた。「Flower Song」でロックンロール・パーティーの趣きに突入し、タフなビートのイントロでさらに熱量を増すオーディエンスに、松尾が"ツアー・ファイナル、最高の夜にしよう!"と声を掛けると同時に、亀本のリフが心の火に油を注ぐ「褒めろよ」で、フロアは各々好きなように突き動かされている。老若男女のファンが存在するGLIM SPANKYだが、特にこの日は誰もが解き放たれた自由を満喫しているように見えた。

"初めての場所なんで新鮮な気持ちでやってます"と言う松尾。挑む気持ちをブーストしているのかもしれない。彼女が大きく息を吸い込み歌い出した「闇に目を凝らせば」では、神秘的な冒険の物語をバンドの一音一音が端正に支え、亀本のイマジネーション溢れるオブリガートが彩る。曲の良さはもちろん、フレーズや音そのものにいちいち感銘を受けてしまう。おそらく何度も足を運んでいるファンも、思い入れの深いレパートリーの今の演奏に心酔しているのだろう。演奏に対する集中力がとにかくすごい。松尾がハンドマイクで歌う「レイトショーへと」では、歌詞の"ここは不完全で安全な地下室"のフレーズが、Zepp Shinjuku (TOKYO)の地下1~4階という外界と隔絶した世界にあまりにもハマる。そして亀本がフルアコに持ち替えてイントロのカッティングを放つと、またまた大きな歓声が上がり、「いざメキシコへ」が重いギアが噛み合うように徐々に走り出す。演奏に対する歓声や拍手、指笛なども加わって昔の洋楽ライヴやジャズ、ブルースのハコのようなムードが作り出されるのもGLIM SPANKYならではで、ここで人と同じリアクションをする必要はない。素直な気持ちを表明する程場のグルーヴもどんどん高まるのだ。さらに鍵盤のロング・トーンに亀本のギターも重なり始まった「grand port」では、松尾のハイトーンのカタルシスに動かされて間奏の"オオ、オオ、オオーオ"のシンガロングにも熱がこもる。

早々にアニバーサリー・ツアーはファイナルだが、目下制作中のベスト・アルバムには新曲も多数収録されることを伝える2人。そして台風の影響で半分も埋まらないのでは? と懸念したが、ソールド・アウト公演らしく満場のオーディエンスに驚きと感謝の念を伝えた。そして「ダミーロックとブルース」、「Breaking Down Blues」と続けてブルージーで腰に来るグルーヴを放ち、福田のタイトなドラミングでアップデートされた「怒りをくれよ」は、ブリティッシュ・ビートから初期ARCTIC MONKEYS、GLIM SPANKYまでが脳裏に連なるカッコいいロックの真骨頂だ。

アドレナリンが放出され続けるタフな演奏に誰もが前のめりになるなか、10周年記念ライヴらしく、グリム(GLIM SPANKY)の始まりを思わせる2人だけのアコギのセクションが設けられる。松尾いわく、高校3年生のとき風邪を引いて学校を休んだ日、友人が連絡事項を伝えに来てくれたとき、フェデリコ・ガルシーア・ロルカの詩集を読みながら書いていたのが「ロルカ」なのだという。アコギ2本の演奏が誰の真似でもないフォークの詩情を伝えるとともに、エピソードを知った後だと10代のまだ見ぬ未知の世界に対する想いがリアルに届いた。もう1曲は松尾が上京し、日大に入学した頃、ワクワクと寂しさの両方を感じながら作ったという「さよなら僕の町」。音源でもアコースティック・セッションで聴けるぶん、2人の成長と変わらない部分の両方が味わえる演奏になった。

サポート・メンバーが戻り、「さよなら僕の町」から続く物語のように「夜風の街」が披露されたことにも心が震えた。続く「サンライズジャーニー」も初期GLIM SPANKYのリアル・ストーリーを改めて辿るような流れで、メジャー・デビュー10年ではあるけれど、結成からはもう17年を数える彼等の、前向きなオリジナリティの戦いを感じずにいられなかった。一転、打ち込みのクラップ音が流れるとすかさずフロアも反応して「リアル鬼ごっこ」へ突入。サビの"私たちは いま輝きの中"で伸ばされるおびただしい拳を見ていると、書かれた当初は映画のイメージ・ソングという挑戦だったことも、素晴らしい機会に他ならなかったんだなと感じた。

いいテンションを保ったまま進んできたライヴも終盤に来て、2人はすこぶる上機嫌に見える。長年のファンにとって初期曲メインのセットリストが感慨深いのはもちろんだろうが、この日のライヴが素晴らしいのはむしろ曲を詳しく知らずとも、引き締まった演奏で引き込む今のGLIM SPANKYがいたからなんじゃないだろうか。"GLIM SPANKYはまだまだ尖っていくんでよろしく!"と放った言葉の先が「大人になったら」だったのも腹落ちが過ぎる。メジャー・デビュー、いやそれ以前から聴いていた人も最近聴き始めた人も、GLIM SPANKYの軸の部分であるこの曲と自分の想いをどこかで重ね合わせているはずだ。本編ラストは、2020年代のアルバム『Walking On Fire』から。音源では亀本のギター以外は全て打ち込みで作られた、彼等らしいサイケデリアとスペイシーなニュアンスを含む「Circle Of Time」を、このメンバーならではのスケール感で鳴らし、まだまだ続いていく音楽的な冒険の旅を印象付けてフィニッシュしたのだった。
アンコールでは、立て続けに今年の新曲「Fighter」と「風にキスをして」という対照的な2曲を披露。秋リリースのベスト・アルバムへの期待を高めながら、締めくくりは1stリリースであるミニ・アルバム『MUSIC FREAK』から「Gypsy」を、"懐かしい曲、ずっとやってきた曲"という紹介とともに、最後までバンド・アンサンブルの旨味たっぷりに演奏し、ツアーを完結させた。ただし、もうその先にGLIM SPANKYは明らかに走り出している。既発曲と新曲がどんなバランスでベスト・アルバムを構成するのか楽しみでならない。

[Setlist]
1. 焦燥
2. FLOWER SONG
3. 褒めろよ
4. 闇に目を凝らせば
5. レイトショーへと
6. いざメキシコへ
7. grand port
8. ダミーロックとブルース
9. Breaking Down Blues
10. 怒りをくれよ
11. ロルカ
12. さよなら僕の町
13. 夜風の街
14. サンライズジャーニー
15. リアル鬼ごっこ
16. 大人になったら
17. Circle Of Time
En1. Fighter
En2. 風にキスをして
En3. Gypsy

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