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INTERVIEW

Japanese

岡崎体育

2021年10月号掲載

岡崎体育

Interviewer:秦 理絵

いいおっさんになって、いいおじいちゃんになって、いいかたちで死にたい そういう想いが強いですね


-「Eagle」は壮大で美しい曲ですけど、最後の曲として作ったんですか?

いや、もともとライヴで最後にやるような曲を作りたかったんですよ。ずっと前作の最後の曲「The Abyss」で締めることが多かったんですけど、そればっかりやっててもっていうのがあって。大阪のエディオンアリーナのときに、新しく書いた曲を最後にやりたくて書いたんです。で、実際にやると、最後のところでぶわーって手が上がって、音を気持ち良く感じてくれてるのがステージ上からでも見てとれるんです。

-ええ。音を聴いても、そのシーンが目に浮かびます。

この曲は、野村陽一郎さんにギターを弾いてもらったんですけど、基本的には自室で作った小さな音で構成されてて。こういう曲を、例えば、"ROCK IN JAPAN FESTIVAL"のGRASS STAGEの5万人が聴いてるところでやれるのはすごく夢があると思うんですね。そこにものづくりの醍醐味も感じているので。

-以前、ああいった光景を見られることが、体育さんが引退をやめた理由でもあると言ってましたもんね。

そうですね。そうやって自分がひとりで作ったものが世の中に広まって、いろいろな人の人生に介入していくことに、僕は生きる価値を見いだしているんです。それは音楽だけじゃなくて。描いた絵でも、書いた文章でもなんでもいいんです。自分の部屋で作ったものが世の中に広まっていく現象って素晴らしいことだよっていうのを、若い子に伝えたいなと思ったんです。

-だから、タイトルの「Eagle」=鷲というのは、表現が広い世界に飛び立っていく、みたいなことなんですね。

そういう意味もありますね。歌い出しの"氷原の荒鷲"って書いてるんですけど、(表現の表しとの)ダブル・ミーニングになってたりして。"氷原の荒鷲は空高く 風縫い飛んでいく"っていうのを耳で聴いたときに何か感じてもらえたら......というか、感じる人が出てきて、それに感化されてものづくりを頑張れる人がいたらいいなって書きました。

-20代でシーンに登場した体育さんが、もう新しい世代のことを考えるようになったというのは感慨深いです。

ははは、32歳になったんでね。大人になりました。

-今作は年を重ねることによって歌えるようになった曲が多いなと思ったんですけど、それが「おっさん」ですよね。

もともとは「おっさん」をテーマにして曲を作るっていう構想はちょうど1年前ぐらいからあって。そのときは、おっさんが若い子たちの文化に混じって、例えば、若い子のあいだで流行ってるアニメでボロ泣きしてもいいし、スケボーしてもいいし、自分の立場とかをわきまえることなく好きに楽しんでいいんじゃないの? っていう想いで書こうと思ったんです。でも、ここ半年ぐらいでおっさんのあんまり良くない態度がニュースで目立つようになってきたなと。

-いい言葉じゃないけど、老害と言われるような。

いわゆるそういうことなんですけど。当初、思い描いてたものとは真逆というか。もうちょっと自分の立場を理解することが必要じゃないかなっていうのを感じたんです。自分を含めてなんですけど。

-32歳で自分を"おっさん"って認識することに抵抗はなかったですか?

自分の年でおっさんって言ってたら、年上の人に失礼になるし、でも、逆に32歳でまだまだ若いって言ってたら、年下にはそんなことないよって言われるだろうなとは思いました。そういう意味で、ジュニア/シニアの区分って曖昧だし、デリケートなところだと思うんですよね。32歳の自分がおっさんって歌って世の中に提出すると、どういう受け取り方をされるのかなって。

-ええ。たぶん聴く人の年齢によって反応は変わるでしょうね。

そうなんですよ。自分が"おはスタ"っていうテレ東の子ども番組の火曜日レギュラーをさせてもらってて。10代のおはガールに楽屋でTikTokを見せてもらって、"今こんなポーズが流行ってるんですよ"っていう話をしてもらったときに、全然ついていけないんですよね。それで、32歳って10代とかからしたらおっさんやなって、ひしひしと感じる1年間だったんです。

-なるほど。

この曲は、サビで"更新 更新"。アップデートしていけよっていうことを言ってるんですけど、それを啓蒙ソングにとられるのはちょっと違うなと思うんです。必ずしも若い人たちに迎合する必要はないんですけど、若い人たちに煙たがられたくない。で、自分への警鐘として、おっさんっていう曲を胸に繋ぎとめておければなっていうのがあったんです。

-この曲のあとに、「Hospital」が続くのがまたアラサーっぽさが出てますよね。

あはは、そうですね。診察をうながすソング。通院促進ソング。ちょっとでも調子が悪いなと思ったら、すぐに病院に行けばいいっていう。

-"今ちょっと/動悸と息切れと眩暈と湿疹がつらいだけ"っていうのがリアルだなぁって。湿疹とか、特に(笑)。

最近、帯状疱疹とかも話題になってますしね。コロナ禍やから、しんどくなる人も多いと思うんですよ。精神的にもストレスを抱えてる人も多いし、それが身体に出るタイプの人もたくさんいると思う。なるべくみんなで早めに病院に行けたらっていう。

-面白いなと思ったのが、これをバンドでやってるところだなぁとも思ってて。ハンブレッダーズのでらし(Ba/Cho)さんはまだ20代ですけど、夜の本気ダンスの鈴鹿(秋斗/Dr)さん、Benthamの須田(原生/Gt/Cho)さんは同じ世代なんですよね。

鈴鹿は同い年やし、須田さんはひとつ上なので、同じ世代ですね。毎晩遅くまでオンライン・ゲームをやる仲間なんですけど。やっぱり身体の調子が最近悪いなとか、焼き肉に行っても、カルビとかあんまり食えんようになったな、みたいな話をすることが増えてきたので。ちょっと"身体に気を使っていかなきゃ"って言ってるようなメンバーなんですよ。

-あえて、こういう曲だから、このメンバーなんですか?

いや、このメンバーで一緒に曲を作りたいねんけどって言ったら、"あ、いいね"って言ってくれたので。僕としてはご褒美というか。友達と曲を作るのは楽しいんですよ。

-例えば、同い年の鈴鹿さんとかはこの歌について何か言ってました?

歌詞に関しては、"診察券とかおもろいやん"って感じでしたけど。デモを提出したときは、3人とも、"これ、すっごいメロディが耳に残るわ"って言ってくれて。それは嬉しかったです。みんな音楽をやっているプロなので。

-気の置けない仲間と制作は、いかがでしたか?

みんなでアレンジも一緒に考えたんです。友だちと一緒にワイワイしながら、こうしたほうがいいんじゃないとか、ここはドラムとギターをなしにして、ベースのソロにしようや、みたいな話をしたのは楽しかったです。自分では思いつかなかったフレーズもたくさんあるし。作りながら、僕も昔バンドをやってたりしたので、そのときの気持ちが蘇ったんですよね。それが音楽の本質というか。曲作りを始めたときの、作るだけで楽しい! って言ってたときの感覚に近くて、純粋に楽しかったです。

-いいですねぇ。例えば、「おっさん」とか「Hospital」みたいに、年を重ねることで生まれる曲があるっていうのを、自分ではどんなふうに感じますか?

今まではなるべく若い感性でやりたいとか、今のトレンドをがっちり掴んだ楽曲で勝負したいっていうのがあったんですけど、年はとるものですし、必ずしもアンチエイジングに重きを置くことは正しいわけではないなって思うようになりましたね。それは外見もそうですし、内面も含めて、年相応の自分の思ってることとか感じたことをアウトプットするだけでも楽しいんじゃないかって思いますね。「おっさん」の歌詞でも言ってますけど、素敵に年をとることがひとつの目標ですし。いいおっさんになって、いいおじいちゃんになって、いいかたちで死にたいと思ってるので。そういう想いが強いですね。

-体育さんって、センセーショナルなかたちで音楽シーンに登場の仕方をしたぶん、悪く言うと、"すぐに消える"と言われがちだったと思うんです。

その通りですね。

-でも、蓋を開けてみたら、活動は5年を迎えて、さらにこの先を見据えるようなアルバムができた。それが今回のアルバムの一番の意味なのかなと思います。

僕もデビューした当時は"すぐに消えそうやな"って思ったりもしましたし、なるべくしがみつかな、すぐに見向きをされへんようになるなって思ってました。やってる音楽のジャンル的にも消費されやすいなっていうのがあったので。それはそれで1回話題を作れたっていうことへのプライドもありますし、誇れることなんですけど、そこからなるべく長い期間みんなに楽しんでもえたら幸せだなっていうのはあるので。うん。まだこうやって、「Fight on the Web」を出しても、100万回再生を超えるってなるのはすごいありがたいですし、まだまだ戦っていけるんじゃないかなって感じましたね。

-今回のアルバムは、自分の過去とか、生き方を肯定しているように感じたから、インスト曲の「Yes」が入ってるのが良かったんですよね。

なるほど。「Yes」のトラック自体も気に入ってるんです。ああいうストイックめなテクノって、家で遊びで作ったりして、100曲ぐらいあるんです。なかなか岡崎体育名義で出してもなっていうのがあったりするんですね。みんながみんな、自分が好きな音楽を好きなわけじゃないし。自分は商業音楽のフィールドで戦ってるので、ここで出すのは違うなと思ったんですけど、「Yes」に関しては、アルバムの繋ぎ目の役割として入れるぶんには問題ないんじゃないかなって思ったんです。

-その話を聞くと、自分の好きな音楽を肯定する"イエス"にも感じますね。

まぁ、いろいろなものを肯定するっていうイエスでもあるけど。"THE FIRST TAKE FES"でこの曲をやったときに、イエスっていうポジティヴな言葉を叫んで気持ち良かったんですよね。もし、ライヴで「Yes」を披露できる機会があって、みんながイエスを言ってくれたら、そこにエネルギーが集約する感じがして、面白いと思います。

-わかります。原点回帰をしようとした作品だったけど、今までにない選択を重ねてるわけだし、結局、原点回帰にはなってないんですよね。

気持ちの面では原点回帰を念頭に置いてはいたんですけど、やっぱり同じものはできなかったですね。第2章って言われるものを作るのも難しいなかで、第1章を繰り返すって決めて、そのマインドだけで制作の意欲が湧いてくるところもあって。いい心持ちでアルバム制作をスタートできたのが、自分が『FIGHT CLUB』に満足している要因だと思いますね。