Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

MENU

INTERVIEW

Japanese

岡崎体育

2023年10月号掲載

岡崎体育

Interviewer:高橋 美穂

岡崎体育が、タイアップやコラボレーション曲などを収録したコンセプト・アルバム第3弾『OT WORKS Ⅲ』を完成させた。メタルコア、ピアノ・ポップ、アニソン、メロコア、アイドルへ楽曲提供したセルフカバー、さらには国民的楽曲「めざましじゃんけんのテーマ」まで。あらゆるジャンルをユーモアとセンスで昇華した今作からは、なぜ岡崎体育が様々な作品や商品、番組や企業から求められるのか? という問いの答えが聞こえてくる。音楽への向き合い方と同様に、ひとつひとつの質問にも真摯に答えてくれた。

-『OT WORKS』も3作目です。オリジナル・アルバムとは違う感慨もあるのではないでしょうか。

おっしゃっていただいたように、『OT WORKS』はⅠ(2018年リリースの『OT WORKS』)、Ⅱ(2021年リリースの『OT WORKS Ⅱ』)と過去に出ていまして。すべてタイアップもの、いわゆる外注を受けて作った音楽をコンパイルしたものなんですけど、デビュー8年目で3枚目が出せたことに、音楽家として、こんなにたくさん仕事させてもらっているんだなって安心できる、自己肯定感を高めてくれるアルバムだと思っています。

-ある意味、求められなければ作れないアルバムですもんね。オリジナル・アルバムは、表現の発露として自由に出すこともできるとは思いますが。

そうですね。例えばアニメの主題歌を作ったら、それをアルバムのリード曲にする方もいると思いますけど、僕のスタイルとしては、オリジナル・アルバムにはタイアップものをまったく入れずに、タイアップものは『OT WORKS』に入れるというやり方を一貫して続けてます。僕の場合、思いっきり歌詞に商品名が出てきたり、アニメのキャラクターのセリフが出てきたり、そういうことが多いので、オリジナル・アルバムだと世界観が浮いてしまうんですよ。だからコンセプト・アルバムに入れているんですけど、『OT WORKS』を聴いてくれたら岡崎体育がどんな仕事をここ数年でやってきたかがひと聴きでわかるっていう。そこが長所かと思います。

-そもそも、こんなにたくさんタイアップのお話が来て、それだけでアルバムを作れるようなアーティストになりたい、なれるっていう未来予想図は描かれていたんでしょうか。

岡崎体育を始めるまでは、かっこいい......インタビューも背もたれにもたれながら答えるようなアーティストになりたいと思っていたんですけど(笑)、自分の本来の性格が音楽活動にも付随してきまして。いろんな人に良く思われたいなっていう性格なので、どうしても寄り添いすぎるところがありまして、こんだけ寄り添って大丈夫なんかな? って不安になることもあったんですけど、やっぱり、歌詞に商品名が入った曲を提出するとクライアントの方が喜んでくれたり、コマーシャルを観た人が覚えやすいって言ってくれたりします。この感じでコミカルにできるスタンスを持っているのは強みだなと。たくさんミュージシャンがいる中で、これをやってもめちゃくちゃ迎合している感じにならへんというか、あざとく見えにくい雰囲気を持っているという自負もあります。

-"寄り添う"って、『OT WORKS』のキーワードですよね。とはいえ、コラボレーション相手や聴き手っていう"人"に寄り添っているから、いやらしく見えないんだと思います。

自分の味を出したり、自分のやりたいことをやっていくことはアーティストにとって重要だと思うんですけど、それも大事にしつつ、その曲をお願いしてくれた人やその曲を聴いてくれた人に面白いな、いいなって思ってほしいし、発注通り、もしくはそれ以上のものを出してくれたと思ってほしくて。リクエストを達成できた喜びがアーティストとして原動力にもなっています。自分のやりたいことはオリジナル・アルバムでやれますし、オリジナル・アルバムとコンセプト・アルバムを分けたからこそできる寄り添い方だと思っています。

-寄り添うことでいろんな引き出しを開けているからこそ、岡崎さんの多彩なルーツが見えてくるところもあると思うんです。今作は1曲目の「Knock Out(Album Mix)」からバキバキのミクスチャー・サウンドですよね。こういったジャンルも好きだったんですか?

そうですね。小学生~中学生の頃から海外のメタルコア・サウンドをよく聴いていまして。最初はLINKIN PARK、そこからSTONE SOUR、KORN、SLIPKNOTとか。そういう音楽に人の心を動かす力があるというのも身をもって感じていたので、「Knock Out」は"(週刊少年)ジャンプ"(にて連載中の"マッシュル-MASHLE-"の)アニメのオープニング・テーマということで、激しく明るく元気に行こうとメタルコアを採用しました。

-編曲はPaleduskのDAIDAI(Gt)さんですが、リクエストはされたんですか?

そうですね。以前からPaleduskの曲や活動にリスペクトがあったので、今回お願いをしました。Paleduskの音にしてほしかったし、DAIDAIさんのコンポーザーとしての素晴らしさも知っていたので。そうしたら、発注の120パーセント、150パーセントで返してくれました。

-2曲目はフラワーカンパニーズの「深夜高速」のカバーです。もともと好きな曲だったんですか?

歌わせてもらった経緯は、広告代理店の方から"この曲をぜひ岡崎さんにカバーしてほしい"という話でした。まぁ、僕も大学の頃にバンドを組んでライヴハウスに出演していたり、全国ツアーを回るときの心の在り方も「深夜高速」の歌詞に通じていたので。ただ、バンドじゃないソロ・アーティストの僕がこの曲を歌っていいのかっていう葛藤は少なからずあったんですが、レコーディングし終わって、自分の今までの活動を思い出したり、僕だけではなく、世の中のすべての芸術活動をしている人の苦悩や葛藤を自分の心の中に引き寄せることになりました。それが、この曲を歌わせてもらって良かったと感じた瞬間でした。もちろん芸術活動だけではなく、たくさん努力したり苦悩したりしている人の気持ちが、この曲には詰まっていると思います。フラワーカンパニーズのみなさんにも、カバーしてくれてありがとうとラジオを通して言ってもらえたので、とても光栄でした。

-このいい意味で泥臭い楽曲を広告代理店の方が注目して、(三井住友フィナンシャルグループの)企業CMソングに使おうと思ったっていうのがなんだか嬉しいですし、しかもそれを歌うのが岡崎さんという。組み合わせが絶妙ですよね。

そうですね。メガバンクはお金だけではなく、人と人との繋がりを支えているんだと伝えてくれる、非常に素晴らしいコマーシャルになったと思いますし、その一役を担えたのも嬉しかったですね。自分のツアーでも、バンドを背負って歌わせてもらうことがあったんですけど、普段ステージでひとりパソコン1台置いてライヴをしているんで、バンドを背負って「深夜高速」を歌ったときは自分もバンドマンになったような気がして、ひと味違うライヴができたと感じました。音楽活動全体を通して、いい経験だったと思いますね。

-3曲目の「レディキャップ!」はTVアニメ"キャップ革命 ボトルマンDX"の主題歌ですけど、岡崎さんは少年性を体現する楽曲をコンスタントに出されていて。且つ、子供向けのタイアップでも、本気で表現されているのが伝わってくるんですよね。

少年性というものは、自分のパーソナリティの中にもかなり大きく存在しているものだと思っています。未だにコンビニで駄菓子買うし、"ポケモン(ポケットモンスター)"で遊んでいるし、ゲームもするしマンガも読むし。創作活動の根本には、子供の頃の体験が影響しているので。ただ、今の少年たちに大人になった自分が寄り添うというより、常に同じ目線で立つというか、自分の目線を下げることなく、自分は自分の目線で、子供は子供の目線で関わり合うことが重要なんだろうなと感じています。中学生の頃に職場体験みたいなので保育園に行ったんですけど、みんな柔らかい言葉とかで話しているなかで、同じ班のアンドウ君がいつものテンションでやりとりしていて、子供にめちゃくちゃ人気があって。子供って大人に憧れを持っているし、大人は子供っぽい喋り方をして同じ目線に立つよりも、大人は大人としていて、子供を子供扱いしないほうがかっこいいんじゃないかと思いました。歌詞の中で子供の目線に立つということは、実はあんまりしていないんです。なるべく実体験を伝えるようなスタンスで子供向けの曲は書いています。