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INTERVIEW

Japanese

岡崎体育

2023年10月号掲載

岡崎体育

Interviewer:高橋 美穂

自分のカメレオン的なスタイルに自信を持つことができました


-その一方で「季節の報せ」は老若男女且つ、どんな音楽の趣向の人にも響きそうな楽曲で。朝日放送テレビ"news おかえり"のオープニング・テーマならではだと思いました。

夕方の情報番組なので、家事を終えてひと休憩している方々に向けたテンションでお願いします、というニュアンスは伝えてもらえていたんです。僕は夕方に家の近所を散歩することがあって、その時間帯の街の風景が好きで、今住んでいる東京の家の近所とか、実家(京都府宇治市)の周りの風景とか、その街で生きていくなかでの小さな幸せを常にメモするようにしていて。その10年ぶんぐらいのメモ書きをガッツリ組み合わせた曲ですね。老若男女、いろんな層が聴くことを深く意識したつもりはなかったですけど、誰しもが経験していて、想像しやすいような歌詞にして。自分を投影して、暮らしのなかの小さな幸せ、大きな幸せを感じてほしいと思います。

-このキラキラしたポップ感は、編曲の野村陽一郎さんの影響が大きいのか、それとも岡崎さんの原曲の段階からそうだったのか、いかがでしょうか。

僕が最初に作ったデモは、ちょっとハネたドラムのビートとピアノのコードだけだったんですけど、夕方のニュースの雰囲気は同世代のバンドで言うとsumikaさんの楽曲のニュアンスが合うと思ったので、野村さんにはリファレンスとしてsumikaさんの楽曲を何曲か送らせてもらって、こんな感じが合うかもしれないですねって言ったら、今のアレンジにしていただいて。今回の『OT WORKS』は、さっきのDAIDAIさんもそうですけど、いろんなアレンジャーの曲に対する理解度や、それを実現する力を感じました。ソロでやっているからこそいろんな方々と手を組めるし、その人たちの力を僕も感じることができる。僕がリスペクトしている人の力をリスナーの方々にも感じてもらえるので、幸せなことだと思います。

-でもソロとはいえ、Paleduskからsumika、フラカン(フラワーカンパニーズ)まで、いろいろなルーツやリファレンスをひとつにまとめられるアーティストって、なかなかいないと思いますよ。

ありがとうございます。学生の頃からロバート・デ・ニーロがすごく好きで。怖いマフィアの役もできるし、"マイ・インターン"、"みんな元気"みたいな、陽気でかわいいおじいちゃんの役もできる。僕もいろんなことを、自分の味を出しつつ表現していきたいんですよね。

-音楽家としてはロール・モデルがいないかもしれないけれど、俳優、しかもデ・ニーロっていうとすごく腑に落ちますね。次の「富山におるちゃ」(NHK富山放送局のマスコット・キャラクター"きとっピ"のテーマ・ソング)は富山の方言やご当地ネタが盛り込まれていて、岡崎さんの勉強家である一面も出ていますが、富山に縁はあったんですか?

いや、まったくなくて。ツアーでも行ったことがなかったんです。打ち合わせの段階でお話をうかがったら、NHK富山で流して、みんなで踊れるような、富山を盛り上げるような楽曲にしたいと。そこで富山の特徴や味を出していこうと思いました。このアルバムをマスタリングしてくれたソニーのマスタリング・エンジニアの酒井(秀和)さんが富山出身の方なんですけど、「富山におるちゃ」を聴いているときの酒井さんの背中がノッていて。

-それ、嬉しいですね!

はい。方言も、最初は間違えてレコーディングしていて。"富山にいるちゃ"って歌っていたんですけど、ほんまに合ってんのか不安だったので、SNSで富山県出身の方に聞いてみたんです。そうしたら、"「いるちゃ」とは言わないです、「おるちゃ」です"ってリプライがたくさん来たので、レコーディングし直しました。そういう意味では、私の作詞作曲にはなっていますが、富山のみなさんが作詞してくれたと言っても過言ではないですね。

-続く「Insane(B.LEAGUE version)」は"おはスタ"ファミリーがフィーチャーされていますが、そのスピード感やクールさからは"B.LEAGUE 2022-23 SEASON"公式テーマ・ソングというところを強く感じました。

スポーツがすごく好きで、普段からよく中継を観るんですけど、例えばスーパー・ゴール集やドキュメンタリーな部分も好きなので、そういう映像にいつか自分の歌が乗るといいなぁという夢もあって。今回このお話をいただいたので、そういう映像に乗ることを想定して書きました。想像しやすかったですし、熱量も人一倍もって作れた自負はあります。

-「膏」はSawanoHiroyuki[nZk]:okazakitaiiku名義でリリースされた楽曲ですが、作曲/編曲は澤野弘之さんなので、いつもとは違う取り組み方だったのではないでしょうか。

そうですね。澤野弘之という人物が日本を代表する、世界を代表すると言っても過言ではない素晴らしいミュージシャンであることを改めて感じましたね。とにかくなんでも早いんです。いい意味での合理性があって、無駄なものを省いていて。年間600曲とか書いているんですよね。ほんとにすごいスピード感で仕事ができる。しかもクオリティがすべて高い。この曲、メロディは澤野さんで、そこに僕が歌詞をつけて歌唱したんですけど、そういう作り方もしたことがなかったので、母音の置き方や、音符のひとつにひらがな何文字流し込むかっていう感覚も違って。僕、ひとつの音符にたくさんひらがなを入れるんですけど......澤野さんもそういうタイプだとは思うんですけど、やっぱり楽譜の中での動き方の幅とかが、普段の僕の作曲と全然違うので、やっていて難しくも楽しい経験でしたね。

-その音符に対する文字数っていうところで言うと、次のヤバイTシャツ屋さんとのコラボ曲「Beats Per Minute 220」("Red Bull SoundClash 2022"テーマ・ソング)も注目すべきポイントですよね。ジャンル感も含めて、成り立ちはまったく違うと思いますけれども。

これは山中湖の合宿所で1~2泊して作ったんです。みんなで缶詰になって曲を作る経験を初めてして。ヴォーカルのこやま(たくや)君と僕が主体となって進めていきました。ヤバT(ヤバイTシャツ屋さん)はメロコアのバンドなので、その上に僕のシンセサイザーが乗ったほうが気持ちいいだろうなって思って。地元も一緒で仲良くしている子たちなので作りやすかったですね。"ここはこういうほうがいいんちゃう?"って気兼ねなく言えたし。あと合宿が修学旅行みたいな感じで、単純に楽しかったです。3つ年は離れているんですけど、同じ中学の同じ部活、軟式テニス部出身ですし。在学期間は被っていないんですけど、顧問の先生は同じとか、部活帰りの駄菓子屋さん、コンビニ、ファミレスとか、全部同じ町で生活していたので、根底の感覚が近いんですよね。

-アーティスト活動を始める前から知り合いだったんですか?

いや、まったく知らなくて。ライヴハウスで音楽をやり始めてから出会って。それがお互いレコード会社からデビューして、10年以上やっているのは感慨深いし、地元に対しても"宇治ありがとう"って思います。

-「休みの日くらい休ませて」はSexy Zoneに、「Liar」はHey! Say! JUMPに提供した楽曲のセルフカバーになりますね。

そうですね。ふたつとも"岡崎さんらしい曲"という発注で、基本的には彼らがライヴでやる楽曲というところを意識して作りました。コミカルな要素が自分の持ち味だと思っているので、彼らが歌ったときにかわいらしくてキャッチーで温かい世界観になればいいなと。

-これ、"休みの日くらい休ませて"って歌えて彼らは嬉しかったんじゃないんですか? だって本当に忙しいじゃないですか、きっと。

そうですね(笑)。そのとき僕も繁忙期だったので、自分の気持ちがストレートに乗ったところもあって。でもSexy Zoneさんの忙しさって僕らの想像の範疇は超えていると思うので、これをSexy Zoneさんが歌うことで、日本の社会が少しでも良くなればいいなという気持ちもあります。

-それで言ったら「Liar」も"ウソ ウソ ウソ"、"そんな生活に焦がれてるだけ"って、あんなにキラキラな人たちがこれを歌うって、人間味があっていいなぁって。

SNSなんか見ていると、どうしてもたくさんの人に自分を肯定してもらわなきゃいけない、そうしなきゃ落ち着かない世の中になっている気がして。そうではなくって、肩肘張らずに楽に生きていいのになということを僕自身も感じていましたし。メンバーの中島(裕翔)さんとは一度ドラマで共演させていただいたんですけど、朗らかでリラックスされている印象があって。忙しいなかでも心にゆとりを持っていらっしゃる方って、すごく生き生きしているし、そういう意味でこういう曲を作りましたね。

-そして、今作の中でも最も国民的楽曲と言える「めざましじゃんけんのテーマ」で締めくくられるという。

かれこれ4~5年ぐらい("めざましテレビ"で)かけてもらっていて、もともと15秒ぐらいの曲なんですけど、今回『OT WORKS Ⅲ』に入れられることになって、1分くらい尺をつけ足したんです。朝の情報番組に岡崎体育の影をちらつかせている状況というか。たくさんの人に自分の活動、名前を知ってほしいという顕示欲は、表に立っている以上あるので、なるべくたくさんの人にじゃんけんしてもらいたいと思っています。未だにTwitterを見ていると"「めざましじゃんけん」の曲、岡崎体育だったんだ!"って書いてくれている人もいて。ちょっとずつ認知してもらえたら嬉しいですね。

-全曲について語っていただきましたけど、もっといろんなタイアップ、コラボレーションを聴いてみたくなったんですが、ご本人としてはどんな夢がありますか?

自分は"死ぬまでにやりたい100のことリスト"を作って、それを消化している人生なんですけど、その中で"オリンピックのテーマ・ソングを書いてみたい"っていうのがありまして。名前も"体育"ですし。前回の東京オリンピックでは叶わずでしたけど、これからキャリアを積んでいくうちにオリンピックのテーマ・ソングを書かせてもらえるかもしれないので、それに向けて頑張っていきますし、それをいつの日か『OT WORKS』に入れたいと思っています。

-オリンピックなんてどメジャーの中のどメジャーですけど、その一方で岡崎さんはオルタナな趣向もあって、地元が近い奈良のLOSTAGEをリスペクトしていたり。その両輪が岡崎さんの魅力を走らせているような気もするんですね。

LOSTAGEの五味(岳久/Ba/Throat)さんは昔から目を掛けてくれていて、最初の頃は"いい曲もCDに入れてんねんから、コミックソングだけじゃなく、そういうのもライヴでやっていけよ"って怒られたりもしていたんですけど、"ポケモン"の映画("劇場版ポケットモンスター ココ")の曲を作ったときに息子さんと観に行ってくれて、"岡崎の曲で泣いてもうたわ"って言ってくれてめちゃくちゃ嬉しかったですね。尊敬していますけど、自分のスタイルで1回ギャフンと言わせたので、めっちゃ満足しています。まぁ、ギャフンと言わせたわけではないんですけど(笑)、葛藤しているところもあったんです。コミックソングの印象が強いだろうし、クライアントに寄り添いすぎているんじゃないかって悩んだこともあったんですけど。でも五味さんの言葉を聞いて、自分のカメレオン的なスタイルに自信を持つことができました。偉大な先輩ですね。

-寄り添うといっても擦り寄ってはいないと私は思いますよ。

ありがとうございます。いろんなジャンルをやることで器用貧乏にならないかっていう不安もあるんですけど、そこは地に足をつけて、精度を高めて、どのジャンルでも自分らしさを出せるように頑張っていきたいと思います。