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LIVE REPORT

Japanese

岡崎体育

2019.06.09 @さいたまスーパーアリーナ

Writer 蜂須賀 ちなみ

例えば、メイン・ステージとセンター・ステージを繋ぐ花道の幅は平均台ほどの細さで、センター・ステージの飾りつけは花ではなくエノキタケで、運営スタッフに藤木直人が紛れ込んでいた。心のきれいな人のみ聞き取れる周波数でのパフォーマンスという、私には無音にしか思えなかった場面があった。「FRIENDS」ではいい話をするてっくん(※岡崎体育のステージ上の唯一の友達)の声がどんどん岡崎体育の声に変わっていき......という演出で感動的な流れに持っていくかと思いきや、結局てっくんの喉に血痰が絡まっただけというオチだった。

また、ワイヤーで宙吊りになりながら登場したり、観客に振り分けられたペンライトが客席を彩ったりと、アリーナだからこその演出もあったし、この日のために用意された新曲や初出しの映像もたくさんあった。しかし、ステージがせり上がる場面で披露されたのは2番で歌詞を忘れる「Voice Of Heart」だったし、その後センター・ステージで満を持して歌ったのは岡崎体育ではなく、てっくんによるソロ曲「フェイクファー」である。さらに、アイドルのコンサートでよく見掛けるような華やかな電飾のトロッコに乗り、アリーナを周回した際に披露したのは誰も知らない新曲2曲。一方は、"みんなが全然知らない曲でトロッコ回んな"などと言いつつ、"みんな歌ってー!"と無茶ぶりする(もちろん誰も歌えない)曲であり、もう一方は、ライヴ映像作品によくある副音声をリアルタイムで流す「オーディオコメンタリー」という曲だった。

岡崎体育はどうも掴みづらい。"歌唱力とか容姿を加味して、自分はかっこいい音楽をやるタイプではないと思ったし、(メジャーから)声が掛かるには人と違うことをしないといけない。その話題作りのために奇をてらうことをしなくてはいけないっていうところの答えが、ピエロを演じるっていうことだったんです"(※2019年2月発行のSkream!×BIG UP!特別マガジン掲載インタビューより)と自ら言ってしまうような人だ。しかし、てっくんが"本当は君がロック・バンドを好きだってことにみんな気づいているよ"と言っていたように、いわゆるネタ曲にあたる「FRIENDS」も、実はバンドへの憧れがこじれまくったがゆえの恨み節なのだということがあの曲を聴けばわかるし、"バンドざまぁみろ!"と叫んでいるにもかかわらず、彼にバンドマンの仲間が多い理由もそういうところにあるように思う。

さいたまスーパーアリーナでワンマン・ライヴを行うことは、岡崎体育がかねてから公言してきた夢だ。その夢が叶う瞬間に立ち会った1万8,000人が、ピエロの仮面の向こう側にある、音楽家としての本質的な部分に気づくことができた人ばかりであったこと。そんな人たちに見守られながら、岡崎体育は小さなライヴハウスでやっていたのと同じスタイルで(新しいアイディアを多分に盛り込みながら)ライヴをし、これまでの自分の道のりと集まったファンの存在を肯定してみせたこと。それらこそがこの日のライヴが感動的であった理由だ。

例えば、ライヴ冒頭の「Open」での爆発的な盛り上がり。曲間で水分補給したり、タオルで顔を拭いたりしているときも表情が緩みっぱなしの岡崎体育の様子を受けて、客席から上がった"ヒューヒュー!"という歓声。ライヴ初披露の「スペツナズ」やピアノ弾き語りでの「龍」にじっくりと聴き入り、「鴨川等間隔」のひと癖ある歌詞を笑顔で口ずさむ観客の姿――。このように、岡崎体育と観客とを結ぶ絆のようなものが透けて見える場面がライヴ中いくつもあった。

終盤のMCで、台風にもかかわらず多くの観客が必死に会場に駆けつけたという初ワンマンを引き合いに出しながら"それと同じ感動を今味わっている"と言っていた岡崎体育。それはつまり、会場の規模が大きくなったにもかかわらず、あの頃と同じような熱量を観客から感じたということだろう。"6~7年前、どうしようもない日が続いていた時期に書いた曲"と紹介された「エクレア」には、"想像上のステージと想像上のオーディエンス/やれるとこまでやろう"というフレーズがあった。しかし今は、夢を叶えるその瞬間に立ち会いたいと願った1万8,000人もの"人"が彼の目の前にいるのだ。

口パクこそが自分の真骨頂だと胸を張り、そこで一番の盛り上がりを生み出すアーティストなんて岡崎体育ぐらいしかいないだろう。ライヴのラストを飾ったのは"この曲は今日ここでやって終わりです!"という宣言からの「Explain」。"いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対"というフレーズが堂々と鳴り響いたのだった。

盟友の寿司くん(=ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくや)が彼に伝えたという"ここで燃え尽きないでください"という言葉は、ファンの多くが心配していたことだと思うが、終演後には来年2月に大阪府立体育会館でワンマンを行うことがアナウンスされた。またこの日、"岡崎体育です、よろしく!"と頻繁に言っていたのは、夢の舞台に立てて嬉しかったから......だけではなく、"これからもよろしく"的な意味合いを込めてのことだろう。岡崎体育は夢の先へと走り続ける。その姿をまだまだ見ていたいと思えるような、素晴らしいライヴだった。


[Setlist]
<第1部>
1. Overture
2. Open
3. R.S.P
4. 感情のピクセル
5. からだ
6. Naked King
7. FRIENDS
8. Horoscope

<第2部>
9. 今宵よい酔い
10. MUSIC VIDEO(short version)
11. Voice Of Heart
12. フェイクファー
13. スペツナズ
14. 龍
15. Okazaki Hyper Gymnastic

<第3部>
16. Stamp
17. トロッコにのって
18. オーディオコメンタリー
19. ポーズ~キミの冒険
20. Voice Of Heart 2
21. XXL
22. The Abyss

<アンコール>
23. 鴨川等間隔
24. エクレア
25. Explain

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