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LIVE REPORT

Japanese

岡崎体育

Skream! マガジン 2024年07月号掲載

2024.06.02 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer : 石角 友香 Photographer:深野輝美

何かとチケットの売れ行きが話題になった今回のZeppツアー。現地に足を運びたいけれど、ちょっとした不安を抱える人の背中を古参ファンがSNS上で後押しするというコミュニケーション、次第に完売に近づいていく時間の共有は岡崎体育とそのファンダムならではの結果をもたらした。結果的には札幌公演以外、完売するという快挙を果たし、ファイナルの東京公演を迎えた。

冒頭、ステージ前方に張られた紗幕に楽屋で準備中の岡崎が映し出されるのだが、どうやらその映像は彼女視点らしい。彼女が子供や対戦ゲームの相手に敬語を使うことを理由に別れを切り出す理不尽な岡崎。そこから立場が逆転し、オープナーは振られた側の怒りがぶちまけられる「失恋ソング」だ。冒頭から小芝居で笑わせてくれたうえに、間奏ではこの曲のレコーディングやMVに参加した武田真治を呼び込み、サックスと切れ味のいいアクションで盛り上げる。続く「あてはまRing Ring」でも共演し、フロアの熱気に気圧されている様子だ。"すーごい熱気ですね!「失恋ソング」、とっても素敵な曲に参加させていただいてありがとうございます"と興奮気味の武田。"こういうのってだいたいライヴ終盤にやることじゃないですか"と、岡崎は自らツッコミつつ、武田の要望で記念の集合写真も撮影。序盤から大いにオーディエンスを惹きつけた。

武田を見送ったあと、お馴染み「Quick Report」の内容はつい今披露した2曲についてなのがまさに"クイック・レポート"で驚かされる。歌い終わると2階席のファンに"2階席元気~? タワマンの上層階みたいやな"というMCに笑いが起きた。そこから別人格が憑依したようにアコギを抱えた岡崎はシンガー・ソングライター的な表層に擬態し、どこまでも他責思考な「宇宙と長野」を披露。壮大な宇宙の映像と歌詞の投影がなおさらその責任回避感を増長させた。一転、踊ったり暴れたりする子供たちの映像を背負っての新曲「バタバタサンバ」を披露。自由奔放な子供たちの様子を見習って、大人も好きなように振る舞えという岡崎の優しさを感じたりした。なんといっても"盛り上がってるかー?"ではなく"バタバタしてるかー?"という煽りが最高だし新しい。

"おっさんのカラオケ状態が続いたんで、ゲストを呼びたいと思います"と紹介されたのはお馴染み"てっくん"。すかさずフロアにも多数の"偽てっくん"がワラワラ現れるのだが、キャパシティが大きいだけにその数も多い。この日の「FRIENDS」は"はたらくくるま"バージョンで、歌詞の1フレーズごとにてっくんが"汗水垂らして働いているのは人間だ!"と、若干説教混じりの"プロジェクトX"のようになったり、「ねこふんじゃった」の歌詞のシュールさにてっくんが暴言を吐いて強制終了されるのだった。

エレクトロニックなサウンドと重低音で踊らせる「XXL」のあと、"前半は次の曲で最後です"と告げるとフロアからは"えーー?"の声が上がるのだが、"ちょっとそれ"、"どっちの「えー」?"というコール&レスポンスに驚く初見のオーディエンスの姿も。そのことを丁寧に説明し、このあと似た場面で応用できるように促していた。まさに誰も置いてけぼりにしないライヴである。そして童謡とデス・メタルが交錯する「Q-DUB」の新バージョンでフロアがグッとカオティックになったところで、前半終了。その後、岡崎が出演するTV番組やCMが映像で紹介される。改めて稀有なキャラクターである。

後半はパーカーを着替えて登場した岡崎が全身で煽るトランス調の「Open」に始まり、背景に様々なイケてるおじさま方が映し出されるJ-POP的な名曲「おっさん」でウォームな気分に。年齢を重ねることの前向きな意義を表現しながら、且つ"なるべく多くの関係者たちに惜しまれながら死にたい"というシニアの本音の悲喜こもごもを忍ばせるのが岡崎らしい。

今回のツアーは初参加のオーディエンスも少なくないことを見越して、"全然知ってる曲やらへんやんと思われてる方に、人気のある曲をメドレーでお届けします"と、「MUSIC VIDEO」や「まわせPDCAサイクル」、「キミの冒険」、「感情のピクセル」をマッシュアップして"てんこ盛りEuroBeat Mix"として披露。だが、原型を成さないリミックスでむしろコア・ファン向けに聴こえたのは自分だけじゃなかろう。このメドレーでは人間の動きをスキャンして動物の映像に取り込んだような演出が面白かった。着ぐるみの進化形と言えるんじゃないか。さらにトライバル・テクノ調の「GUNG TUNG SUMMER BON WINTER」でフロアが蠢く。

ひと息入れるためのMCではファンにライヴやリリースのスケジュールを小出しにするか、まとめて発表するか、どちらがいいかについてアンケートをとる。するとフロアから"年間スケジュール!"という要望が挙がり、"でもフェスとか「出そう」で実際出んかったらカッコ悪いやんか"と、意見交換の擦り合わせ(?)が行われていった。

続いては新作『Suplex』から、AIで生成されたであろう微妙に顔の要素が変わった岡崎の顔が投影されるなかでの「Rebirth」。生きている間はずっと続く選択が混沌としたトラックと相まって、なかなか怖い1曲だ。極めつけは最後の"ママ 太陽がついてくるよ"の歌詞と同時に照明がホワイト・アウトした瞬間。笑いに溢れる彼のライヴの中での一瞬の不穏が際立った。一転、聴かせるバラード「龍」へと、感情をぶん回される。

セットリストのバラエティは終盤に来て加速。レゲエ調の「サブマリン」では自然とオーディエンスが手でウェーヴを作り、「なにをやってもあかんわ」で、ロック的なテンションに突入していった。恒例の不平不満を詰め込んだ見えない塊を成仏させる(!?)一連のムーヴも完遂したのだった。

本編残すところ1曲の場面で、"今回のツアー、めちゃめちゃ良かった。チケット売れなくてクビになるかと思って自主レーベルの名前とか考えてたけど、みんながチケット買ってくれて嬉しかった。「プロとして恥ずかしい」とか書かれたけど、そんなことはないんですよ。カッコ良かったと思う"と言うと、大きな拍手が送られた。そして"何も言わずにツアー始めるのもいいけど、伝えていくのもいいと自信になりました。SNS、やってて良かった"と、正論を話してくれたのだが、直前まで"音楽"か"SNS"かで迷ったと笑わせた。ラストの「Youth」がこれまで以上に所信表明に聴こえたのも気のせいじゃないだろう。"Zepp DiverCity、ソールド・アウト公演でした!"と力強く閉幕を宣言した岡崎の気持ちはすごく正直なものだったと思う。

アンコールに爆速でステージに戻った岡崎は最初の告知として"実家全リフォーム決定!"を解禁。ツアー開始時に立てた減量計画が失敗したことによるものらしい。早速フロアにリフォームに詳しい人を探すのがおかしい。そして本来の(?)告知事項である秋のホール・ツアーが解禁。ライヴに行くことを迷っている人の"椅子があれば行く"という声に応える素早いレスポンスであり、言い訳を許さない高等戦術である。この日最後の1曲は涙なしで聴けない名曲「エクレア」なのだが、岡崎はオーディエンスすべての顔を覚えて帰るために、ラスサビを3回歌うという名曲本末転倒なエンディングを見せたのだった。2024年のライヴ・シーンにおいての"成せば成る"を体現したツアーはアーティスト、ファン双方の達成感に満ち溢れていた。

TOUR INFORMATION
"岡崎体育ホールワンマンTOUR『盆テク博覧会』"


10月19日(土)NHK大阪ホール ※大阪パビリオン
10月27日(日)愛知 岡谷鋼機名古屋公会堂 大ホール ※愛知パビリオン
11月2日(土)福岡国際会議場 メインホール ※福岡パビリオン
11月17日(日)東京 NHKホール ※東京パビリオン
12月7日(土)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール) ※北海道パビリオン
OPEN 16:00 / START 17:00

[チケット]
早割全席指定:¥7,000(税込)
こども全席指定:¥6,000(税込)
■早割先行
~6月30日(日)23:59
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