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INTERVIEW

Japanese

パスピエ

2018年04月号掲載

パスピエ

Member:大胡田 なつき(Vo) 成田 ハネダ(Key)

Interviewer:秦 理絵

-少し詳しく収録曲について聞かせてもらえればと思いますが。まずアルバムの核になったのが、タイトル・トラックになってる1曲目の「ネオンと虎」。

成田:「ネオンと虎」は、ザ・80年代ニュー・ウェーヴなんですよね。例えば、自分たちの曲だと、「トロイメライ」(『ONOMIMONO』収録曲)とかがそうなんですけど。80年代ニュー・ウェーヴって、僕らもリアルタイムじゃないんですよ。でも、そこに憧れてしまったっていう現実があって。しかも、それはもう40年近くも前のものだっていう現実もある。そうなると、逆に新鮮になっていくじゃないですか。僕、新しいものを開拓していくときに、何か突然変異で生まれることはないって考えるタチなので。必ず過程があって生まれる。だから「ネオンと虎」は、素直に自分たちのルーツに立ち返ったことで、新しいものも一緒に持ち込まれた曲なんですよね。

大胡田:ダーウィンみたいですよね。

-ダーウィン......?

成田:進化論?

大胡田:そうそう。

-あぁ、音楽も進化論のなかで新しいジャンルが生まれていくと。"ネオンと虎"はアルバム・タイトルにもなってますけど、楽曲とアルバムのタイトルはどちらが先に決まったんですか?

大胡田:今回は7曲を作ってる途中ぐらいでアルバムのタイトルを決めたんです。ちょうど「ネオンと虎」の歌詞を書いてるときに、ここにハマるのは"ネオンと虎"だと思ったんですよね。で、アルバムと同じタイトルの曲があると、私たちにとってもすごく重みが出るので。そういう曲があってもいいなと思ったんですよ。

-"ネオン"ってすごく都会的なもので、"虎"は野性的じゃないですか。そのふたつがピンときたのは、どうしてだったんでしょう?

大胡田:もともと私はすごく対照的なものが好きっていうのもあるんですけど。今回の制作は、前回みたいなデータのやりとりじゃなくて、バンドで作る過程で、リハーサル中に色とかかたちが見えてくることが多かったんです。そのなかで「ネオンと虎」とか「マッカメッカ」を作ってるときに、赤と青としなやかな線みたいなのが浮かんだんですね。それで最初は"ネオンテトラ"っていう熱帯魚にしようかなと思ったんですけど、パスピエなので、ひと捻り加えたくて。響きが似てる"ネオンと虎"にしたんです。

-もとは言葉遊びなんですか。

大胡田:でも、あとから考えたら、"ネオン"っていう人工物と、"虎"っていう野性の感じって、私たちに近いのかなと思ってるんですよね。シンセサイザーとかエレキを使ってるけど、でもバンドの力強さを頼りに生きているというか。それで、すごくしっくりきたんですよ。だから今回は結構自分の直感を信じられましたね。

-もともとパスピエのアルバム・タイトルは回文で統一されていたり、意味を持たなかったりすることも多かったけど、"OTONARIさん"に続き、今回の"ネオンの虎"はバンドそのものを表す言葉にもなってきて。エモい変化が起きてるような気がします。

成田:これは何も計算してなかったんですけど、いま考えると、タイトルを"OTONARIさん"って付けたときは、"お隣さん"って他者じゃないですか。たぶん当時は、新しいパスピエとして他者になっていきたかった時期なのかなと思ったんです。でも今回は"パスピエはこういうものです!"って、自分たちを示してるアルバムになってるから。タイトル自体に深い意味を持たせるっていうことはしてないんですけど、面白いですね。

-もうひとつアルバムの核になった「マッカメッカ」はプログレですね。

成田:この曲は"パスピエが進む道ってこういうことだよね"っていう打ち合わせのあとに作ったんですよ。『OTONARIさん』っていうアルバムを作ったうえで、さらに選択肢を増やしていくのか、ここで収束させていくのかを考えたときに、去年やったことを正当化するためには、いまはもう欲求に対して素直にやってみたいって思ったんですよね。そういう気分で鍵盤に向かって弾いてたら、すぐにワンコーラスができちゃったんです。そこからメンバーに渡すまでに時間はかかってますけど、フラッシュ・アイディアとしてまとめたのは、本当に1時間以内だったと思います。

-曲自体はパスピエらしい構築美が詰まってるけど、その始まり方だけを聞くと、かなり衝動的ですらありますね。

成田:そうかもしれない。あと、パスピエの定義で言うと、歌メロがシンプルで楽器が複雑みたいなことが結構多かったんですけど。今回のサビは逆かなと思うんですよ。

-演奏の方がシンプルで、メロディの方が複雑になってる。

大胡田:すごく速いですよね。"これ、歌詞がハマるかな?"って不安だったんですけど。私、ちょっと前ぐらいから、ラップに興味があるので。結構韻を踏んでるんです。聴いたときに意味がわからなくても、すごく気持ち良くノレる感じにしました。

-今回、タイトルにも意味があるっていうところとリンクして、大胡田さんの歌詞に関しても、意識的にメッセージ性の強いものが多いのかなと思いましたが。

大胡田:言葉遊びだけじゃなくて、意味とか響きとかをもう少し大事にやっていこうかなっていう感じになってるんですよね。だから今回は「かくれんぼ」みたいに想像の余地があるものと、逆に「トビウオ」みたいなメッセージのあるものがはっきりと分かれてるんですよ。そこは考えて書きましたね。

-いま話に出た「トビウオ」は、特にバンドの意志が込められた強い言葉が印象的でした。"先天性の自由でトビウオになったんだ"とか"生まれ変わるさ 何度でも"とか。いまのバンドのモードそのままを歌ってて。

大胡田:伝わってて良かった。最近、いま歌える歌を歌おうと思えるようになったんです。さっきのツアーの話に戻るんですけど、『ONOMIMONO』の曲を歌ったときに、実は歌い始める前は"若いときに書いた曲だから、恥ずかしいな"と思ってたんですよ(笑)。でも、実際に歌っていたら、"ある時期にしか歌えない歌はないな"と思えたんですよね。いま歌えば、いまの歌になるから。あんまり難しく考えなくていいのかなと思ったんです。

-なるほど。あとはヴォーカリストって、音楽の中で唯一言葉を持ってる人じゃないですか。そこに対する責任が、大胡田さんに芽生えたんじゃないかなって思いました。

大胡田:うん、それはありますね。特に4人になってからは。それは私だけじゃなくて、個人が個人として生きているっていう感じがしてるんです。"責任"っていう言葉とは違うのかもしれないんですけど、より個人が茎の太いものになったなと思ってます。