Japanese
パスピエ
Skream! マガジン 2017年06月号掲載
2017.05.07 @NHKホール
Writer 秦 理絵
真っ白なステージにひとり姿を現した大胡田なつき(Vo)がオイルアートでスクリーンにカラフルな絵を映し出すという演出でライヴは幕を開けた。無垢なる白に注がれて無秩序に混ざり合い、あるいは決して溶け合わずに自らの存在を主張する色彩。それはまるで何もなかったところから5つのDNAが集まり、互いに影響し合いながら完全にオリジナルなポップ・ミュージックを作り上げるパスピエそのものを表すような鮮烈な始まりだ。
今年1月にリリースした4thフル・アルバム『&DNA』を携えて全国17ヶ所で開催してきた[パスピエ TOUR 2017 "DANDANANDDNA"]のファイナルとなったNHKホール公演。それは2015年に初日本武道館を終えたあと、メディアでの顔出しを行い、シングル3枚とアルバムのリリースを通じて模索してきたものを、ライヴというかたちで完結させることで、まだまだ彼らには無限の可能性があることを証明するようなステージだった。
成田ハネダ(Key)が弾くピアノのフレーズに疾走感のあるバンド・サウンドが重なった「ヨアケマエ」からライヴはスタート。艶やかな衣装をひらひらと翻し、その音を全身で感じながら歌う大胡田の魅惑の歌声が高い天井へと伸びやかに響き渡っていく。やおたくや(Dr)のタム回しから、三澤勝洸(Gt)と露崎義邦(Ba)のツートップがステージ際まで出て、オーディエンスを煽った「永すぎた春」。大胡田のタイトル・コールだけで大きな喝采を呼んだ「チャイナタウン」では無数のレーザーが会場を彩り、たった開始5曲でNHKホールには完全なるパスピエの世界ができあがっていた。
最初のMCで大胡田が"私たちの遺伝子を生で感じてもらえたら嬉しいと思います"と語り掛けると、「やまない声」からは最新アルバムの曲を立て続けに披露した。スペイシーなエレクトロ・サウンドが昂揚感を生んだ「ああ、無情」や、ミディアム・テンポで聴かせた「DISTANCE」。パスピエの深部に触れるアルバム曲の数々が披露されるとき、ステージにメンバー5人のDNAを表すような抽象的なオブジェが吊るされていたのも印象的だった。
パスピエの音楽はニュー・ウェーヴやクラシック音楽の影響を受けながら、決してひとつのジャンルでは括ることのできない雑食性がある。ゆえにどの音楽シーンでも異端であり、周りに干渉されることのない強さがあるのだと思う。そんな最初期から魅力を継承しつつ、いまのパスピエにいたっては、大胡田なつきという稀代のアイコンの魅力を最大限に引き出すために、4人の男性陣がより自由度を上げながら洗練されていくのも感じた。
1stフル・アルバム『演出家出演』から今回のツアー・バージョンにアレンジした「S.S」では、メンバーが一時停止したあとソロ回しを挟むユニークな演出が楽しかった。続けてあたたかいハンドクラップを呼んだキュートな恋のクッキング・ソング「おいしい関係」へと、パスピエの過去と現在をシームレスに繋ぎ、壮大なバンド・アレンジで届けた「トキノワ」からはクライマックスに向けてライヴはますます熱量を上げていった。ここ1年でリリースしたシングルすべてをライヴに欠かせないアンセムへと成長させ、さらに『&DNA』という作品でメンバーのルーツを最大限に落とし込むことでバンドの深みを増したパスピエ。横方向の躍進と縦方向の深化。終盤はその両方を成し遂げたパスピエのタフさを見せつけられるステージだ。
"今回のツアーではライヴハウスとホールを回りました。でも、みんなの顔を見ていると、どこでやるかは関係ないと思います。こうやってレスポンスを返してくれること。それが、僕らが音楽をやる意味の証明だと思います"。最後のMCで成田が言ったあと、パスピエ流ロックンロール「マイ・フィクション」と80sなダンス・ナンバー「ラストダンス」を披露すると、ラストは大胡田が"大切な曲です"と言って届けた「スーパーカー」で締めくくった。メンバーの足元にスモークが焚かれ、ピアノの旋律に乗せて"スーパーカーに乗ってどこまで行けるのかな"と投げ掛けるフレーズは、その場所にいるお客さんと一緒に"地図に印をつけた未来"へと進んでいこうと、言葉ではなく音楽で約束を交わす瞬間だった。
アンコールでは「シネマ」と「最終電車」の2曲、さらに止まない拍手に答えたダブル・アンコールでは「フィーバー」を届けて、最高にハッピーなムードのなかでライヴを締めくくったパスピエ。そこで大胡田は"音楽をやっててよかった。やっぱりやめられないなと思いました。また一緒にライヴをやれると嬉しいな"と、爽やかに別れを告げた。
このツアーを終えたあと、5月13日のライヴをもってドラムのやおたくやが脱退することが発表された。結果として今回が"5人のパスピエ"を見る最後のツアーになってしまったが、ツアー中にそれを発表せず、音楽に専念することを選んだのもパスピエらしいと思った。最強の5人で作り上げるパスピエに未練がないと言えば嘘になるが、やおが残したDNAを引き継いで、ここから"最強の4人"として新生パスピエが突き進んでいくことを信じている。
[Setlist]
1. ヨアケマエ
2. ギブとテイク
3. とおりゃんせ
4. 永すぎた春
5. チャイナタウン
6. やまない声
7. ああ、無情
8. DISTANCE
9. くだらないことばかり
10. ON THE AIR
11. S.S
12. おいしい関係
13. トキノワ
14. メーデー
15. マイ・フィクション
16. ラストダンス
17. ハイパーリアリスト
18. MATATABISTEP
19. スーパーカー
en1. シネマ
en2. 最終電車
en3. フィーバー
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