Japanese
パスピエ
Skream! マガジン 2014年01月号掲載
2013.12.21 @赤坂BLITZ
Writer 山本 真由
パスピエ初のワンマン・ツアーの締めくくり、赤坂BLITZでのワンマン・ライヴ。1stフル・アルバム『演出家出演』をリリースし、今年精力的に活動した彼らの集大成とも言える、現在のパスピエの全てが詰まった濃密な2時間弱だった。
オープニングの映像には、大胡田なつき(Vo)の描いたイラストが使用され、アンニュイな少女のイメージから、サウンドに合わせ徐々に薄い幕の向こうにバンドのシルエットが現れる。アルバムのオープニング・ナンバー「S.S」の歌に入る瞬間、その幕はスルっと下り、バンドの姿が露わになる、という派手なつかみでショウはスタートする。CDでさらっと聴いてしまうと、大胡田の可愛らしいヴォーカルが目立つポップな楽曲だが、ライヴでは表情豊かで逞しいバンド・サウンドが印象強く、やんちゃなライヴ・キッズも満足させるロックな楽曲に変貌していた。
終始ノリノリのフロアには、配信のみでリリースされた新曲「とおりゃんせ」もしっかりと浸透しており、"待ってました!"というような盛り上がり。そのまま、ベース、ギター、ドラムのソロ・パフォーマンスとセッションが入り、演奏技術の巧みさを見せつけたところで、そのままの熱量を続く「△」へと流し込む。ここでもまた映像とのコラボレーションを上手く使って、視覚と聴覚を同時に刺激する一貫したパスピエ・ワールドを繰り広げた。
彼らにとって"はじまりの曲"である「開花前線」をはじめ、「電波ジャック」や「チャイナタウン」といった比較的初期の楽曲も織り交ぜながら、アルバムのリリース・ツアーのファイナル公演という意味もあり、この日は『演出家出演』に収録されている楽曲を中心に披露。「シネマ」や「ON THE AIR」のようなキラキラしたポップ・ソングや、「はいからさん」や「フィーバー」といった高揚感のある楽曲で盛り上げ、謎めいたイメージだったバンドの人間性が滲み出るようなアグレッシヴなパフォーマンスで、フロアにぎっしりと詰まったオーディエンスを端から端まで踊らせた。
ソングライティングを務める成田ハネダ(Key)の雑食な音楽的バックグラウンドが見え隠れする和洋折衷の世界観、大胡田が時折のぞかせる可愛らしい声や容姿の裏に隠されたアーティスティックでクレバーな一面、独特のグルーヴで個性を発揮する露崎義邦のベース、キレのあるプレイで楽曲を引き締めるやおたくやのドラム、エッジの効いたロックなリズム・ギターとトリッキーなソロを自在にこなす三澤勝洸のギター......。ポップ・ソングをポップにとどめない感性豊かなそれぞれの個性が、時にシリアスにもおどけても、冷酷にも情熱的にも、その瞬間瞬間に別の顔を見せてくれる。
D.I.Y.な雰囲気は残しつつも、映像や照明の演出、ライヴの構成など、非常に作り込まれたステージで、音のみでは表現しきれないパスピエの有り余る才能を体感することが出来た。
大胡田の"今日はみんなと一緒にライヴが出来て幸せです"というMCは、その場に居た誰もがそれぞれの目線で彼らの音楽を受け止め、様々に解釈されることで深まる、その瞬間にしか出来ないサウンドがその日のライヴを作ったという証なのだろう。それは、おそらくパスピエの音楽が、リスナーが何処かで無意識の線引きをしてしまう、ジャンルの壁をさらっと取り払って自由な心でサウンドに浸らせてくれるような、可能性に満ちた音楽だからだ。
これまで相容れることのなかった、例えばPerfumeやMEG等のカワイイ系テクノ・ポップを聴いている今どきお洒落女子と、NEW ORDERやDEPECHE MODE等のニュー・ウェイヴで青春時代を過ごしたお兄様方の最大公約数をサウンド化したような、未知数の不思議な音楽体験だった。
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