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INTERVIEW

Japanese

a flood of circle

2017年01月号掲載

a flood of circle

Member:佐々木 亮介(Vo/Gt) 渡邊 一丘(Dr)

Interviewer:沖 さやこ

-それは「花」(2015年リリースの7thシングル表題曲)が生まれたのが大きかったのかもしれないですね。

佐々木:そうですね。一人称の想いを書き切るというのは、「花」でやり切れたんだと思います。それこそ「花」は"バンド・メンバーも感情移入できるのかな?"と心配するくらい自分のことを書き切ったんで、そこで突き抜けられた実感もあったし、ビデオの撮影も含めてあの曲に関するアイディアをやり切れたんですよね。そのあと空っぽになったのではなく、溜まったものを全部吐き出したような、すっきりした感じがあった。だからなんでも入れられると思ったんです。それでいろんな人と話したり、出会ったりしているうちに、そのこと自体が曲になっていった......という感じかな。出会う人たちみんなが刺激的だったし面白かったし、愛しく思えた。

-紙資料によると、例えば「The Greatest Day」は、熊本県益城町に住むファンの子がきっかけになっているようで。

佐々木:ベスト盤(2016年2月リリースの『THE BLUE』)のツアーの金沢の日に熊本の地震があって、そのちょっとあとに鹿児島のライヴがあったんですよね。その間に熊本の実態がどんどん明らかになっていって。マネージャーの運転で片側が崩れ落ちた高速道路をゆっくり走っていって、いろいろなことを感じながら鹿児島に行って、ライヴはライヴでバチッとやって。めっちゃいいライヴができたんです。それで車に乗って帰ろうと思ったら待っててくれた子がいて、その子は俺に何かプレゼントするわけでもなく、サインをもらおうとするのでもなく、普通に握手だけしに来たんです。そのときに"益城から来ました"と言われて"えっ、大丈夫!?"と返したら"いや、大丈夫じゃないんですけど"って。その子はヘラヘラしているわけでもないし、追い詰められているわけでもなく"明日から頑張るために絶対今日ライヴが観たかったんです"って言われて......マジこいつめっちゃかっこいいなと。そのときにいくつか言葉を書きためたんです。

-そうだったんですか。

佐々木:ロンドンでレコーディングするときも、ザブはまず"福島どうなの?"と言ってくれて――海を越えたところに住んでいる人たちも日本の一大事をそうやって受け止めてくれてるんだなと思ったんですよね。そういうのもあって、「The Greatest Day」の歌詞が書けたんです。とは言ってもこのアルバムの曲は、宛てている人のことだけを感動させたいわけじゃなくて、たくさんの人の心に響く幅広いものにしたかったんですよ。そういう普遍的な気持ちは、逆に1対1のときの方が感じる気がして。それもあってその子に宛てるように書いていったんです。

-特定の誰かに響くものにしたかったわけではなく、ひとりひとりと向き合うことで、たくさんの人のもとに届くものが作れた。なんだかライヴの空間のようです。「ジュテームアデューベルジャンブルース」(Track.5)は、ベルギーのテロがあったときに作ったものだとか。この曲はポップだけれど、音に憂いや切なさがあります。

佐々木:これはベルギーのジャズ・ミュージシャンのDjango Reinhardtのコード進行を参考にしたので、その時点でちょっと憂いがあるんですよね。ベルギーの人が聴いたときにもグッとくるものにしたかったんです。歌詞に出てくる"ROB"は、俺がベルギーに住んでたころの友達とコーチの名前がミックスされたもので。ザブがイギリスとフランスのハーフなので、"アデュー"の発音がめちゃめちゃ直されましたね(笑)。

-(笑)渡邊さんは佐々木さんのソングライティングの変化について思うことはありますか?

渡邊:自由になろうとしてる亮介がいるなぁと思います。やっぱり誰かひとりがいろいろ考え込んで視野が狭くなると、それが周りに影響するから。特に曲を書いている亮介が視野を広げるスイッチが入っていたので、チーム全体の雰囲気が明るかった。誰ひとり視野が狭くなることもなく、すごくいい雰囲気でできたから、そういう意味ではすごくやりやすかったですね。あと、ドラムに関してたくさん挑戦してたから、いろいろ考え込む隙がなかったのかも(笑)。

-ドラムのトライもかなり多いですよね。「New Tribe」(Track.1)にはビートにたくさん工夫が凝らされていたり。

佐々木:音を重ねるのはセオリーを避けようとしていた部分もあったと思いますね。ザブが"もうあるポップ・ソングやギター・バンドみたいな曲にしたくない"と言っていたのが俺は印象的で――"異様にベースがでかい"みたいに(笑)、1曲1曲に絶対キャラクターを持たせようとするんですよ。ミックスを聴いたときに"こんなにスネアでかくしちゃう!?"と思ったりするんだけど、それが曲のキャラになったりする。もう存在する美しいバランスは目指さず、そういう"ちょっとした違和感"を大事にする人でしたね。それは俺もそうだったんです。プリプロの段階で"手癖のコードを使わない!"と思っていたから、今回はそういうのがザブと結構がっちりハマッたんですよ。

-なるほど。私がアルバムを聴いて思ったのは、ザブさんの音作りがAFOCと合ったのは、AFOCがエモーショナルなだけでなく、クールネスやクレバーな部分も持ち合わせているからだと思ったんです。

佐々木:なるほど。ザブはMASTODONとかメタル・バンドが好きなのにめちゃくちゃオタクなので、新しい機材を渡すとずっといじり倒せちゃうタイプなんですよ(笑)。そのへんは俺らもそうで、フィジカルに踊るのが好きでライヴをやっているけど、家に帰るとおとなしい音楽ももちろん聴くし好きだし。その振れ幅やバイオリズムが同じ波長だったんじゃないかな。

-「New Tribe」はコード・ネームがあやふやになりそうなほど音を重ねたり、リズム録音を重ねて変化と奥行きを与えたり。ザブさんの"重ねる"という音作りはすごく絶妙なバランスで、たぶんやりすぎてもいけないし、繊細で緻密な作業だと思うんですよね。それが人間のいろんな感情や記憶、経験が合わさったうえでの想いだったり、AFOCが作る感情の揺らぎを表現するうえでうまくマッチングしたような。

佐々木:おぉ、それは嬉しい表現ですね。ザブと俺らは言葉でやりとりできないことを音を介してやりとりしている感じだったので。まさに音楽で会話してる感じ。......本当に人種は関係ないんですよね。例えば俺は"こいつは○○人だから殺していい"というテロに対してすごくムカつくし、"みんな許し合えばそれでいいのに"という子供みたいな発想がずっとあるんですよ。戦争がなくならない理由はわかってるけど、"なんで戦争はなくならないんだろう"と思っちゃう。そういう感じで曲を作ってるから、8分のリズムに12のリズムが入っていても別にいいやと思うし、「New Tribe」のコード・ネームがあやふやだけど、それが気持ちいいと思えば共存させたらいいと思っていたから。その気持ちは曲に出ているかも。

-「New Tribe」はまさしくそうで。メロディやコードは切ないし、歌詞はパンチライン続き。だけど音色は面白くて、ちょっと風変わりなトライバル・ビートがアクセントになって――と、いきなり痛烈な切なさと明朗な要素が共存した曲で気持ちをぐしゃぐしゃにされてしまって、アルバム冒頭から感情が迷子に(笑)。

佐々木:ははは! 1曲目から完全勝利したかったんです(笑)。