WRITERS' COLUMN
ライター 天野 史彬の『ベッドルームひとりぼっち』
2015年08月号掲載
"お前は誰だ? どこから来た、何者だ?"――優れたポップ・ミュージックは、こんな問いかけを聴き手に投げかける。それは作り手が、自らの奏でる音楽がどんな変遷を辿り自分のもとに辿り着いたのかを綿密に紐解きながら、音楽を"自分を最もよく知る他者"のように扱い、丁寧に紡ぐからだ。そうやって紡がれた音楽は、ジャンル的には多様な形式をミックスしながらも、その演者個人のパーソナリティと密接な結びつきを持ち、そして、聴き手に冒頭の問いを投げかける。
0.8秒と衝撃。の新作『破壊POP』も、この問いかけを聴き手に投げかける作品だ。歌謡性の高い艶のある歌とメロディ。そのメロディを奏でるサイケ風味のギター。衝動的なリズムと、曲にファニーなフックを与える電子音。曲を微分していけば、これまでの彼らの集大成的なサウンドを見出すことができるが、全体を俯瞰すれば、THE SMITHSをこよなく愛する彼らが根っこに持つ"メランコリックなギター・ロック"というサウンドの形を、ここに来て、最もハチゲキらしい形で提示することに成功したことがわかる。世間という外野に惑わされることなく、自分たちを見つめ、そして音楽を見つめ続けてきたからこそ辿り着いたサウンドだと言える。
『破壊POP』はハチゲキにとって5枚目のフル・アルバムに当たるが、彼らの作品は毎回違った音楽的風景を見せる。それは彼らが表現者として常に挑戦を恐れないからだが、それでも、すべての作品に通底する世界観もある。それこそがハチゲキの作家性であるのだが、それは言うなれば、"死"や"喪失"を見つめ続ける深い内省である。まるで、60年代理想主義の象徴でありながら、その理想の終焉を告げるかのようにSLY & THE FAMILY STONEが70年代初頭に産み落としたダーク・ファンクの大傑作『暴動』にも通じるほどの、狂気的内面探究。それがハチゲキの作品に通底し続ける世界観である。本作において、その内省は歌詞にも色濃く表れている。本作の歌詞表現において、塔山は強くノスタルジーへと舵を切っている。失われた時を想い、頭の中で凍結された、遠くなればなるほどに美しさを増していく過去を見つめている。このアルバムにもやはり、"喪失感"が通底音として鳴っているのだ。だが、"何かを失ったことがある"――その事実を知ることこそが、プラスチックの明日ではなく、本当に血の通った明日を産み出す最大のきっかけになるのではないか。自分たちがどこから来て、何を失い、何を得て、どうして今日を生きることができているのか?――最後に余計なことを書くようだが、『破壊POP』で塔山とJ.M.が向き合ったこの命題は、今、日本という国が向きあうべき問題にすら直結しているように感じられる。"失ったもの"は"失ったもの"として、私たちが守らなければならない大切な財産でもあるのだ。
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