ライター天野史彬の『ベッドルームひとりぼっち』

WRITERS' COLUMN

2014年04月号掲載

"ふたり"という関係性について考えてみる。ふたり。2人。二人。この"ふたり"という言葉から喚起される、安心感と緊張感はなんだろう？ "ふたりっきり"なんて言葉もある。"ひとりぼっち"とは言うけれど、"ふたりぼっち"とは言わない。ひとりは寂しいけど、ふたりになれば寂しくないのだろうか。いや、そんなことないと思う。君と僕、ふたりっきりになって内緒話をする。身体に触れ合う。そうするたびに見つけるのは、僕には言ってくれない君の秘密と、君に言うことができない僕の秘密。絶対に触れることのできない君の身体のあの場所のこと。絶対に触れさせることはできない僕の身体のあの場所のこと。"ふたり"は、温かさと同時に寂しさも連れてくる。

曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSよりリリースされた、Hi, how are you?の1stアルバム『?LDK』が素晴らしい。
Hi, how are you?は、京都出身の男女2人組。歌とギターと鍵盤というとてもシンプルな編成で、まるで90年代にUSインディーの牙城のひとつK RECORDSからリリースされた音源だと言われても驚かないような、とっても素朴で温かみのあるローファイ・ギター・ポップを奏でている。同じく京都出身のHomecomingsとスプリット・カセットをリリースしていたり、去年リリースされたシングル『バンホーテン』が短冊形の8cmCDだったりすることも、このデュオのカラーを象徴していると言えるだろう。"Hi, how are you?"というユニット名は、Daniel Johnstonのアルバム・タイトルから来ているのだろうか？なんにせよ、このユニット名の通り"やあ、調子はどう？"と聴き手ひとりひとりに向かって問いかけていくような親密さが、このHi, how are you?の音楽にはある。耳なじみのいいキュートなメロディと男女ヴォーカルは耳にぴっとりと寄り添ってくるし、曲名や歌詞、メロディの随所にある様々な音楽や映画などからの引用やオマージュを見つけるたびに、まるでCDやレコード、DVDや漫画がなんかがたくさん散らばった、素敵な四畳半の部屋に案内されたような気分になる。そして、案内された部屋で僕とHi, how are you?は"ふたりっきり"になる。アルバム冒頭を飾る「僕の部屋においでよ」で彼らはこう歌っている。"ひとりでいるのもみんなといるのもなんかちがくって／誰かとふたり僕の部屋でコーヒーをのみたい"――孤独と孤独を持ち寄って、擦り合わせて、触れ合わせて、たまにぶつかり合わせて、そうやって生まれてくる温かくて寂しい"ふたりっきり"のコミュニケーション。僕は寂しくなりたいわけじゃないはずなのに、何故だがそんなコミュニケーションが欲しくなって、最近は気がつけば、いつもこの『?LDK』というアルバムを聴いている。

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