WRITERS' COLUMN
ライター 天野 史彬の『ベッドルームひとりぼっち』
2014年10月号掲載
syrup16g、6年ぶりの新作『Hurt』は感動的な復帰作などではなく、"生"という痛みと混乱に満ちた果てなき受難の前でひとり震える男のドキュメントだった。冒頭、「Share the light」が始まった瞬間に聴こえてくるギターの歪なゆがみ。その切迫感に追い立てられるように、アルバム通して鳴り響く甘美でサイケデリックな"メロディ"という名のドラッグに身を浸しながら、男はただただ、目の前に広がる"人生"という名の殺伐とした光景の前で震えている。"音楽を鳴らすこと"が"生きること"と直結してしまったが故の苦悩。生きていることを忘れるためには音を鳴らすしかない。しかし、音を鳴らしてしまえば生きるしかない――1年前に"生還"を掲げながら、しかし"生きているよりマシさ"と歌わずにはいられない、このパラドックス。MTVポップとグランジとシューゲイザーを親に持ちながら、割り切って高笑いを浮かべることも、虚無に身を任せて叫ぶことも、白昼夢の中に逃げ込むこともできずにいた"オルタナティヴの孤児(みなしご)"としてのリアル。最後の「旅立ちの歌」で歌われるのは祝福に満ちた門出ではなく、震え、もつれる足をなんとか1歩前に踏み出した、その瞬間の苦し紛れの笑みだった。"心なんて一生不安さ"――かつての自らの言葉を証明するかのように、男は不安の中で生き続けることを引き受けた。
きのこ帝国の「東京」。ここにもまた、繰り返される日々の中で、不安と共に生きる女がいる。まるで何気ない日常、あるいは、そう簡単に止まることなく打ち続けられる心音のように淡々と続くビート。しかし、その上を走るギターの音色に宿った揺らぎ。"日々あなたの帰りを待つ/ただそれだけでいいと思えた"。"まだあなたの心のなか/他の誰かがいるのだとしても/星のない、この空の下では/気づかないふりして隣にいたい"――愛する人の目に映る景色の中に自分を見つけることができず、しかし、想うことしかできない哀しみ。愛してしまったが故の孤独。自らを騙しながら生き続ける空虚さ。いっそ全てを諦め、投げ捨ててしまえればどれだけ楽だろうか。続く日々を終わらせることができれば......しかし日々、夜は明け朝がきて、"窓から光が差し込む"。触れる肌は温かく、あなたに出会えた東京という街を、呪うよりも許さずにいられない。この「東京」という曲の中で女の見る景色は、"あなた"への想いと共に引き裂かれながら、しかし幸か不幸か、何度でも女の前に捨て去ることのできない残酷な美しさを蘇らせる。
安定とは誰がくれるのだろう。安心とは誰がくれるのだろう。親? 教師? 企業? 政治家?......彼らは本当に、安定や安心なんて持っているのだろうか? 私には到底、そうは思えない。そんな幻想にすがるくらいなら私は、この素晴らしい音楽と共に、不安の中に身を浸していたいと思う。
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