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INTERVIEW

Japanese

ドレスコーズ

2022年10月号掲載

ドレスコーズ

Interviewer:石角 友香

-夏って若干、意識が遠のく感覚や雰囲気もあって。今回、これまで聴いたことがない音像の楽曲があって、そこにより音楽的な意味があると思うんですけど、鳴っている音のイメージはひとつひとつ物語が完成したうえで奏でたんですか?

僕はいつも曲から作り始めますので、今回も曲からですね。で、それぞれの曲のイメージをあとから言語化していくっていう感じです。さっきめまい、意識が遠のくようなっておっしゃっていただいたのは、今回何が一番新しいかというと、シンセサイザーをふんだんに使ってまして。

-たしかにドリーム・ポップ的な。

そう。僕、こないだまでシンセが嫌いだったんですよ。で、ここからは得意のこじつけですけど(笑)、シンセサイザーって楽器はあくまで"生楽器の代用品"っていうふうに思ってたんです。例えば生演奏が予算的に使えないときにしょうがなく使うもの、っていうような印象がずっとあった。で、僕は50〜60年代の音楽、まだシンセサイザーが主流じゃなかった頃の音楽が好きだし、幸運にもメジャー・レーベルと契約して予算はふんだんにありますもので(笑)、今まではシンセサイザーの必要性をまったく感じていなかったんです。でもなぜか今回、どうしてもシンセサイザーが使いたくなって。初めてシンセサイザーをいじり始めたら、おかげで曲がどんどんできたんですけど、それってすごく象徴的やなって、今喋ってて思いました。シンセって現実にはない音を出す機材なわけです。つまりこれも"架空"なんですよ。さっき言ったような"あったはずの夏"だとか、"地下から思いをはせる地上"だとか、そういう音楽にピッタリの音色って感じ。だからシンセサイザーにやけにこだわったのかなというふうにこじつけます。

-面白い。シンセサイザーの音を自分の曲に使うことに対して抵抗があったと。でも志磨さんはシンセサイザーを持っていらっしゃるわけですね。

電子鍵盤をパソコンに繋げればどんな音でも出ます。今回は今までクリックしたことのないところをいっぱいクリックしましたね(笑)。パソコンの中の使ったことのない音色をああでもないこうでもないと試して、あーこれこれ! とかやりながら。

-なるほど。シンセサイザーがこのムードの正体だったんですね。個人的には1曲目の「ナイトクロールライダー」のイントロのスピード感に、Bruce Springsteenを感じたりして。「Born To Run」ですかね。

あぁ、それはね、たぶんスネアのリバーブとベースの弾き方だと思うんですよ。

-リバービーな音像はTHE JESUS AND MARY CHAINとか。

ギターはそうですね。ちなみに正解は、ウォン・カーウァイの"恋する惑星"って映画の主題歌(THE CRANBERRIES「Dreams」)のパロディです。

-なるほど。「聖者」にはすごくTHE SMITHSのJohnny Marr(Gt)的なイズムを感じて。

そうですね。今回ギターを弾いてくれてる田代祐也君は去年知り合ったんですが、非常に良いギタリストでして。彼のコード・ワークとかソロの特性に、「聖者」もそうですし、今回のアルバムはすごく助けてもらいましたね。

-そうやって田代さんの存在や、ミュージシャンの個性がうまく楽曲に合致してできたムードでもあると。

この曲に合わせて田代君がぴったりなギターを弾いてくれたのか、田代君のギターに合わせてこの曲ができたのか、どっちが先かはわからないですけど、どちらにせよぴったりな。

-ちなみに「聖者」のMVにもTHE SMITHSの「There Is A Light」に近しいものを感じて。若くてかっこいい俳優さんが演じていて素敵ですね。

ビデオは小池 茅さんという映像作家さんが監督してくださって、彼もまた田代君と同世代なんですけど。大阪に住まわれている方なのでずっとZoomでやりとりして、撮影日に初めてお会いできました。で、いわゆるリップ・シンク(※曲に合わせて口パクをする)みたいなミュージック・ビデオじゃなくて、僕がいなくても成立する短編映画みたいなものをぜひお願いしたいんですとお伝えして。なのであのビデオの素晴らしさは小池さんのものです。初めにコンテを見せていただいたときは僕本人も"こんなストーリーなんだ!"と驚きまして。ものすごくコントラストが強くなったというか、眩しい夏の日差しのような部分が強まったぶんだけ、影もさらに濃くなったような。

-あのビデオにおける志磨さんの役割はまたしても神様なのかなんなのか(笑)。

近頃そういう役が続いてますね(笑)。あんまり縁起の良くない神様の役。

-リスナー的には、このアルバムの方向性を「聖者」のミュージック・ビデオでなんとなく予想していて、大きくは外れてなかったような気持ちです。

そうですね。僕本人が主人公ではなく、架空の少年少女が登場するストーリーというんですかね。多分に空想的なアルバムです。つまり去年の『バイエル』のようなドキュメントとしての音楽とはまた違った、"昔々あるところに"っていうようなものが今回のアルバムは多いです。

-ラストの「横顔」が非常に美しいメロディで、アレンジは単にきれいなだけじゃなくて結構ギリギリの線を行ってると思うんです。若干ノイジーですし。この曲が最後なのはいいなぁと思いまして。というのもまた始まる感じがするので。

面白い。たしかに、作った順番で言うと「横顔」が一番最初にできた曲なんです。アレンジもいろんなパターンを試して、最終的にピアノとギターだけになり。田代君のギターもちょっとバッハ的というか、クラシカルなアプローチですよね。全部の曲が出揃って、並べ方を考えたときに、アルバムを通して夏の盛りからだんだん秋に差し掛かるように聴こえると面白いかなぁと思って。それでこの曲がラストになりました。

-秋というと寂しくなりそうですけど、個人的な勝手な解釈では、この曲はむしろまだ恋が始まってすらいないのでは? と。

なるほどね。うんうん。そうかもしれない。

-他の曲ではやけくそなぐらい"死ぬぐらい生きてやろう"みたいな印象があるんですけど、「横顔」は主人公が自分の気持ちに気づいたばかりみたいに聴こえたんです。

たしかにこれは恋に落ちたところなんですね。「CHE.R.RY」(YUI)ですね。シチュエーションだけで言えば「CHE.R.RY」と同じなのに、こんな暗い曲にもなるんですね(笑)。

-いや、ひとつの感想ですけど(笑)。志磨さんはいろんなコンセプトのアルバムを作ってこられて、ストーリーテリングの手法も変化もしてきていると思うんですよ。

いやー、そんなね、昔に比べて成長したとか、そういうことはないと思うんですけどね。たぶん僕は昔からそういうストーリーテリング的な曲が多いほうで。「Mary Lou」(毛皮のマリーズの2010年リリースのシングル表題曲)とかね、そういう架空の登場人物がいる曲ばっかり作ってしまうから、一時はそれを作らないように気をつけたぐらいですね。

-あぁ、物語的すぎる人称とか?

そうそう。やっぱり"これは作詞者自身の経験だろうな"というふうに聴こえるほうが強烈じゃないですか。僕は気を抜くとすぐ人称が"ジョニー"とかになるんで(笑)、レコード会社から注意されたこともあるぐらい。でもこのアルバムの構想を練っている段階ですでに"今度のアルバムは物語的なものに立ち返るんだろうな"っていう気がしていて。途中、"物語"とはなんぞや? というところに気がいってナラトロジーの本とかを集めだしたんですけど、肝心なのはそこじゃないことに気づいて(笑)。それこそまたコンセプチュアルになりがちなので。"むむむむ"と腕を組んで考えるよりも、そんなことも振り切るぐらいのスピードっていうか、そういうものを作る必要があるなぁと感じたので。

-設定じゃなくて、音楽になるとこういう歌詞に自ずとなるぐらいの?

そうですね。うんうん。やっぱり速度で言うとラヴ・ソングの速度が一番速いですから。8ビートのラヴ・ソングがたぶんこの世で一番速い。

-今回は"すごい速さ"が必要だったんですね。

それこそ「聖者」のミュージック・ビデオを作る一番最初の打ち合わせで、監督には"バイクでもチャリンコでも徒歩でも、どんな手段でもいいので、男の子と女の子がどこかに向かって駆け抜けていく映像をお願いします"とお伝えして。やっぱり速さは必要でしたね。