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INTERVIEW

Japanese

ピロカルピン

2019年09月号掲載

ピロカルピン

Member:松木 智恵子(Vo/Gt) 岡田 慎二郎(Gt) サカモトノボル(Support Ba) 池田 英昭(Support Dr)

Interviewer:石角 友香

90年代のUKロックやその影響下にある日本のギター・ロックの生のアンサンブルと、まっすぐに遠くへ届く女性ヴォーカルという組み合わせで、他にない存在感を示すバンド、ピロカルピン。彼らが9枚目のアルバム『その幕が上がる時』を完成させた。すでに先行配信されている「人生計画」は漫画家、東村アキコ主宰の東村プロダクションのポッドキャスト番組への書き下ろしという話題性もあり、アルバム収録曲のベクトルは多彩だ。今回は松木智恵子、岡田慎二郎に加え、今やサポート以上の貢献をしているというサカモトノボル、池田英昭にもインタビューに参加してもらい、新作およびバンドの現在について訊いた。

-アルバムのお話をする前に、「人生計画」が東村プロダクションのポッドキャストのテーマ曲だというのが意外で。どういう経緯だったんですか?

岡田:僕の知り合いが東村(アキコ)先生の事務所と関わりがあって、番組のテーマ曲を募集してるという話を聞いたんです。それで「3分間」が使われることになって。「3分間」は既存曲だったので、"せっかくだから新曲を作って、何か一緒にやりませんか?"という話をして、新曲採用と、映像を東村先生がプロデュースして作っていただくことになりました。その流れでジャケットも描いていただきました。それに、松木自身がもともと東村先生のファンなんです。

松木:東村先生の作品に出会ったのは、マンガ大賞を獲った"かくかくしかじか"を読んだときだったんですけど、漫画から伝わってくるエネルギーみたいなものに、いつも元気を貰ってます。

-お題があるところで松木さんはどういうふうに作られたんですか?

松木:先生からのリクエストは、"夜の番組なので夜っぽくしてほしい"ってことだけだったんです。普段からポッドキャストを聴かせてもらっていて、すごく面白いなと思っていたので、番組に出てる芸人さんとか、先生から伝わってくる漫画のイメージも、ちょっと投影させて書きました。

-ではアルバムのお話を。前作の『ノームの世界』(2017年リリースの8thアルバム)はタイトルが示唆しているようなテーマがありましたが、新作で松木さんが書きたいことはどんなことだったんですか?

松木:『ノームの世界』は結果的に、アルバム全体としてひとつの世界ができあがったことで、すごく上手くいったんですけど、今回はコンセプトを設けずに、今聴いてもらいたい曲を選んでいったので、一曲一曲に世界があるんです。歌詞の書き方は、曲を聴いて、その曲のイメージを言葉にするという点では、今までと何も変わっていないんですけど、私自身感じてることは多少なりとも反映されてると思うので、そういった意味で今が出たというのはあるのかもしれないです。どうしたら響くのか、どうしたら伝わるのか、そういうことは今回あまり考えてないですね。ただ自分の書きたいものを書きました。自分のためのものっていうか。

-アルバムのタイトル・チューン「その幕が上がる時」が1曲目ですが、"ここから戦っていかなければ"みたいな印象をすごく受けたんです。

松木:私、劇団四季が好きで、劇団四季のミュージカルを観た直後に書いたので、そのミュージカルに出る人をイメージしたんです。

-演者の覚悟を間接的に感じたのかもしれません。

岡田:覚悟という意味では、今回はこれまでの作品と制作環境がすごく変わっていて、その影響も多少あるのではないかと思います。2作前の『a new philosophy』(2015年リリースの7thアルバム)から自主レーベルを立ち上げてやっているんですけど、前作まではメジャー時代から変わらず、BUMP OF CHICKENなども担当している、エンジニアの牧野英司さんと共同プロデュースでやっていました。今回は完全セルフ・プロデュースでやらせてもらっているので、そこが結構大きく変わっているんですね。

-新たなチャレンジですね。

岡田:セルフ・プロデュースの中でも、ドラムとかベースはスタジオで録っているんですが、その他のギターやヴォーカル録り、ミックスも僕がやっていまして、そこもかなり大きな変化です。なぜそのようにしたかという理由はいくつかあるんですが、僕らみたいなギター・バンドを取り巻く状況は厳しい状態にあると思うんです。そんななか、これまでは、作品のレベルを下げないということを強く意識していて、それを割ってしまうリスクがすごく怖かったので、資金面や準備も入念にやっていたんですけど、その結果、リリースが2年おきぐらいになってしまい、それはちょっと今の時代のスピード感に合わないなと思ったんですね。それでスピード感を出して、作りたいときにすぐ作れるような環境にしていかなきゃいけないと思い、セルフ・プロデュースの強化を始めたんです。

-ギター・バンドだからっていう苦労はきっとありそうですね。これがパソコン上で完結する音楽ならひとりでできたりしますけど。

岡田:ベースもそうですが、特にドラムがロック・バンドにおいては重要なんです。今は打ち込みでもリアルなドラムは出せるんですけど、やっぱり違うんですね。リハとかで4人で作り上げた空気感というのは封入できない。

-岡田さんのルーツっておそらく90年代のUKの音楽なんだろうなと想像するので、その音像は譲れないところなのかなと思います。

岡田:そうですね。僕のフェイバリットのギタリストがSUEDEのBernard Butlerで、さらに遡るとYESのSteve Howeとかなので、まさにイメージ通りです。そこはみんな共通していて、松木さんもそうだし、ノボル君もそうだよね?

サカモト:90年代のUKが好きで、実際UKにも住んでいたんです。なので、音楽的嗜好は似てますね。

岡田:ノボル君はもう4年ぐらいやってもらっているので、正式メンバー以上に、言わなくても伝わる、そういう感じでやってもらってますね。