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LIVE REPORT

Japanese

ピロカルピン

Skream! マガジン 2013年09月号掲載

2013.07.20 @LIQUIDROOM ebisu

Writer 沖 さやこ

昨年メジャー・デビューを果たし、今年6月にキャリア初のフル・アルバム『太陽と月のオアシス』をリリースしたピロカルピン。同作を引っ提げて全国9箇所を回ったツアーのファイナルが、LIQUIDROOM ebisuにて開催された。バンドの夢のひとつであるLIQUIDROOMでのワンマン・ライヴ。それはツアーの充実を物語る非常に堂々としたステージだった。

この日のライヴは『太陽と月のオアシス』の1曲目「エチュード」で幕を開けた。松木智恵子(Vo/Gt)の芯のある透き通る歌声が、会場をたちまちピロカルピンのファンタジックな世界に染める。彼女の後ろから放射されたライトはくるくると回り、視覚の面から更にヴォーカルを引き立てる。“こんばんは、ピロカルピンです!”と松木が挨拶をすると「時の抜け殻」。軽やかなリフと引き締まった演奏を聴かす。荒内塁(Dr)の刻むリズムに合わせて煌くライティングもとても美しい。「パルプフィクション」ではフロアからクラップが。エフェクトの効いた岡田慎二郎(Gt)のリフが幻想的な空間を作り出す。メロディアスな低音を奏でるスズキヒサシ(Ba)のコーラスは、松木のヴォーカルを支えるように繊細に響く。「暗夜航路」のちょっぴり切ないメロディは夏の夜にぴったり。どんどん4人の作る物語の奥へと誘われてゆく。

“ファイナルなんで細かいことは考えずに楽しんでいこうと思います”と松木が言い「夢はあけぼの」。彼女の声もそうだが、このバンドの音はひとつひとつに屈強な芯がある。しっかり地に足がついた音色は心地よさや安心感を与えるだけではなく、描き出す景色を鮮明に見せてくれるのだ。揺らめくふくよかな音像が印象的な「未知への情景」。フロアも彼女たちの音にしっかり向き合うように聴き入る。松木の高音が映える美しいメロディが心をくすぐる「ハレルヤハレルヤ」はそのあたたかさに自然と笑みが零れ、「ロックスターと魔法のランプ」はカラフルな照明が更にムードを盛り上げる。スズキと荒内のコーラスも非常に効果的だ。“ここからはアルバムのより深い世界に連れて行こうと思います”と「さよならキャラバン」「ジャスミン」「獏にくれてやった夢」。アルバムの世界をひとつひとつ丁寧に音にする4人。海の中にいるような浮遊感の音色にフロアもゆらゆらと身を任せる。リズム隊が紡いだイントロから「タイムパラドックス」。サビへの駆け上がり方がドラマティックな楽曲だ。ピロカルピンというバンドは、静かながらにしっかりと燃えるハートをメンバー全員が持っている。それは瞬発的に輝くがむしゃらなものではなく、常に燃え盛っているようなものであるような気がしてならない。それでなければここまで繊細なのに強い音を鳴らせる理由が見当たらないのだ。

「アルケミスト」演奏後、『太陽と月のオアシス』について語り始める松木。“ピロカルピンの(メジャー・デビューしてからの)1年の集大成。全てが詰まっていると言っても過言ではない”“これからも精一杯続けていけたらいいなと思っていますのでよろしくお願いします”と真摯に語ると、フロアからはあたたかい拍手が起こった。情熱的なナンバー「火の鳥」「虹の彼方」「シャルル・ゴッホの星降る夜」「青い月」と畳み掛け、観客もジャンプ、ダンス、クラップで応戦。素直に感情のまま体を動かす。「老人と海」「輝いて世界」と、過去曲を挟みながらアルバムの曲順通りに進んだ本編ではスケール・アップした『太陽と月のオアシス』の世界を体感することが出来た。

バンドはアンコールで「モノクロ」「京都」「存在証明」を演奏。だがそれが終わり客電がついてもなおフロアは力強い拍手でアンコールを求め続ける。急遽ダブル・アンコールとして「人間進化論」が披露された。心に熱い思いを持つバンドには、同じように燃える心を持つファンがつくのだと非常に嬉しくなるツアーの大団円だった。

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