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INTERVIEW

Japanese

ドレスコーズ

 

ドレスコーズ

Interviewer:TAISHI IWAMI

アヴァンギャルドなものを作った感覚はまったくない。きれいなメロディと演奏を、ただ楽しんでもらいたい


-ではこの流れで、いくつかの曲について聞かせてください。まずは志磨さんと言えば、元ネタをわかりやすくちらつかせるサンプリング的なユーモアも特徴です。そこで引っ掛かったのが「チルってる」。2トーンのイメージもありつつ、"gimme some, gimmie some"という歌詞もあいまって、D.D. SOUNDの「1.2.3.4.Gimme Some More」が思い浮かんだんですけど、どうですか?

そう思ったのもわかります。でもこの曲の元ネタはFINE YOUNG CANNIBALSですね。

-「ニューエラ」はクラシカルで壮大なサウンドスケープと、悲し気ながらも熱のあるメロディ、ロック・バンド的なサウンドのマッチングが印象的でした。特に後半の展開が凄まじい。

これは僕の中では完全にSIGUR RÓSです。で、この曲でチューバを吹いてくれてるGideon Juckesさんに、"SIGUR RÓSみたいにやりたい"って説明したら、"私は以前、SIGUR RÓSのツアーで吹いてました"って。"わっ、本物来てもうた"ってビックリしました(笑)。

-私が最もグッときたのは「クレイドル・ソング」。"人類最後の音楽"という今回のテーマがあって、その終盤にくる志磨さん節と言える切ないメロディと、先ほどもおっしゃっていたヴォーカルを重ねて録ったことによる声の浸透度と言ったらもう、泣けました。

わっ、嬉しい。これはベルセバ(BELLE AND SEBASTIAN)。

-元ネタを風呂敷広げて見せる大会になってますが(笑)。

いくらでも言いますよ(笑)。これは文字通り、子守歌みたいなイメージで。

-「もろびとほろびて」は近年トラップが爆発的に流行って以降のテイスト。しかもジャパニーズのそれ寄りなんですよね。

ジプシー音楽をあまりに忠実にやってしまうと、それは僕のやるべきことではないような気がしたので、なるべく現代的なテクスチャーみたいなものを入れてはいるんですが、その程度だとやっぱりわかりにくい。だから1曲がっつりラップを入れてやろうと。しかも日本的なノリで。

-"わかりやすく今っぽい"となると「わらの犬」もそうなんじゃないかと。ヒップホップ/R&B的なリズムのループを生音で。その音の抜き差しがすごく面白かったです。序盤はドラムレス、キックとハットとリムでの同じリズム・パターンのループ、スネアが入って強く叩くところで音が後ろにいく。

このアレンジは加藤さんのアイディアですね。MASSIVE ATTACKみたいにドラムが歪んで遠くなったら面白いんじゃないかって。最初はR&Bっぽいノリのバラードで、メロディは日本的な哀愁がある感じにしようと思ったんです。でも、"せっかく欣ちゃん(茂木欣一)がいるし、レゲエっぽいパターンにしてみよう"と加藤さんが言ってくれて。茂木さんが叩き始めた瞬間、"わ! フィッシュマンズ!"って感動しました。

-遠くで鳴っているものや静かな音の方がよく聴こえることってあるじゃないですか。その妙によって生まれるグルーヴがすごく良かったです。

バーンって叩いてるけど遠いからそんなに上がらない。けどしっかりグルーヴしてる。その温度感は絶妙だと思います。

-これだけ作品中でいろんな音を重ねたら、どこを落としどころにするのか、正解が見えなくなる途方もない作業にはなったことはありませんでしたか?

梅津さんにブラスのアレンジはお任せして、僕の作ったデモをもとに、あとは最終的に僕とエンジニアの奥田泰次さん、マニュピュレーター的な立ち位置で中村佳穂さんとも一緒にやってる荒木正比呂さんの3人でミックスに入って、差し引きしていきました。とにかくいい音で贅沢に丁寧に録音した演奏を、ミックスに入ってからは"素材"と割り切ってばんばんエディットしていこうって。だから、例えば「人間とジャズ」はスタインウェイのめちゃくちゃいいピアノの音がもうズタズタになってます。ほぼノイズみたいな(笑)。

-結果、新感覚、異次元なんですけど、すごくポップなアルバムになっていると思いました。そこが志磨さんらしいなと。かなり幅広い層の人たちがなんとなくイメージできるであろうレトロな時代性を切り取ったことも、お見事と腑に落ちます。田舎の爺ちゃん婆ちゃんにもキッズにも勧められますから。

きれいなブラスが鳴っていて、お爺ちゃんお婆ちゃんも"いいな、懐かしいな"って感じるかもしれませんね。でも実は今のBillie Eilishくらい低音もめちゃくちゃ出てる。いろいろありますけど、まずは普通に聴いて、きれいなメロディと演奏をただ楽しんでもらえたら十分です。すごくアヴァンギャルドなものを作ったつもりはまったくないので。で、そこに、掘ろうと思えばいくらでも掘れる深さをご用意しています。

-アーティストがやりたいことをやりたいようにやることと、商業的な成功を対峙させる見方もあるじゃないですか。志磨さんは、そのことについてはどう考えているんですか?

最善のプレゼンテーションをやってるつもりです。自分の商品価値はどこにあってどう動いてどう見せるかを考えて実行する。なんとなくですけど、それが今の僕のやり方なのかなって。細かく説明すると興醒めだろうから言わないですけど。質問の内容で言うところの商業的に成功しそうな"わかりやすいもの"を、"ここらで一発売れてやるぞ"って僕なりに作ったとしても、あまりいい結果は生まれない。ラーメン屋さんが変に値段を下げるより1000円くらい取った方が人気店になる、みたいな......あれ? 例えが間違っているような(笑)。

-私はその"わかりやすいもの"って、場合によっては受け手の感性を閉ざしてしまうと言いますか、そもそも受け手の感性を信用してないんじゃないかと思うんです。

たしかにそうかも。

-"こうやった方が伝わりやすい"というベクトルは大切。でも方向性を間違えれば、どんどん過去の商業的実績に基づいたテンプレートにハマっていく。そういう意味で志磨さんは受け手のことを信じている。多くの人に伝わる音楽の可能性は無数にあるわけで。

なるほど。そもそも僕自身がスノッブな音楽よりもポップな音楽が好きなんです。だから僕がわかるものはだいたいの人がわかると思ってるんですよね。Kusturicaの映画もライヴもそうで、彼らの国の文化についてはまったくわからなくても、とりあえずガチャガチャ演奏しているその音と姿が、自分にとってもすごくわかるものだった。だから僕もそういう音楽をやってるつもりです。

-でもミュージシャン、志磨遼平に対する不安もひとつあって。

ほう。なんですか?

-毛皮のマリーズ時代まで遡ると、まず志磨さんにはプリミティヴなロックンロール・アイコンとしてのイメージがあった。そこから音楽性の幅をどんどん広げて、最終的に『ティン・パン・アレイ』の中で僕と君と世界の愛を歌い、同じ年にアルバム『THE END』をリリースして解散した。そしてドレスコーズを結成して装い新たに且つ再びプリミティヴなロックンロールに回帰し、アルバム『1』(2014年リリース)でドレスコーズは志磨さんひとりになり、だからこその自由な音楽性を求め、ここに人類の終わりを想像するアルバムを作った。今はおひとりですから辞めるも何もないような気もしつつ......。

なるほど。そういうことは自分ではわからないですからね。面白い。

-当時を振り返って、『ティン・パン・アレイ』の段階で毛皮のマリーズを終わらせるつもりはあったのでしょうか。

なんとなくプランはありましたよ。ここでこういうものを作って、次にああいうものを作ったら解散って。じゃあ今はどうなのか。勝手に思ってたのは、特に狙ったわけではないんですけど、『平凡』と『ドレスコーズの≪三文オペラ≫』と今回の『ジャズ』は、David Bowieのベルリン3部作とか、加藤和彦さんのヨーロッパ3部作みたいな位置づけになるんじゃないかと。

-ドレスコーズは当初4人組で、今は"志磨さんひとりのバンド"という印象があります。そこからどうなっていくのか。

バンドって、メンバー同士の出会いやストーリーに浪漫があったじゃないですか。THE SMITHSのMorrissey(Vo)とJohnny Marr(Gt)とか。最近映画で再び脚光を浴びているQUEENもそう。いかに物語として素晴らしいか。でも今は僕も含めたみんなが、そういうドラマチックな浪漫よりも、もうちょっとプライベートな、DTMじゃないですけど、ベッドルームで完結する大きなテーマの話などに興味が湧いてる。

-はい。それは感じます。

バンドと言ってもひとつの社会ですから、クラスであいつとあいつが喧嘩したとか、付き合ったとか別れたとか、会社で上司がムカつくとかと同じ種類のドラマやハプニングはつきもので、そこに浪漫があったと。でも今は、そこから帰ってきて部屋でひとり、パソコンやスマホからものすごく広い世界を眺めることの方が、リアリティがある。それは時代のムードでしょうね。それに対しては不満も共感もありません。昔は良かったのに、とか。自分は今ひとりになって、ひとりのムードに馴染んできただけのことで。ひとりでいたいけど、誰かとも繋がっていたい。ひとりだけど、夜中にTwitterを開けばみんな起きてる。それが今のドレスコーズなんじゃないかと。ドレスコーズはひとりだけど、後ろにはたくさんの人たちがいてくれる今の状態が楽しいしリアルなんです。昔は"僕たち4人、死ぬときは一緒だ!"みたいな、この4人で上り詰めてやるってやり方でしたけど、今はもっと大規模な人数とすごい経験をシェアしたい。自己分析するとそんな感じですね。