Japanese
ドレスコーズ
Interviewer:TAISHI IWAMI
-その核心について、もう少し突っ込んで聞かせてもらえますか?
娯楽のために生まれたものとしての純度が高いもの。僕が何かを作るときはそういうものを目指してます。まず純粋に"いいメロディ"とか"いい曲"ってことがすごく大事。そのなかで音楽的な時代性であるとかひとつのコンセプトを読み解く楽しさとか、そういうレイヤーを幾重にも重ねるのが好きで、今回はどの角度から見ても面白いものができたと思っています。
-『ジャズ』はまさにおっしゃったことを獲得した作品だと思います。大雑把に言うと、今回目を向けたジプシー音楽は、自分たちがいる場所から半径何メートルの範囲で、その瞬間や日々の生活を良くしていくことを目的とした音楽ですよね。
はい、そうですね。
-現在志磨さんのいるポップ・ミュージックのフィールドは、音源を出した瞬間、世界中まで届く可能性が前提にあります。そのベクトルにおいて、ジプシーや民族音楽はテイストとして採り入れるものであることが一般的。しかし、今作とジプシー音楽の距離感は、それらとは異なることも重要なポイントになっていると思ったんですけど、いかがですか?
たしかに。ジャズやロックンロール、ポップ・ミュージックが隆盛し細分化して今に至る。そしてその先に目を向けて想像を膨らませたときに思ったのが、"人類は上がってんの? 下がってんの? みんなはっきり言っとけ"ってことなんですよ。
-話の流れから推測するに下がっていると。
それはデータでもそうですし実感としてもそう。東京オリンピックだって2回目なわけでしょ。1964年のときは"やったれ! 昔ながらの江戸の風情なんか知らん!"くらいの勢いで、新しい建物をガンガンぶっ建てて、新幹線も通して。でも今回は、あのころの熱狂を期待して"もう一発当てようぜ"とか言いながら、高度経済成長のようなことはもう起こせないんじゃないかって、1回は世界2位の経済大国にまで上り詰めたけど、もう無理なんじゃないかってみんなが思ってる。
-たしかに。
その幻影ってある意味宗教なんじゃないかと。成長主義という名の。"去年より業績が悪くなるのは絶対にダメ"と僕らは思い込んでますけど、普通に考えて無理がありますよね。永遠に右肩上がりなんてありえない。僕自身に当てはめてもそうですよ。20代の"やったれ!"ってモードから37歳になって、"あれ、なんか肩が痛いぞ......"ってなだらかに下降していってるんです。でも、こんな至極当然の話に人類はまったく聞く耳を持たず、"上がるから、頑張れば上がるから"って言ってる。まぁ、そういうところも好きなんですけど。実際に、未来をシミュレーションして"下ってます"と言ってる偉い先生方の本なんかを読むと、なんならもうそんなに先は長くはないと。そこで、もし僕らが人類の歴史の末端だとしたら、僕らの前に何代もいたご先祖さんたちに"申し訳ない! 僕らで終わるかも"となったら、と考えたときに、人類最後の音楽をやってみたいと思ったんです。
-その時点では、どんなイメージが湧いていたのですか?
なんとなく、我々が長きにわたって伝えてきたすべての音楽のミックスなんじゃないかと。みんながどこかで記憶しているメロディとか、覚えている音の感触とか。そこで、僕の頭の中には、そういうものの中心としてぼんやりとジプシー音楽が浮かんできました。そこに全部おしまいの風景を歌った歌詞を乗せる。そしていつかこの作品を未来の新人類みたいな知的生命体が発見して、"これは旧人類の貴重な証言である"とか言いながら聴くようなイメージですね。
-"すべての音楽のミックス"となると、そこに現代的な要素も含まれます。『ドレスコーズの≪三文オペラ≫』(2018年リリース)の前のアルバム『平凡』(2017年リリース)までは、現行のポップ・シーンと競う部分もありましたよね?
はい。同時代性みたいなのはどこかに。
-今作もその同時代性は意識しましたか?
実は今作にもあるんですよ。それは音の立体感や感触に表れています。例えばヴォーカルの録り方は、R&Bの人たちがやるようなトラックを何重にも重ねる手法だったり。サブ・ベースなんかも入れたり。
-声の重なりは本作のメロディや言葉を際立たせるうえで、とても大切な役割を担っていると感じましたし、かなり低音が効いていますし、納得です。ではジプシー音楽が中心にあったことについて。ジプシーがひとつの場所に定住しない移動型の民族であることと、人類の終わりが繋がった部分があったのでしょうか。
ありありです。もう国とかもなくなっていくっていう。ここまできたら1時間そこらのインタビューじゃ話しきれないです(笑)。
-(笑)ジプシー音楽を切り取るに至った直近のインプットとなると、まず経験として、前作『ドレスコーズの≪三文オペラ≫』が大きいのではないかと。"三文オペラ"はドイツの作曲家、Kurt Weillの代表作で1928年が初演。それを2018年に日本で上演するにあたって志磨さんがアレンジされたものを、後にパッケージにしたアルバムでしたね。
作品を作るにあたって、多くのアーティストは"何を歌いたいのか、何をするべきなのか"を自ら探すと思うんです。僕も例外ではありません。それに対して『ドレスコーズの≪三文オペラ』は、外からお題をいただいて作った初めての作品でした。舞台音楽の古典で、もう曲はそこにある。ドイツ語の歌詞を超訳して、アレンジも自由に、"三文オペラ"を現代版にリメイクしてくれって。バンドをやっていて人の役に立つことってなかなかないじゃないですか。
-志磨さんの音楽に感動した、救われたといった感想は役に立ったこととはまた別なんですか?
それは嬉しいことですけど、結果的な話。実務的に"これを頼まれてくれ"って言われて、やっと僕も人の役に立てるんだと思って一生懸命研究しました。"三文オペラ"の楽曲は当時最も新しい音楽だったジャズやタンゴの影響が強くて、いわゆる"オペラ"ではない。上流階級の嗜みだったオペラを騙って"これは三文で観れる貧乏人のためのオペラでございますよ"と皮肉ってるんですよ。言ってしまえば能とか歌舞伎にEDMをぶち込むみたいな。とにかく曲の作りがチャラい。
-それも"壊す"という意味ではパンクに近い。
そうなんです。ここにもまた自分が好きなパンクの源流を感じたんです。だから3連符のピアノの曲をトラップにアレンジしたり、好き放題やりましたね。Kurt Weillの遺志を継いで。そういう解釈は今作の『ジャズ』にも生きているかと。
-そしてもうひとつ直接的に音楽性と結びついたインプットとして、ジプシー音楽の継承者であるEmir Kusturicaのライヴを観たことは大きかったとthe dresscodes magazineで読みました。
ご購読ありがとうございます。まさにKusturicaのライヴを一昨年に観て、こういうことを自分もやってみたいなって。でも"三文オペラ"があるからひとまず後回しにしていたんです。そしたら、最近面白いことを聞いて。どうやらKurt Weillの音楽とジプシーの音楽って繋がっているらしいんですよ。
-それもthe dresscodes magazineの同じ記事ですね。志磨さんとジプシー音楽研究の第一人者である関口義人さんとの対談。
Kusturicaがやってる音楽はジプシーやバルカン地方の音楽。そしてKurt Weillはユダヤ人。実はジプシーの人たちとユダヤの人たちは、その昔ルーマニアのある場所で交流があって、互いに音楽的な影響も受けていた説が出てきたんです。たしかに、実際に演奏していて似ている部分があって。
-すごく面白い記事でした。
僕はそういうヨーロッパに古くから流れる旋律に惹かれたんだなと。バルカン音楽はジプシーの人たちがその地に流れ着いて独自に発展していった音楽。それは"世界最速の音楽"と呼ばれているらしいんです。"え? 世界最速ってNAPALM DEATHじゃないの?"って。
-今瞬時に同じことを思いました(笑)。
実際に聴いてみると、マジで速い裏打ちで。これってスカとパンクが混ざった2トーンに近いんじゃないかと。で、そのスカの2ビートの上に、スカではなくジプシー・ブラスを乗せれば、新しい音楽が生まれるのでは? と思って。そこでお声掛けしたのが、東京スカラパラダイスオーケストラからドラムの茂木欣一さんとギターの加藤隆志さん、そしてずっとジプシー・ブラスをやられている梅津和時さん。それが今作の取っ掛かりでした。
-その取っ掛かりとなった曲は――
「プロメテウスのばか」が最もイメージに近いですね。
-"チキチッ!"というスカの口拍子が少しだけ入っているのがニクい。
ジプシーの人は絶対言わないですよね(笑)。でもジプシー音楽に使われる楽器がいっぱい入ってて。
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