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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2017年10月号掲載

挫・人間

Member:下川 リヲ(Vo/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

信じてついてきてくれる人がこんなにいるんだから、俺もちゃんといい音楽で返したい


-下川さんはラヴ・ソングを多く書き続けていますが、いままでよりもラヴ・ソング然としています。だいぶ素直に綴られているものが多いと思いました。

それも伝えるための言葉を選んだ結果なので、自分なりの成長ですね(笑)。ひねくれている人間にとって、変なことを言ったり過激なことをやったりすることは簡単というか。僕みたいなアングラの人間は、若いときは特にメイン・カルチャーのことをバカにする節があったんです。アンダーグラウンドなことをやればアンダーグラウンドな人は喜んでくれるという安心感はあるんですけど、それは心が閉じているだけで勇気でもなんでもない、そういう音楽はやる必要がないな、と気づいてからは、オープン・マインドです。

-そのオープン・マインド精神から曲が生まれていった、と。

僕はナゴムレコード(日本のインディーズ・レーベル)の楽曲も好きだけど普通にTHE BLUE HEARTSも好きなんですよね。ストレートってなんだろう? と考えたときに、"シンプルなロックは伝えるのに適しているのでは? そういうのやったことなかったな"と思って。それで弾き語りで作ったのが「チャーハンたべたい」ですね。

-恋愛に限らず親睦を深めるのに一緒に食事をすることは不可欠ですけど、なぜ"チャーハン"なのでしょう。

単純にチャーハンが好きなんですよね。チャーハンは庶民の食べ物でもあり、作るとみんな結構味が違って。意外と個性の出る食べ物なので、人に振る舞うのもちょっと恥ずかしいですよね(笑)。卵をどこで入れるかとか、人それぞれにこだわりがある愛しい食べ物だなと思って。僕みたいな人間の恋愛は"海行くぜ! 祭り行くぜ!"とは絶対にならなくて、趣味が合いますね、映画でも行きますか、出掛けたなら何か食べますか......くらいしかなくて、常に不安(笑)。その小規模さがリアルだったので、生々しい曲になりました。でもまぁ、妄想の曲なんですけど(笑)。

-ははは。『非現実派宣言』は非現実に特化していて。『もょもと』は現実か非現実かはわからないけれど、とにかく生々しいなとは思ったんです。

『非現実派宣言』はネットの世界にいる僕の叫びなんですよね(笑)。でも『もょもと』はこの肉体をもってして、全国を回りいろんな人の前でライヴをしている自分が曲を作ったという感覚がありますね。規模が大きい方がお客さんの反応も見えるし、お客さんがどういうことを考えているのかがわかるようになるんだなー......と思って。そうすると責任感も生まれて、"信じてついてきてくれる人がこんなにいるんだから、俺もちゃんといい音楽で返したい"と、普通にロック・スターみたいなことを考えるようになって(笑)。誠実に音楽をやろうと思ったので、僕の憧れのロック・バンドのアルバムってこんな感じ! というアルバムになりました。

-それを"ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々"の"もょもと"というタイトルにした理由は?

最強の復活呪文を唱えるとプレイヤー・キャラクターがめちゃくちゃ強くなる代わりに名前が"もょもと"になるんですよ。"復活"ということは一度だめになっているということで。僕はずっと挫折しっぱなしだから、最初から最強なわけじゃないところが僕にしっくりくるなと思って。"挫折してる奴が投げるストレート"というのが大事だったんです。すごくストレートをきれいに投げられる人もいるけれど、僕はそういう人の言葉を信用できなくて。普通に投げようと思っても変化球みたいになっちゃう人がど真ん中にストレートを投げているのはかっこいい。僕は本っ当に暗ーい人間なので......そういうことを歌う資格もあるなと思うんです。

-しっかりストレートを投げられる人は、信じられないくらいちょちょいのちょいで投げられますからね。

そうなんですよね。だからこそ、気軽にストレートを投げている人と、僕の投げているストレートはそこに至るまでの決意が違うと思っていて。"挫折してる奴が投げるストレート"が強いと信じて、勇者的な気持ちで作っていました。

-音楽活動が下川さんを成長させていると。

成長するということは確実に終わりに向かっているということなので、いいなと思っています(笑)。僕は終わりのあるものが好きなんです。音楽活動にはライヴがあるので、会場で直接人に向けて発信して、その場で相手からのフィードバックがある。それが自分にとってめちゃくちゃいい影響を及ぼしている。信じてついてきてくれる人がいなかったら、こういう曲は書けなかったと思います。作品を作るごとに怨念めいたものが成仏していって、そのぶんほかの重いものを抱えたりしながら続けていますね。

-今作はロック、ファンク、ダンス・ナンバー、アコースティック、渋谷系、バラードなどなど、挫・人間の音楽のキャパシティの広さと造詣の深さがそれぞれに出ているなと。

じゃあこの曲があるならこういう曲を作ろうかな......という感じで曲を作っていきました。作る曲にジャンルとしてのまとまりがないのはいつものことなので(笑)。ずっと"情報量が多いバンド"、"1回のライヴで受け止められる量じゃない"と言われてきたんですよ。でもやっぱり、酸いも甘いもあるのが本当の人間だと思うんです。音楽の表現方法はひとつじゃないし、面白いと思うものは全部やった方が絶対面白い。同じような曲を入れてもなぁ、という気持ちがあるから必然的にばらばらになりました。捨て曲――っぽいのは1曲ありますけど(笑)。

-「Tee-Poφwy」のことですか(笑)。

あからさまに捨て曲な曲が入ってるのが面白いかなって。爆笑しながら録音しました。あれ、即興なんですよ。

-えっ、そうなんですか。メンバー全員の語りが入っているのに?

メンバー3人が別々に即興で録って、その面白いところをかいつまんで。内容はちぐはぐだし、何言ってんだよ! と思われるかもしれないんですけど、これは普段の僕らのまんまです(笑)。日常会話からあんな感じなので、そういうものが収録できて嬉しいです。

-ちぐはぐなのに一切の違和感なくいびつながら妙にまとまっている。これは仲良しでないと成り立たないでしょうね。

3人は仲はいいですね。ケンカもしないし、音楽的に"お前こうしろよ!"と言うこともほとんどないです。今回はちょいちょいありましたけど。お互いがお互いのことを信頼しているので、それぞれが好きな音を出して、僕も好きなことを書いて。自然ですね。