Japanese
0.8秒と衝撃。
2017年03月号掲載
Member:塔山 忠臣(最高少年。) J.M.(唄とラウド。)
Interviewer:岡本 貴之
何年か経ったときに、"ハチゲキの『つぁら﹆とぅ﹆すとら』の時代面白かったね"という作品になってると思う
-「狂音ミク」(Track.2)はJ.M.さんのヴォーカルにオートチューンをかけているんですか?
塔山:そうなんですけど、オートチューンって一般の人が思っているよりも奥が深くて、同じ"あいうえお"を歌っても、歌うたびに違うんですよ。単純にひとつだけ正解が出るんじゃなくて、全然違うんです。それに言葉の節が長ければ長いほど、途中で変化するところも全然違うから、一番面白いところを繋いでやっていくのはガチで作ったらすげぇ大変なんですね。それを本当にガチで作ったのですごく大変だったんですよ(笑)。どちらかというと録ってみてからのチョイスに時間がかかりましたね。
J.M.:本当にいろんなオートチューンのかけ方の種類があって無限に広がっているから、もうちょっと探求したい気持ちにもなりましたね。
塔山:女性ヴォーカルをリスナーとして聴いたときの安パイなのって、ウィスパーとか、四つ打ちの曲でかわいく喋ってるような力を入れない感じが一番ラクだと思っていて。J.M.さんの声はもともとどちらかというとロリっぽい感じなので、やればできるんですけど、ハチゲキでそれをやるべきではないなと。だからパワフルな音に対してオートチューン感を出すのって理屈的に結構大変なんですけど、テーマとして"狂音ミク"っていうものを立てたから――
-あ、テーマとして先に"狂音ミク"があったんですね。
塔山:そうです、"初音ミクのはとこで、今は女性刑務所に入っている"というテーマです。
-ははははは!
塔山:"初音家からはすごく疎んじられているけど、すごく攻撃的な人"っていうテーマで書いたので、ああいうハード・トラックにかわいい感じで入っているんです。この曲をキュウソネコカミのヨコタシンノスケ(Key/Vo)君がリミックスしているんですけど、これも本当に聴いてもらいたいですね(※TOWER RECORDS初回限定購入特典CD収録)。依頼したときは、"「狂音ミク」!? まさかこれは!?"って驚いてましたけど(笑)。俺もひとりの音楽家としてお願いして、彼(ヨコタ)も俺たちの音楽的な実験に参加してくれたので、すごく良いものができました。
J.M.:リミックスも含めてひとつの作品という気がしてくるというか。もとの5曲でも完成されているんですけど。
塔山:売れるか売れないかはわからないですけど、何年か経ったときに、"ハチゲキの『つぁら﹆とぅ﹆すとら』の時代面白かったね"というものにはなってると思いますよ。
-やはり、後年まで残る作品を作りたいという気持ちが大きかったですか。
塔山&J.M.:そうですね。
塔山:本当はそのときに売れないとダメなんですけど、ファンの子から"久しぶりに取り出して聴いたけど曲がすごく良かった"とか言われるのはすごく嬉しいし、一生懸命作って良かったなと思いますね。ひとりの作り手としては、それがかなりの栄養です。
J.M.:ライヴにいつも来てくれる人たちがいて、あちらが思うよりもたぶん、私はファンの人たちが会いに来てくれることに癒されているんです。ライヴが唯一の自分の癒しになっているというか。これは全然、いつもは言葉にして言っていないんですけど、自分の心にその人たち(ファン)の場所がすごくあるんですよね。
-「饅頭こわい」(Track.4)はタイトルと歌の内容がどうしても繋がらなくて何回も聴いたんですが、結局わかりませんでした。
塔山:俺が昔、デビューする前にレコード会社が主催する、デモテープを聴いてくれるイベントに持っていったことがあるんですよ。すごく良いものができたから持っていったら、その場で褒めてもらえたんです。その流れで俺らをステージに上げてくれたんですよ。そのときにレコード会社の人が"ZTT Recordsとか聴いているんだね、いいね~"とか言ってくるんですけど、俺は"さだまさしとかフォークが好きで"とか全然違うことを答えて。"新宿フォークゲリラとTHE SMITHSの融合を目指してます"って言ったんですよ。その人は"俺の言いたいことが合ってると思うけどみんなどう?"って聞かせたいのに、俺が全然違うことを言ったからすごく引いてたんですけど、それと一緒で"饅頭こわい"ってタイトルだからって「饅頭こわい」に繋がると思うなよ、というところがあるんですよ。
J.M.:あははははは!
塔山:"そんなことより感じろよ"と。むしろ俺がまったく思ってないことを考えてくれた方が嬉しいですね。関連性なんてどうでもいいって思うので。
-なるほど(笑)。結果、これはどういう意味なんだろうってずーっと聴いてしまいましたけど。
塔山:それでいいと思います、結果よりプロセスが大事なんです。......なんかすげぇ適当なこと言ってますけど(笑)。
-"つぁら﹆とぅ﹆すとら"というタイトルについても教えてもらえますか。
塔山:タイトルになっているニーチェの"Zarathustra"は、ニーチェの中でも最後に書いた何部作かの作品で、ニーチェはこの作品を書いて亡くなってるんです。最初のころは商業的にも売れなかったんですけど、今は内容的に評価されていて。今回、売れる/売れないということを1回置いといて、やり切るという意味で0.8秒と衝撃。の音楽として今何を作りたいのか考えて自由なマインドで作った作品なので、ニーチェの歴史を見たときにすごく似てるなと思ったんですよ。一生懸命伝えたいと思って作っていても、広めるという意味ではいろんな要素が必要ですけど、それでもさっきJ.M.さんが言っていたように欠かさずライヴに来てくれる人もいるし、俺が曲の中で注目してなかったような要素を愛してくれて、それを言ってくれる人がいたりするのはすごく嬉しいですし、そこのピュアな部分にはピュアに応えたいですから。さっき言ったように"カルマが高い"んですよね、"Zarathustra"という作品は。本当に当時は売れてなくて、最後は自分の家族にだけ刷って配ったらしいんですよ。でも、今は哲学の世界の中でも1、2を争う名著になっているんですよね。それと同じように、俺たちの作品もあとから聴いて"これめちゃくちゃいいじゃん!"ってなるようなものにしたいなと思って、タイトルをもじらせてもらって"つぁら﹆とぅ﹆すとら"にしたんです。
-J.M.さんが手掛けたジャケットのアートワークについても聞きたいんですが、これまでの作品とは違って単色使いでビビッドなものになってますね。
J.M.:超聞いてほしかったんですよ! 本当はもっとデザインを足していったんですけど、塔山さんがシンプルがいいっていうのでこれにしたんです。
-これは相当目立つと思いますけど。
塔山:そうですよね。いいこと言いました!
J.M.:インナーは私らしくやらせてもらってギラついているんですけど(笑)。今までのジャケットは、かなりカオスなデザインばかりなので、シンプルはシンプルなりの良さがあるなと思って。音源でどんどん無駄をそぎ落としていくと、やっぱりこういう、どシンプルなジャケで良かったのかなと。結果、とてもいい感じになっていて好きですね。
塔山:それと、今回はあえてブックレットに歌詞を載せてないんですよ。その代わり、この作品のテーマに対して俺が短編の物語を書いています。曲を聴くだけでは感じられないようなことを書いてますから、それも読んでもらいたいですね。
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