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INTERVIEW

Overseas

JUSTICE

2024年05月号掲載

JUSTICE

Member:Xavier De Rosnay  Gaspard Augé

Interviewer:山本 真由 Translator:安江 幸子

2000年代以降のエレクトロ・ミュージック・シーンをリードしてきたフランスの2人組、JUSTICEがファン待望となる約8年ぶりのアルバムをリリースした。前作『Woman』(2016年)に伴うツアーやそのライヴ盤の制作、メンバーのGaspard Augéがソロでの制作活動をしているなど、コロナ禍があっても決して停滞していたわけではなく、自身の音楽と向き合う日々を続けてきた彼ら。単に時間の経過というだけでなく、前作から驚くべき変化と前進を遂げた新作について、メンバーのふたりにここ数年の近況も含めて詳しく語ってもらった。

-ニュー・アルバム『Hyperdrama』の完成、おめでとうございます。前アルバム『Woman』のリリースから約8年と、これまでよりだいぶリリース・スパンが長くなりましたが、実際今作の制作に取り掛かったのはいつ頃なのでしょうか?

Gaspard:3年くらい前かな。一見明らかに長いギャップだけど、『Woman』を2016年に出してから2年くらいツアーして、終わった頃には2018年くらいになっていたんだ。あとライヴ盤みたいな感じで『Woman Worldwide』(2018年リリースのリミックス・アルバム)を出して、ライヴ・ショーの映画"Iris: A Space Opera By Justice"も出した。さらに僕はそのあとソロ・アルバム(2021年リリースの『Escapades』)も出したしね。その間のどこかの時点で"さて、スタジオに戻ろうか"という話が出てきたけど、戻ることを決めた翌日にパンデミックになってしまったんだ(苦笑)。それで着手を少し遅らせた。それから、時間をかけてちゃんと作っていきたいというのもあったね。20年間でスタジオ・アルバム4枚、決して慌ただしいリズムじゃないけど、僕たちはこれでハッピーなんだ。共鳴できるものを出せないときに無理に出すのはやりたくないしね。あと、僕たちはアルバムというフォーマットにこだわりがあるんだ。シングルやEPをどんどん出していくタイプではない。僕たちにとって、実験したり、必ずしも商業的にやっていけるとは限らないものを試してみたりするには、アルバムがベストなんだ。自由な空間の中で制約なくやりたいことをやるにはね。

-アルバムとアルバムの間には約8年あったものの、Gaspardが話してくれたように、ツアーもありリミックス盤やソロもあって、その間もずっと忙しかったのですね。Gaspardに質問ですが、ソロ・アルバムを出したことはJUSTICEとしての活動に何かクリエイティヴな影響を与えましたか?

Xavier:その前にひと言いい?

-どうぞ。

Xavier:たしかに僕たちは忙しかったけど、僕の場合は"忙しくないことに忙しい"時期もあったんだ(笑)。

Gaspard:(笑)

Xavier:Gaspardがソロ・アルバムに取り組んでいた間、僕は1年半しっかり休暇を取ったよ。

Gaspard:(笑)

-GaspardがJUSTICEに戻ってきた時点では創作意欲が大いに沸いて、この素晴らしいアルバムを作るに至ったのではないでしょうか。

Xavier:そうだね。Gaspardもミュージシャンとしてさらに良くなって戻ってきたし......その話は本人にしてもらうとして。

-そうですね。Gaspardはソロ・アルバムがJUSTICEにどう影響を与えたと考えていますか?

Gaspard:うまく言えないけど、変なこだわりを取り去ることができたことかなぁ。音楽の一面だけを取り上げるのはフェアじゃないからね。ソロ・アルバムを作ったときに影響を受けたのは、ヨーロッパのライブラリー・ミュージック(TV、映画、CMなどで使われる放送用の音源)や映画のサウンドトラックだった。ある意味そんなにこれまでとは関係ないというか、あまりヨーロッパヨーロッパしていない感じのやつ。『Escapades』を経て、新作のアイディアに繋がったのはいいことだったと思う。

-この約8年の間、音楽シーンにはさらなるデジタル化やAI化など技術的な進歩に伴う変化もありましたが、JUSTICEの制作環境やプロセスに何か変化はありましたか?

Xavier:ある意味ノーだね。世界や音楽の聴き方が変わりつつあると言っても、僕たちの音楽の作り方にはまったく影響していないし、変化に注目もしていないんだ。新しい音楽の聴き方やマーケットの波、トレンドが来ていることは認識しているけどね。一方で僕たちの音楽の作り方は変化している。僕たちは新しいテクノロジーをたくさん使うからね。僕たちの作る音楽は、例えばデジタルのクオリティとか、テクノロジーの発達に委ねられている面もあるから。コンピューターの処理能力が上がれば上がるほど、僕たちも新しいソフトウェアやマシンを使うことができる。だから内側的には変化があるけど、外の世界との関係性で言えば、僕たちはなんら変わっていないよ。

-テクノロジーの変化のおかげで、表現がより豊かになるというのはあるかもしれませんね。

Xavier:そうかもしれないね。JUSTICEの表現の大きな一部になっているハーモニーには、テクノロジーはあまり関係ないかもしれないけど。というのも、僕たちは今でもキーボードやギターで曲を書いているんだ。だけどサウンドもJUSTICEの表現の大きな一部だし、すべてを曲にまとめる部分もテクノロジーに委ねているところが多いね。

以前のインタビュー(※2011年11月号掲載)では、JUSTICEの作曲姿勢はかなり直感的だという話をしてくれましたが、具体的にはどういったプロセスで曲作りをしているのでしょうか?

Xavier:直感以外の作り方を知らないんだよね。音楽理論はまったくわからないから楽譜に書くということもないし。今も自分たちの曲をどうやってプレイするか覚えている途中なんだ。プレイの仕方がわからないからね。理論がないということは、直感で曲を作らないといけないってことなんだ。どの曲も同じで、例えばGaspardが何かアイディアを思いついてそれを弾き始めたとする。そのアイディアを僕が十分に理解できたら、僕が介入していろんなものを投入するんだ。当初の音に僕がどのように肉づけしようとしているかをGaspardが理解できたら、"わかった。今度はこうしてみよう"と言ってくれる。相手がやっていることをこっちが理解できるまでやってもらうことだね。何しろ理解できないとそこから手を入れることもできないし。最初のものも理解できていないうちからやみくもに飛び入りして"ちょっと待って、もっといいアイディアがあるんだ"なんてふうにはいかない。もとの意図がクリアになって初めて提案ができるんだ。スタート地点は曲によって違うけど、最初のいいアイディアを見つけるのがいつも一番難しいね。でもふたりともいいと思えるアイディアが見つかったら、あまり複雑なプロセスではなくなるんだ。時間はかかるけど、何かを組み立てることができるようになる。

-なるほど。では新アルバムについてですが、"Hyperdrama"というタイトルにはどんな意味が込められているのですか? アルバムのテーマについても教えてください。

Xavier:昨夜改めてアルバム全体を通しで聴いてみたんだ。初めから終わりまでね。全体を聴いたのは久しぶりだった。そうしたら、このアルバムが純粋なファンタジーだってことがますますはっきりしてきたんだ。始まったものがどんどん壮大になっていく感じとかね。まるで"AKIRA"に出てくる鉄雄(島 鉄雄)の腕みたいにさ(笑)。最初はただの腕なんだけど、(超能力によって)ものすごい力を手に入れるんだよね。カオスの定義もそんな感じだと思う。進化を続けた先にはこうなるってわかってはいても、その間のあらゆるステップについてはわからないものだよね。......ほら、水の入ったグラスにインクを1滴入れると、それがどうなるかはなんとなくわかるけど、具体的にどうやってそうなるかはわからない、みたいな。このアルバムも、僕はもちろんあらゆるディテールを知っているけど、改めて聴いてみてその展開に驚いたんだ。それはファンタジー、"Hyperdrama"(シーンが分岐していて観客が観る場面を選択できる新たな体験型演劇)だった。未来的で展開が速くてドラマチックで。

-前作『Woman』は80年代~90年代風のクラシカルなディスコっぽさがありましたが、今作はアンビエントでエモーショナル、それでいてファンキーな、より自由度の高いサウンドに感じられました。このようなサウンドの変化にはどんな要因があったのでしょうか?

Xavier:『Woman』はひとつのアイディアに基づいていたんだ。ゴスペルのようなアルバムを作りたいというのがあってね。合唱団を使っていないものも、50人が歌っているような感覚で作ったんだ。僕たちにとってはゴスペル・ディスコ・アルバムといった感じだね。『Hyperdrama』の場合はある意味未来的な音楽を作りたいというのがあった。Gaspardもさっき言っていたけど、ノスタルジーはなかったし、これまでのことを考えていたわけでもなかったんだ。もちろんこれまでの音楽を聴いて育っている身として影響は受けているけど、曲を作っているときにそれは頭になかった。どうすればもっと未来を感じさせる音楽にできるだろうと考えていたんだ。よりデジタルでより未来に結びついた感じにしようと。

-曲そのものが"Hyperdrama"ということでしょうか。

Xavier:そうだね。少なくともレトロではないものを作りたいというのがあったよ。

-今作では幅広いアーティストをゲストに迎えていますね。中でもTAME IMPALAとは2曲コラボしており、先行シングル「One Night/All Night (Starring Tame Impala)」が発表されています(※取材は4月下旬)。どういった経緯でこのコラボレーションが決まったのでしょうか?

Xavier:「One Night/All Night」はKevin(Parker/TAME IMPALA)とやろうと思って作ったわけじゃなかったけど、すごくシンプルなヴォーカルを乗せたいと思ったんだ。初めは短いヴォーカルのループでも入れようと思ったけど、Kevinが「Neverender (Starring Tame Impala)」に取り組んでいたとき、休憩中にお互いのデモを聴かせ合ったんだよね。「One Night/All Night」をかけたら、彼が"あっ、これにいい音が(頭の中で)聞こえてくる。ちょっとトライしてみたい"って言うんだ。僕たちはできるだけ多くのものをトライしたいという考えだから、"ぜひ"と言った。"もともとヴォーカルのループを入れたいと思っていたから、そういう感じで考えてくれないか"と言ったら、"よし、わかった"と言ってくれて、考え始めてくれたよ。そうして彼が思いついたのが魔法みたいに素敵なトップラインだった。"I could be a woman"と歌うところ。

-"I could be your woman~♪"のことですね。

Xavier:僕たちにとってはパーフェクトだった。この曲がインストゥルメンタルだった頃もシンプルで気に入っていたけど、感情をもっと多面的にする必要があると考えていたからね。彼がこのトップラインを入れてくれたことによって、そのちょっと悲しげな歌い方が曲に感情をプラスしてくれたんだ。悲しげでメランコリックな感じで、それでいて力強い。このラインのおかげで曲がガラッと変わったんだ。すごくハッピーだよ。計画してそうなったわけじゃないのに、即座に曲のレベルが上がったからね。僕から見ても、彼は数多くの才能を持っている。素晴らしいライターであり、シンガー、プロデューサー、ミキサー、パーソナリティでもあるんだ。その部類の最高峰にいると思う。作曲のきめ細かさとか。いろいろ使っているわけじゃなくて極めてシンプルなのに、初めて聴いただけで音の精確さがわかるし、まさに伝えたい感情を伝えてくれる。それに彼の歌や曲はすぐに彼だってわかるしね。それが素晴らしいアーティストの証拠だよ(※太鼓判を押す仕草をする)。

-「Neverender」もJUSTICEらしいダンサブルなサウンドの中に、TAME IMPALAの自然体でリラックスした雰囲気が絶妙に交ざり合って、素晴らしい化学反応を起こしたサウンドになっていますね。1曲限りのコラボレーションにならなかったということは、実際に曲を仕上げていくなかでかなり手応えがあったということでしょうか?

Xavier:そうだね。一緒に何かやるのがとても自然に思える相手だった。最初の1時間くらいはお互いのやり方を手探りで覚えていったけど、そのあとは同じバンドで一緒にやっているみたいな感じだったよ。距離も何も関係なかった。まぁ、それは他のシンガーたちにも言えることではあるけどね。知らない人の前で歌うというのはすごいことだと思うんだ。20年一緒にやっているフランス人男ふたりの前でだよ? そこによそ者としてやってきて、そいつらの前で歌わないといけない。悪夢に違いないよ。

-(笑)

Xavier:で、そいつらに曲を聞かされて"どう思う? 何かやってみて"なんて言われたら、文字通り"何かやって"みないといけない。まるで悪夢だよ(笑)! 僕たちにとっていいコラボの始まりというのは、まず僕たちと一緒にいることに心地よくなってもらうこと。いったん心地よくなってもらったら、そこからは自然に展開していくけど、僕たちの間に飛び込んでいくのはとても勇気のいることだと思うし、今回参加してくれた人たちはみんなとても勇敢な人たちなんだ。正直言って僕は同じ立場になりたくないね(笑)。

-(笑)でもよほど心地が良かったのか、みなさん素晴らしい歌い方をしていますね。TAME IMPALA以外にも、THUNDERCATやR&BシンガーのMIGUEL など、今作では幅広いアーティストをゲストに迎えています。

Xavier:まぁ、彼らはとてもプロフェッショナルな人たちだから......。まるで俳優だよ。

-作曲の時点で、コラボレーションするアーティストは決まっていたのでしょうか? "この曲はTHUNDERCATにやってもらいたい"、"MIGUELの声が欲しい"などと考えながら作っていたのでしょうか?

Gaspard:そういうわけではなかったけど、コラボ相手の候補としては頭の中にあったね。彼らの音楽は昔から大好きだったし、とてもユニークなサウンドや才能を持っていると思う。でもまず先に曲を書いてから何人かに聴いてもらって、どの曲が誰に合いそうか意見を募ったり、本人に選ばせたりしたんだ。"そうか、これが好きなのか。じゃあトライしてみようか"なんて言ってね。そういうふうに自然の流れに任せたのであって、誰かを念頭に曲を書いたわけではないよ。

-なるほど。たまたま理想の組み合わせが各曲にあったのですね。

Xavier:そうだね。僕たちがやってもらいたい曲が、たまたま彼らがピックアップした曲だったんだ。必ずしも毎回そうではなかったけどね。THE FLINTSは初め頭になかったんだ。というのもアルバムを作り始めた頃、僕らは彼らを知らなくてさ。まだデビュー・アルバムを作っているくらい新しい人たちで、彼らのことはヴォーカリストを探しているときにネットで知ったんだ。でもCONNAN(MOCKASIN)とMIGUELとTHUNDERCATのことは、いつかは一緒にやりたい相手として、ずっと前から考えていたよ。