Overseas
amazarashi
Skream! マガジン 2015年05月号掲載
2015.04.04 @中野サンプラザ
Writer 沖 さやこ
amazarashiがインディーズ時代の名義"あまざらし"で昨年9月9日にTOKYO DOME CITY HALLで行った"あまざらし プレミアムライブ 千分の一夜物語「スターライト」"。そのアンコール公演が、中野サンプラザで開催された。秋田ひろむ(Vo/Gt)が書き下ろした小説"スターライト"の朗読と初期曲を中心としたストリングスを加えた、アコースティックを基調としたバンド編成でのライヴである。
"もともとアコースティック・ライヴに朗読を入れるというシンプルなものを想像していたが、ライヴの構成を考えているうちに豪華になってしまった"と秋田は『夕日信仰ヒガシズム』のメール・インタビューで語ってくれた。小説"スターライト"も、そのライヴの構成を考えている中で生まれたものだという。
開演前に流れていた催眠効果のあるヒーリング・ミュージック的な音楽が止むと場内が暗転。宮沢賢治が作詞作曲をし、彼の著作である"銀河鉄道の夜""双子の星"にも登場する「星めぐりの歌」が流れる。暗闇の中で輝くステージの背景には、歌詞の内容に合わせて星座や汽車が映し出され、場内はたちまちその世界へと染まっていった。紗幕の張られたステージに秋田とバンド・メンバーが現れると、秋田は下手(しもて)の手前にある椅子とテーブルに着く。ステージに映し出されるのは"情熱、希望なんでもいいけど、僕らはここに居ちゃだめだ"の文字。小説"スターライト"の1章である。秋田は朗読を始めた。その声は、ひと言ひと言発するたびに物語を愛でるようでもあった。彼の声が、小説の景色を我々の頭の中に描いていく。このとき流れていたSEはバンド・メンバーの生演奏。秋田の朗読と、その世界に色を落とすような音色は、会場すべてをたちまち"スターライト"の世界へと連れて行ってしまった。"夜の向こうに何があるのか、トマーゾはそれを知りたかった"――そう語ると、秋田は席を立ち、ステージのセンターにあるマイクの前に立つ。鳴ったのは「光、再考」。ストリングスが彼の歌声をやわらかく包み、そこに豊川真奈美(Pf/Key)の奏でるグランド・ピアノと、キーボード、ドラムが重なる。音は止まることなく、なめらかに緊迫感のあるグランド・ピアノが「ムカデ」へと繋いだ。紗幕には紫のもやが映し出され、ストリングスと共にひりついた空気をより強める。深層心理に働きかけるようだ。ギターがマイナー・コードを指で爪弾き、「空っぽの空に潰される」。ステージの背景に広がっていた夜明け前の空のような色が、徐々にその彩を変えてゆく。弦と弓が擦れる音まで聴こえてくるストリングスには、体温と躍動感が宿っていた。
2章"僕らは一人では駄目だ"の朗読を終えると、秋田はアコギを抱えて真ん中に立ち、「隅田川」を演奏する。豊川と秋田の演奏を前に立たせたアレンジ。2章の舞台は川だったこともあり、よりこの曲が沁み入る。続いて披露されたのは、9月の公演では演奏されていなかった「無題」。とある絵描きの男の人生と愛がテーマになった楽曲である。少しざらついた感触のある秋田の歌声。"信じてた事 正しかった"――最後に彼は何度もこう繰り返す。生きていると何が正しいのか、間違っているのか、わからなくなることや不安になることは多々ある。だが自分を信じるという気持ちは失うべきではないのだと、彼は訴えかけるようでもあった。「さくら」も、彼は我々に向かってひたすら歌声を飛ばす。孤独を歌うことは、人を強く求めることなのかもしれない。こちらに掴みかかるように歌う秋田ひろむを真正面に受けて、そんなことを思った。
amazarashiのライヴといえば紗幕に様々な映像や歌詞が映し出されるのも醍醐味のひとつだが、このアコースティック・ライヴはその演出が極力排除されているのも特徴的だった。照明がステージ上にぶらさがった5つの電球のみだった「ドブネズミ」は、秋田のエレアコと豊川のグランド・ピアノのみで奏でられ、楽曲の持つピュアネスを極限に極める。終盤、ふたりがアイ・コンタクトを取っているのが、紗幕越しでもわかった。その様子がとても自然で素朴であたたかく、美しかった。演奏を終えると、客席からは大きな拍手が起こった。
するとステージの上手に大量のメトロノームが現れた。黒子がひとつひとつそのメトロノームを鳴らしていく。それはまるで、汽車が走る音のように響いていく。朗読は3章"夜の向こうに答えはあるのか"。秋田の朗読の最中に、大量のメトロノームはすべてが同じリズムを刻んでいた。その音に重ねて「つじつま合わせに生まれた僕等」が演奏される。暗闇の中で輝くのはステージの上だけ。いつもは紗幕に世界を作り出すamazarashiが、我々の頭の中にそれを作り出す。ひたすら観客のイマジネーションに働きかける芸術、それを体感できることがとても贅沢で、幸福だった。そして紗幕に歌詞が映し出されなくとも、秋田は強く言葉を伝えることができるヴォーカリストであることを痛感する。「古いSF映画」のあと、ひとりステージに残った秋田がアコギで「カルマ」を弾き語りをすると、彼の周りに炎が灯りはじめる。弦の上を指が滑る音も鋭く、彼の想いが通っていた。
朗読は4章"故郷のヒメリンゴ啄んだ鳥になるか"。物語も佳境だ。センチメンタルの中に爽やかさが宿る「夏を待っていました」から、最新曲「季節は次々死んでいく」の高揚感は見事で、希望に満ちた旅立ちの瞬間のようだった。「美しき思い出」のあと、小説の最終章である5章"いつか全てが上手く行くなら、涙は通り過ぎる駅だ"。現実なのか幻覚なのか、現在なのか過去なのか、主人公トマーゾの混沌とした精神世界が描かれている。"夜の向こうに何があるのか"それを知りたくて彷徨っていたトマーゾが、最後に夜空を飛ぶ列車を見つける。そして最後に秋田がこの台詞をつぶやく――"夜の向こうに何があるのか、トマーゾはそれが知りたかった"。"迷い"の象徴だったこの言葉が、物語の最後の最後で"未来"を目指す言葉に変わった。その言葉に「スターライト」のイントロが重なった瞬間、ずっと頭の中に描かれていた景色が現実化したような感覚、それは最後の最後で報われ、解き放たれたようだった。闇から這い上がろうと、未来を作り出そうとする、願いそのものの音楽。現在のamazarashiは、その願いを現実にする力を持っている。本当のストーリーはこれからなのだ。這い上がった先の、闇を切り開いた先にある眩い未来の中枢には何が待っているのだろうか。秋田ひろむはこの先一体どんな景色を見て、どんな景色を我々に見せてくれるのだろうか――。
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