Japanese
amazarashi
2014.12.24 @渋谷公会堂
Writer 沖 さやこ
クリスマス・イヴの夜、渋谷の街は煌びやかで、渋谷公会堂の前に集まってくる人々もまた、いつもと違う高揚を持っているようだった。これから過ごす時間に、いつもと違う空気を求めていたのかもしれない。amazarashiのフル・アルバムとしては3年振りとなった『夕日信仰ヒガシズム』は、秋田ひろむにとってのひとつの大きな到達点ともいえる豊潤なアルバムだった。それを、amazarashiのホームと言っていいほど、このバンドの歴史に必要不可欠な渋谷公会堂で聴けることに喜びを感じていた人も少なくなかったのではないだろうか。
暗転すると舞台と客席の間に張られた紗幕に、悩みもがく男の影が映し出される。ポエトリー・リーディングの「後期衝動」で幕開けをすると秋田が"青森から来ました、amazarashiです"と、いつになく力強くまっすぐ客席へ声を投げかける。すると間髪入れず「ヒガシズム」へ。詞に合った映像が舞台を包み、その先に深くハットをかぶった秋田と、バンド・メンバーの姿が横並びに見える。紗幕に広がる世界と現実の様子が交錯し、ステージに文字が浮かんでいるようだ。その様子が、amazarashiの音楽と秋田ひろむの言葉が具現化していくように見え、音像と映像のシンクロ率がさらに上がっていることを五感すべてで感じる。「もう一度」では体を揺らしながらギターを鳴らし、パワーが漲る歌を聴かせる秋田。その姿と歌声は"俺はここにいるぞ"と訴えているようでもあり、紗幕を突き破るほどの存在感だった。筆者がamazarashiのライヴを観るのは2013年9月のLIQUIDROOM ebisu以来だが、ここまで彼が観客の中へ飛び込むように音を鳴らすのは初めてだ。幕がある? 顔が見えない? そんなこと正直どうでもよくなるほど、彼がこのステージの中央にしっかりと立っていることを、彼の歌と姿が堂々と証明する。その事実がただただ喜ばしい。
秋田によるポエトリーの導入からミディアム・ナンバーの「風に流離い」。"夢なんて無い 期待してない 無気力の まるで生きてる死体"――歌っている言葉は昔と変わらない。だが昔の彼が歌うのと、今の彼が歌うのとでは、こちらの心への響き方が違う。今の彼には過去の曲に新たな意味と未来を宿していく力があるのだ。バンドによるサウンドスケープも、秋田の歌を全力で支え、より彼の歌もふくよかに響く。そしてそんな彼に触発されてか、徐々に観客の拍手も前のめりになってくる。優しい語り口がストリングスとハーモニーを生むポエトリー・ナンバー「春待ち」は、雪から桜の花びらへと移り変わるような照明の演出も美しく、「さくら」もまた、ひと足早い春を運んでくれる。紗幕全面に映し出された桜の木。バンド5人の姿が、花の中に浮いているようだった。イヴに相応しい壮大な「クリスマス」を披露すると、観客からは拍手とともに明るい歓声も沸いた。
秋田がアコギを爪弾くと、彼の上に青い光が降ってきた。その音色に合わせてポエトリーを口ずさみ、なめらかに「雨男」へと繋げる。このライヴでは、彼の持ち味のひとつであるポエトリー・リーディングがこれまで以上にふんだんに使われていることも特徴的で、より丁寧に聴き手を曲の中へと招き入れるアプローチが、また彼を近くに感じられる理由のひとつになった。そしてこの「雨男」という曲は、止まない雨に曝されていた彼が、土砂降りの雨の中をずぶ濡れでも走っていく覚悟を決めた曲だ。楽器隊もそんな彼と共に歩むため肩を組むように、ひとつひとつ熱のこもった音を鳴らす。変な言い方かもしれないが、本当の意味でamazarashiがバンドであることを身をもって知らされ、その感覚がとても心地よく刺激的で、高揚と感傷で自然と涙が零れてきた。5人の音と秋田の歌と言葉、客席に漂う穏やかな空気、すべてが美しかったのだ。
そこを境に、バンドのグルーヴがさらに研ぎ澄まされる。秋田が気持ちよさそうに体を揺らして歌う姿がとても毅然としていた「ラブソング」は、ピアノの豊川真奈美とのハーモニーもエモーショナルで、ピアノ・ソロのイントロで始まる「冷凍睡眠」もスリリングに迫りくる。「あとがき」は歌詞の押韻もキャッチーに響き、秋田の心がより素直にオープンになっていることを明確に感じた。「ひろ」は5人のスポットライトのみのシンプルな照明だったが、それでも血の通ったぬくもりある音と歌で、こちらを引きつけて離さない。
「それはまた別のお話」のあと、秋田が"ありがとうございました"と言うと、客席からは大きな拍手と歓声が起こる。すると彼は"あと2曲でツアーが終わってしまうと思うと、すごく寂しいです。でもたぶん、今回のアルバムで言いたかったのは、そういうことなんだと思います。終わるのが寂しいから、つらくなったり苦しくなったり、頑張ろうと思ったり......でも、わいたちはちゃんとこのツアーを終わらせて、次に繋げたいと思います"と語った彼は、MCを情熱的なポエトリーへと変貌させ、最後に"あんたの明日に幸あれ"と叫び「ジュブナイル」へ。そのときの爽快感は、全身を閃光が貫くように眩しい希望に満ち、ラストの「スターライト」へ到達するとさらに遠くへ、どこまでも高く高く飛び続けるような力を放つ。喉を枯らして歌う秋田は、最後に再び観客へ"ありがとう"と告げる。その声からは笑顔しか感じられなかった。
彼らがステージから去ると、2015年2月にリリースされるシングル曲「季節は次々死んでいく」が流れた。ひたすら前のめりに突き進む、大きな力に満ちた曲だ。間違いなくこれからもっと、秋田ひろむの作る世界は広がってゆくだろう。こんなライヴを見せられたのだ、"未来は僕らの手の中"と歌う彼のこれからに期待せざるを得ない。この先、秋田ひろむはもっと素晴らしい表現者に、amazarashiはもっと強いバンドになる――そう確信した。
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