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INTERVIEW

Japanese

ドレスコーズ

2023年09月号掲載

ドレスコーズ

Interviewer:石角 友香

物心つくかつかないかの頃の僕の音楽的な記憶――今まででたぶん一番ドメスティックなアルバム


-そして「在東京少年」は「在広東少年」を思い起こさせるなと。

これも80年代的というか、ローザ・ルクセンブルグとか矢野顕子さんを想起させるタイトル。でも音楽的にはROXY MUSICですね。Bryan Ferryの感じ。

-「Same Old Scene」ですね(笑)。

まさにそのまんまですね(笑)。

-「Same Old Scene」と「Tokyo Joe」が同居してる......。

さすが、ご名答です(笑)。歌詞はここ数年の東京の退廃っぷりを腐す内容ですね。坂本(龍一)さんが亡くなる最後まで気にされていたことでもあるし。

-良き東京っていう時代があったかどうかわかんないですけど、だんだん怪しくなってきていますからね。

僕がかつて憧れた東京――そこには信藤さんが手掛けてきた世界も含まれますけど。僕の愛する東京、それをこれからも愛せる自信がなくなっちゃいそうで、非常に腹立たしく思います。

-「罪罪」はJ-POPを感じる曲ですね。

そう。僕が小学生ぐらいの頃のJ-POPという感じ。

-しかもブルース・ハープではなくハーモニカと呼んだほうがいい音色も出てきます。

あの時代、なぜか多いんですよね、Stevie Wonderの「Isn't She Lovely」みたいなハーモニカ。あれをどうしても入れたくて、ハーピストの方にお願いして。あれはどこが原点なんでしょうね。槇原敬之さんの曲とかにもよく出てくるイメージがありますけど。

-「罪罪」に関しては「最低なともだち」の主人公が年齢を重ねていくような印象がありました。

そうですね。何かに対する挫折とか、あるいは裏切られるとか、そういう経験をしてしまった若者の歌。若者が若者じゃなくなる瞬間みたいな感じですね。

-そう考えていくと今回の9曲っていうのは、そのいろんな時代のポップスやロックのエッセンスを含んだ架空の物語とも言えそうですね。

そうですね。僕の潜在的な音楽遍歴、物心つくかつかないかの頃の僕の音楽的な記憶という感じがありますね。僕が今までに作った作品の中でたぶんこのアルバムが一番ドメスティックというか。

-アルバムの実質ラスト・ナンバーの「式日」についてもお聞きしたくて。ここまでの流れの中では、この曲の主人公は面倒臭い青春を引きずってる、そういう人を描いている感じがしたんですよ。

たしかにね。歌詞を読むだけでも"おもたげ"、"憎んだ"、"離してもくれなかった"、"わずらわしくて"、"足枷"......青春に対して酷い言い様です。

-後半は明らかに年齢を重ねていくっていうことに関して書かれているし。

この「式日」はアルバム制作のわりと初期、「最低なともだち」と同じ頃に歌詞だけができていて。信藤さんに加えて、その直後にHi-STANDARDの恒岡(章/Dr)さんが亡くなられたこともすごくショックで。そのニュースを知ったときにたしか書いたんです。たぶんこれがアルバムのテーマになるだろうなと思いながら書いた気がします。そのときはまだ"式日"じゃなくて、"晩年"というタイトルだったんですけど。"今日が僕の晩年の始まり"という書き出しで......。

-最後に"はじめての 式日"という歌詞があって、どなたかのお葬式でかつての友達に会うような感覚がありました。

あぁ、もちろん僕が正解不正解を出すものではないですが、でもその解釈はとても正しい気がします。

-今のお話を聞いて、やりきれない気持ちにも種類があるっていう感じはしました。

そう。Hi-STANDARDって僕らにとって初めてリアルタイムで立ち会えたムーヴメントを引っ張ってきたバンドで。彼らはまさに僕らの青春の象徴で、それにふさわしいスタイルとマインドを持っていたじゃないですか。そこに死みたいなものが介在する余地なんかなかった。そのニュースを聞いたときに、初めて僕らの世代に死の照準が合ったというか、ふいに死と目が合った気がした。死がサーチライトのように、生きている人々を端から照射していく、ついにそれが自分の近くの者までを照らし始めて、"このまま僕らが照らされる"っていうのが直感的に理解できてしまったというか。

-その照準の合った感じっていうのは、いろんな人が感じてたこの半年ぐらいの......。

うん。

-感覚の中でも一番大きなものですね。

ね。そう言っていただけて、なんだかホッとしました。このアルバムの根底にあるのは、個人的な悲しみと言うより、この半年に僕らが味わった巨大な悲しみっていう気が僕もしてて。

-このアルバムはもしかしたら日本人全員の課題作品かもしれないですね。

光栄なお言葉です。

-若い読者の人とかどう受け取るのか。

ね。君たちはどう生きるか(笑)。

-若くても、人生で何かすごく自分が影響される音楽とかアートに出会った人はみんなわかる感覚だと思います。

そう。好きなものが増えるって、そういうことなんですよね。会ったこともないのにすごく好きな人、友達でも親でも恋人でもない、とても大事な人ができるっていうこと。好きなものが増えるとやっぱり、悲しいお別れも増える。

-でも好きなものはないよりあるほうが絶対豊かなので。

そうそう。うん。それについてのアルバムですね。