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INTERVIEW

Japanese

キタニタツヤ

キタニタツヤ

Interviewer:真貝 聡

-そして表題曲にもなっている「スカー」は、TVアニメ"BLEACH 千年血戦篇"のオープニング・テーマですね。

藍染惣右介が"勇気"の概念について語るシーンがあって、そこが大好きなんですよ。強大な敵とか、仲間が死んだこととかいろんな怖いことがあって。みんなが怯えつつも最終的にそれを克服じゃないけど、その恐怖と付き合いながらもう1回立ち上がって歩いてみる。そういうところも"BLEACH"のコンセプトとしてあると僕は思ったのと、今まで自分が歌ってきたことともシンパシーを感じるポイントだったし、結局「タナトフォビア」とかと言ってることに大差ないというか。いつか人間は死ぬ、それはめちゃくちゃ怖いけど、そこから逃げも諦めもせず、ちゃんと向き合いながら"死ぬまでは生きようね"ということなんです。「タナトフォビア」のパラフレーズみたいなところでもあるんですけど、やっぱり"千年血戦篇"という、みんなが待っていた作品の幕開けの曲だから、そこはちゃんと勢いが欲しい。「タナトフォビア」で魅せているのはちょっと冷笑的だったり諦めっぽかったり、ニヒルな言い方をしてるんですけど。そうではなくて、同じ内容でも勇敢な言い方で表したかったんです。この曲を聴いた人を鼓舞するようなフレーズを選んで作っていきましたね。

-サウンド感としては、かつて組んでいた3ピース・バンドの羊の群れは笑わない。の雰囲気を感じました。

ハハハ、よくご存知で(笑)。まさに自分の中で原点回帰の曲だったので、ギター・ロックをもう1回ちゃんとやろうと思ったんです。というのも、小学生のときから日本のギター・ロックが大好きなんですよ。ただ、最近はそういう音楽をポップ・シーンでも見ることがないし、自分も最近はあんまり聴いてないし、作ってもないなと思っていて。そんななか"初心を思い出してもう1回ちゃんと歩き出そう"というのは曲のテーマとも合っていて、且つ、そういう曲を作りたかったので、ギターがうるさくて他の楽器があまり鳴ってないバンドサウンドの曲。速くて最高! みたいな音楽をやりたかったです。

-サウンド面でこだわったのは?

僕がこういうタイプのロックを一番聴いていたころって、平たく言えばドンシャリなんですけど、それを今やるのは嫌だったんです。なぜなら今やっても受け入れられないし、現在の自分はそんなに好きじゃないかもしれないと思って。ちゃんと中音域の温かみが出るようにしたかったんですよ。昔だったらドラムのスネアが"スパーン!"って長く鳴って、鉄を叩いてるような音が好きだったんですけど、今回の「スカー」のスネアは"パスっ!"ってピッチが低くて音が短いけど、中低域に腰があるような音。だから、やっていることは昔を思い出すようなことでも、ちゃんと音は今のものにしたかった。原点回帰なところもありつつ、最新の音楽にアップデートした作品ですね。

Twitterの情報で恐縮なんですけど、先日ご自身のアカウントで"おれは今のところ「一生音楽作るっしょワラ」みたいな気持ちだけど35になってなんも作れんカスになるかもしれんし、先が怖い瞬間が多々あるよ でもおれはスカーの詞を書いた..."とツイートされていましたよね。あれってどういうことだったんですか?

僕はボカロ界隈の出身じゃないですか。それもあってVOCALOIDのランキング形式の大会を面白がって見ていまして。それが好きなことをファンの人も知ってて、あるときファンのひとりから"友達がボカロPをやっているんですけど、ランキングでも上のほうに行けないし、曲をみんな聴いてくれないからやめちゃうそうなんです。最後にキタニさん、その子の曲を聴いてあげてください"みたいなDMがInstagramのアカウントに届いたんです。

-すごい話ですね。

やめると決めているなら、俺が言うことは何もないなと思ったんです。ただ今後、大学生くらいの才能ある若い子が、もし将来同じような理由で音楽をやめたら怖いと思った。バンドもやっていたから、バンド・シーンでも一緒にやっていた人がどんどんやめちゃったり、ボカロをやっていても大学生から就職するタイミングで音楽を作らなくなったりした人もいた。最近だと30歳手前になってきて、メジャーで活動してきた人も活動休止だの解散だのするようになってきて。やっぱり、この業界は一緒にいた人が年々いなくなっていくんですよね。

-芽が出ないし、ここらへんでやめておくかっていう。

でも今って個人で音楽作るのなんて、金がなくてもメジャーに入っていなくても全然できるわけじゃないですか。YouTubeに上げればいいし、無料で曲を聴いてもらえるんだから、働きながらでも3ヶ月に1回作るなら全然やれるわけで。昔と違って音楽って一生付き合える簡単なツールになったんですよ。それなのにやめてしまうのは、本当にもったいない。"今の時代に音楽をやめるのは時代遅れすぎるぜ"と思うので、それをちゃんと言いたかった。僕だって何回も"あぁ、俺の曲は全然聴いてもらえない。全然視聴回数も伸びないしクソだ"みたいに思うことがあったけど、結局自分が好きでやってるわけで。伸びないと思っていても、自分はその曲を愛してあげてるわけじゃないですか。誰にも愛してもらえないぶん、自分だけはその曲を信じて"とりあえず、次はもうちょっとこうしたら聴いてもらえるかな?"の繰り返しで、今やっと"BLEACH"の曲をやらせてもらえるまでになった。で、そういうテーマの曲を書いたタイミングというのもあり、ここらでいっちょ若者たちに言いたいことを物申してみようと思って、あのツイートをしたんです。

-めちゃくちゃいい話ですね。というか、本当にハマっていますね。作品もそうだし、キタニさんが今思っていることもパッケージされている。

やっぱり、基本は今思ってることを歌にしているんですよね。だから10年後ぐらいに「スカー」を聴いて"そういえばあんなツイートもしたし、あのころはみんなやめていて本当に寂しかったんだな"みたいなことも思い出せると思うんで、ちゃんとそのときの嘘偽りない気持ちを歌にするのは大事だなって。言うなれば日記帳ですよね。それぐらい"BLEACH" は人生において大切なことが詰まった作品ということです。

-今回は"BLEACH"のために書き下ろした楽曲が並ぶなか、「永遠」という新曲が入っていますけどこれは?

「スカー」と「永遠」ともう1曲あるんですけど、その3曲をオープニング用に提案して、久保先生が"これがいい"と選ばれたのが「スカー」だったんですよ。僕の中では「スカー」が一番自信がない作品だったんですけど、アニメのオープニング映像がついたときに"久保先生はこういう理由で「スカー」にしたんだ! この曲が一番いいじゃん"となったんですよ。とはいえ「スカー」は自分の趣味全開なんですけど、「永遠」は今のトレンドを踏襲したうえで自分が出したい音として、すごくうまくいっためちゃくちゃ気に入ってる曲で。だけど"BLEACH"のために作ったから、今さら歌詞を変えて別の歌にして、いつか出そうとかもできない。それに「スカー」をシングルとして出すのはちょっと嫌だったというか、ちゃんと小さいアルバムみたいな感じで出したかったから、じゃあ「永遠」という曲を入れて、自分が伝えたいメッセージを補強しようと思って入れましたね。

-音のスケール感が広くて、ダイナミズムな楽曲ですよね。

映画の"グレイテスト・ショーマン"という作品がすごい好きなんですけど、作中に「The Greatest Show」という曲があって、サウンド的にはあれをやりたかったんですよね。超大人数が足踏みをするストンプって聴いていて気持ちいいし、自分が強くなった感じになるというか、心が躍るじゃないですか。それをやりたかったんですよね(笑)。いろんなところから足音のサンプルを引っ張ってきて、重ねまくったら膨大なトラック数になってしまいました。

-終盤"僕が愛したこの世界に、永遠など望みはしない"のところで、クラップになるのもすごくいいんですよね。

そうそう! アカペラみたいになるんですよね。

-楽曲の持つ荘厳さが一気に広がった感じがしました。

"みんな俺についてこい"感というか、ステージの上にいる感じを出したかったので、みんなに歌ってほしいですね。

-音の情報量もメッセージもとてつもなく密度の濃い作品になりましたけど、キタニさんの中でどんな1枚になりましたか?

先ほどもお話ししたとおり「永遠」も「タナトフォビア」も「スカー」も同じことをずっと言っていて、自分の中の人生賛美みたいなことなんですよね。生きることは素晴らしいし、死を選ぶ決断も僕はあんまり否定したくはないですけど、でもこっちも楽しいよっていうか。生きることの喜びを、全部味わい尽くしてからにしない? みたいな、1枚通してそういうメッセージが詰まったCDになったと思います。これを聴いて強い気持ちになってもらえたらいいですね。