Japanese
キタニタツヤ
Skream! マガジン 2021年12月号掲載
2021.11.22 @USEN STUDIO COAST
Writer 秦 理絵 Photo by 後藤壮太郎
全20曲の"命のパレード"と、そんなふうに呼びたくなるライヴだった。空気を震わせる重低音のビートはパレードの隊列が刻む不気味な足音のように。ギターやベース、ピアノ、シーケンスは心に蠢く感情の渦のように。そして、キタニタツヤの歌は人生という逃げ場のないパレードの重圧に押しつぶされながら叫ぶ慟哭のように。ステージで演奏されたその一曲一曲がくっきりと人間の輪郭を持ったライヴだった。今年8月にリリースしたシングル『聖者の行進』をタイトルに冠した、全国7ヶ所のワンマン・ツアー。そのファイナルを飾った新木場USEN STUDIO COASTだ。
オープニングSEに乗せて、秋好(Gt)、齋藤祥秀(Ba)、Matt(Dr)、平畑徹也(Key)というお馴染みのサポート・メンバーが登場すると、最後にキタニがステージに現れた。1曲目は、最新アルバム『DEMAGOG』からの「ハイドアンドシーク」だ。鋭い四つ打ちのビート。ダークなバンド・サウンドが、一瞬にして会場を重々しく退廃的なキタニタツヤの色に染めていく。間髪入れずにスカ風の賑やかな狂騒が暴れた「Ghost!?」へ。長い手足を躍動させ、全身でメロディを紡いでくキタニは、時折バンド・メンバーに視線を投げ掛け、その演奏に身を委ねる。その立ち居振る舞いは、この会場で一番ライヴを楽しんでいるのはキタニ自身じゃないかと思えるぐらい無邪気で自由だ。
エレキ・ギターを持ち、ぐっとテンポを落とした「Cinnamon」からはアーバンでメロウなナンバーが続いた。ジャジーな「白無垢」ではしっとりとした空間を作り上げ、照明の光がコースト(USEN STUDIO COAST)の壁に水泡のような模様を描いた初期のバラード曲「記憶の水槽」では、柔らかなサウンドに乗せて棘のように残る恋の痛みをメロディアスに歌い上げた。このタームの楽曲は、満たされない愛と孤独がひとつのキーになっていた。"ツアー・ファイナル、我々は一段とムキムキになって、パワーをつけて帰ってきたので、最後まで全力で楽しんでください"そんなMCで意気込みを伝え、「Stoned Child」では執拗にループするリフが言いようのない酩酊感を生み出すと、圧巻の景色を作り上げたのは「クラブ・アンリアリティ」だった。巨大なミラーボールが放つ光が会場をダンス・フロアに変え、お客さんが腕を大きく左右に振ると、キタニは"みんな、ありがとう!"と最高の笑顔をのぞかせた。
秋好と平畑、キタニだけがステージに残り、アコースティック・コーナーでは、TikTokで公開されたセルフ・カバーでも話題になった「人間みたいね」が披露された。少しずつ楽器の厚みを増しながら届けられた歌は、ダンサブルな原曲とは趣が変わり、ぐっと人間臭さが浮き彫りになる。そのままの編成で英語と日本語詞を滑らかに織り交ぜた「Sad Girl」へ。愛されることへの執着を暴き、人間を"動物的な生き物"として表現するキタニの歌は、人の本性を悲しいほど醜く美しく炙り出す。
暗転ののち、歪んだギターが口火を切った「デッドウェイト」からは一転して骨太なバンド・サウンドによるダーク・ゾーンに突入した。妖しげな照明がステージを不気味に染め、おどろおどろしい重低音と共に言葉を捲し立てた「夜がこわれる」に続き、強い光が降り注ぐなかで救いを求めた「I DO NOT LOVE YOU.」へ。鍵盤の平畑は含めず、齋藤がシンセ・ベースを弾くというイレギュラーな編成は剥き出しの荒々しさが際立つ。暗闇の中で苦役のダンスを強いられるような「悪夢」まで行き着いたところで、"行こう!"と力強く煽った「逃走劇」は、聴き手を、ここではないどこかへと導いていくようなキタニタツヤのヴォーカリストとしての求心力に息を呑む瞬間だった。両手できつくマイクを握りしめ、全身で歌を振り絞り、目の前にいるお客さんを"共犯者"に仕立てあげていく。
この日のライヴは"逃げること"がひとつのテーマだったように思う。1曲目の「ハイドアンドシーク」で、"逃げきれなくなった僕ら"の葛藤から幕を開けたライヴは、享楽を"逃げ場"にする「Stoned Child」や「クラブ・アンリアリティ」を挟み、崖っぷちで踏みとどまる人間の姿を次々に描く。そういうライヴの最終盤で披露されたのが「逃走劇」だった。その"逃げ場"は、未来だと、私は思った。
"「Rapport」(読み:ラポール)という新曲をやります"そう言って、レーザーの光が激しく交錯する中で新曲が初披露された。初期作にも通じる爆発力のあるロック・ナンバーだ。訳すと"信頼関係"を意味するこの歌について、のちのMCでキタニは、今回のツアーを通じて自分がどんな音楽をやりたいのか、どういう人間なのかがわかってきたと振り返り、"誰かとの対話を通して本質的に自分をわかっていく。誰かとの関係を大事にしようっていう曲です"と説明した。
"あっという間だな。俺の曲全部いいからな(笑)"と名残惜しそうな表情を浮かべながら、残り2曲を残して長いMCを挟んだ。昨年8月のメジャー・デビューについて、"念願が叶ったその年がご時世的にはろくでもない年だったんだよね。こんな理不尽あるのかよって俺は思った"と切り出すと、それでも、"『DEMAGOG』っていうアルバムを作ったときに、音楽の力を借りながら、ちょっとずつ前を向く方法がわかった。立ち止まってくよくよしててもしょうがないから。俺たちに残された道は、元気に生きろ、というわけじゃないけど......元気に生きられなくても、とりあえず前を向いていくしかないんだなって。そういう選択肢しかないんだなって"と、コロナ禍に抱いた心の逡巡を明かした。そして、"これからも俺の曲と、あなたたち自身を愛していけますように"と、温かなピアノの伴奏を織り交ぜて祝祭感を生んだ「君のつづき」、"今までの曲の中で一番前を向いて素直に希望と祈りを込められた"という「聖者の行進」の2曲を続けて披露して本編を締めくくった。心を熱く鼓舞するようなアンサンブルの中、渾身のヴォーカルで歌を届けたキタニの姿は、"悪魔"がいることは百も承知で、それでも"生きたい"と叫び続ける人の足掻きそのものだった。
アンコールでは"あー、本編おわった、気持ちいい!"とハイテンションに登場すると、ベース・ヴォーカルのスタイルで「泥中の蓮」を演奏した。本編ではほとんどの曲でシンガーに徹するキタニだが、アンコールだけはベーシストとしての側面も見せる。真っ赤な照明を浴び、キタニのエモーショナルなヴォーカルに感化されるようにサポート・メンバーの演奏も熱を帯びた「悪魔の踊り方」まで、全20曲。一瞬たりとも目を逸らせないライヴは深く熱い余韻を残して幕を閉じた。
本編のMCでキタニが、"世の中っていろんな理不尽に満ち満ちていて、クソほどどうしようもねぇっていうときがたくさんあるけど。みなさんが背筋を伸ばして美しく生きられるように歌ってるから"と、自身の歌う意味について伝える場面があった。"理不尽"と戦い続けるキタニタツヤの音楽は、同じ時代、同じ世界で生きていることを感じられるからこそ、そこに希望を感じる。キタニもまた、私たちと同じ"命のパレード"の一員なのだ。
[Setlist]
1. ハイドアンドシーク
2. Ghost!?
3. パノプティコン
4. Cinnamon
5. 白無垢
6. 記憶の水槽
7. Stoned Child
8. クラブ・アンリアリティ
9. 人間みたいね
10. Sad Girl11. デッドウェイト
12. 夜がこわれる
13. I DO NOT LOVE YOU.
14. 悪夢
15. 逃走劇
16. Rapport
17. 君のつづき
18. 聖者の行進
19. 泥中の蓮
20. 悪魔の踊り方
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